開業1周年「宇都宮ライトレール」の未来と課題

開業1周年を迎えた宇都宮LRT(筆者撮影)

栃木県の宇都宮市と芳賀郡芳賀町の全長14.6kmを結ぶ軌道路線「宇都宮芳賀ライトレール線」は、2024年8月26日に開業1周年を迎えた。

利用者数は400万人を突破

開業からの利用状況は、想定されたものよりもはるかに多く、観光や沿線住民の足として順調に運用され、2024年7月2日には利用者数の累計が400万人に到達した。

宇都宮芳賀ライトレール線の目的は、宇都宮市や芳賀町が協同で推進している「ネットワーク型コンパクトシティ」の形成で、少子高齢化が進む中、未来へ持続可能な公共交通として導入されたものである。

【写真】利用者数が累計400万人を突破。 開業1周年の「宇都宮芳賀ライトレール線」の車両と沿線(13枚)

そこで、先日現地に訪れ調査した内容をお伝えする。宇都宮に訪れた日は、蒸し暑い空気と照りつく太陽が降り注いでおり、気温は30度以上。熱中症対策を施しての取材だった。

宇都宮駅の連絡デッキを降りると、イエローの車体が眩しいHU300型が、冷房を効かせながら待ち構えていた。青空に、流線型のイエローの車体が映える。見入ってしまうほど素敵な車体だ。

宇都宮芳賀ライトレール線は、開業初日から好調な出だしで、当初は始発駅でも混雑状態。乗車することが難しく、1本列車を見送ってから乗ったほうがいい。と思われるほどだった。

その人気ぶりに、2023年10月23日に朝の時間帯、一部列車の時刻変更、夜間時間帯の増発を行うなど、ダイヤ改正を実施した。その後も、2024年4月1日に快速列車を誕生させ、大規模なダイヤ改正を実施している。開業後1年も満たないうちに、大小複数回もダイヤ改正を行うのは、異例の対応といえるだろう。

そこで、宇都宮芳賀ライトレール線の運転など事業運営を担う、宇都宮ライトレール経営企画課の担当者に、快速運行や停留場など施設面について聞いてみた。

――平日のラッシュ時間帯に快速運行があるが、今後拡大していく可能性はあるのか。

「ありがたいことに朝のピーク時間帯は多くのご利用があり、直近の7月22日にもダイヤ改正を実施しました。今後も利用状況を見極めながら、快速運行の拡大についても検討していきます」

――利用者が非常に多いが、停留場やホームの清掃などは、どのように行っているのか(清掃スタッフの有無、管理についてなど)。

「停留場の清掃については、当社宇都宮ライトレールが担っており、巡回での軽清掃に加え、外注による清掃を、定期的に行います」

他交通との連携はどうなっているか

ラッシュ時間帯は、宇都宮駅から芳賀・高根沢工業団地へと向かう通勤や、通学の利用が多く、昼間の時間帯は、宇都宮市街地へ買い物に出かける利用も多い。宇都宮駅周辺と平石停留場の輸送は、市内を回遊する観光客にも好評で、一日乗車券(大人1000円)を使用して、乗り降りを楽しむ人の姿も、よく目にする。

では、この宇都宮芳賀ライトレール線の目的の1つである、他交通との連携はどのように行っているのだろうか。まずは、芳賀町付近の交通事情を、軌道整備事業者である芳賀町企画課みらい創生係の担当者に聞いてみた。芳賀・高根沢工業団地からの交通について、街と協議をしてコミュニティバスやデマンド交通の予定はあるかという点には以下のような回答があった。

「芳賀・高根沢工業団地からの交通については、現在宇都宮ライトレールとの協議により、コミュニティバスやデマンド交通の導入を検討しているものはないが、LRT開業に伴うバス路線の再編を実施した際、『芳賀工業団地循環線』という循環バス路線を新設し、ジェイアールバス関東に運行いただいています」

現行の芳賀町のデマンドタクシー(ふれあいタクシー「ひばり」)については、町内全域を運行エリアとし、工業団地周辺からの利用も可能で、地域全体をカバーしている。しかし、芳賀・高根沢工業団地のトランジットセンターは、宇都宮芳賀ライトレール線の停留場と、片側2車線の大通りの交差点を挟んだ向かい側にあり、雨の日や高齢者の移動などを考えると、あまり便利な場所とはいえない。今後は、これら2つをつなぐ案内や、人道の確保が必要になってくると考えられる。少し大掛かりになるが、地下通路の新設なども検討の余地があるかもしれない。

また、ジェイアールバス関東の作新学院高校・JR宇都宮駅と茂木町を結び、途中、芳賀・高根沢工業団地のトランジットセンターを経由し、真岡鐵道の市塙(いちはな)駅を結ぶ路線に関しても、一部区間をコミュニティバス化することによって、地域住民の交通に対する意識が向上され、よりよい交通体系ができることを、期待したいところである。

マイ・レールという位置付けが、周辺の交通環境を活性化させ、地域全体の経済効果を生むことは、宇都宮芳賀ライトレール線の宇都宮市側で、すでに実証済みだ。今後は芳賀町側でも、よい相乗効果が出ることを期待したい。

さらに、宇都宮芳賀ライトレール線の駅西側への延伸については、宇都宮駅東口から教育会館付近までの区間を整備区間とし、2030年代前半の開業を目指して、各種検討を進めている。

今後の展開などについて、同じく軌道整備事業者である宇都宮市LRT整備課協働広報室の担当者にも話を聞いた。

――宇都宮駅から西側の整備について、工事着手までの今後の見通しは。

「2025年度の軌道事業の特許申請、2030年代前半の開業を目指し、現在、大通りの道路空間再編などについて検討し、道路管理者などの関係機関との綿密な協議・調整や、まちづくり関係団体との丁寧な意見交換を実施しているところです。引き続き、早期に駅西側の整備に着手できるよう、取り組んでいきます」

――清原地区市民センター前での乗り換え(フィーダーバス)の整備など、今後の展開など、どのように考えているか。

「宇都宮芳賀ライトレール線の開業と合わせて、宇都宮芳賀ライトレール線と重複するバス路線の車両や運転手などを最大限活用し、バス事業者と協議・調整を行いながら、清原地区市民センター前のトランジットセンターを起点とする、フィーダーバス路線として、工業団地内を循環する清原工業団地内循環線や、清原台とゆいの杜方面を一体的に循環する清原台・ゆいの杜循環線のほか、芳賀町内や赤羽工業団地を経由し、市塙駅までを結ぶ市塙・赤羽工業団地線を新設したところです。引き続き、利用状況の調査・検証を進めるほか、7月から宇都宮芳賀ライトレール線とバスの連絡定期券の購入支援を開始するなど、より多くの方に利用していただけるよう、利用促進にも取り組んでいきます」

沿線にトイレが足りない

宇都宮芳賀ライトレール線の施設面について、少し気になる点がある。それは、停留場のトイレ問題だ。全線の所要時間が40分ほどだが、停留場のトイレというと宇都宮駅東口と清原地区市民センター前の2カ所しかなかったが、7月29日に平石と飛山城跡にも、多目的トイレの設置を完了した。今後はほかの停留場でも、トイレの新設を進めてほしいと思う。これは女性のみならず万人の利用者に対して、より優しい取り組みとなるはずだ。

宇都宮駅西側の整備も進めていくうえで、バス路線の再編や新たなトランジットセンターの新設など、これから先も交通の利便性が確保された街として、今後も宇都宮芳賀ライトレール線を通じて、宇都宮市・芳賀町のさらなる発展を、心から応援したい。

(渡部 史絵 : 鉄道ジャーナリスト)

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