「臭い」「暑い」「疲れる」 タクシーの「車内デザイン」は本当に今のままでいいのか?

タクシー車両の変革と未来

タクシー(画像:写真AC)

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 タクシーの車両は、以前はセダン型が主流だった。前の助手席にひとり、後ろに3人の計4人が乗れるスタイルで、荷物は主にトランクに入れる形が一般的だった。

 しかし、

・トヨタ:コンフォート、クラウンコンフォート
・日産:クルー、セドリック

などのタクシー専用車両は、次第に販売が終了し、2018年以降はタクシー専用の内装的特徴、

・シンプルなデザイン
・経済性重視の車内
・乗客の快適性と運転手の利便性のバランス

を持つセダン型車両自体が生産されなくなった。

 これにともない、高齢者や障がい者の増加に対応するために、トヨタがユニバーサルデザインタクシー用のトールワゴン型としてジャパンタクシーを導入した。最近、皆さんも街中でこのワゴン型の丸みを帯びたデザインのタクシーを見かけるだろう。それがジャパンタクシーだ。

 ただし、ジャパンタクシーは庶民的なイメージが強く、VIP対応には向かないという声も多い。そのため、タクシー事業者のなかには、3ナンバーの高級セダンや高級ワゴンを一部導入して、用途に応じて使い分けを行うところも増えている。

タクシー車両の三大不満点

タクシー(画像:写真AC)

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 今のタクシー車両には

「乗客の快適性の欠如」

という問題が多く指摘されている。特に、多くの車両を調達している民間のタクシー事業者の知人たちと話をすると、乗客からの主な不満が三つある。

・座席が硬くて疲れる
・空調が効かない(特に冷房が効かないという意見が多い)
・臭い

という点だ。「臭い」については、高齢の運転士が増えたことによる

・体臭や口臭等の加齢臭
・整髪料の臭い
・喫煙後の臭い

などが耐えられないと感じる乗客が多いという意見が意外にも多い。

 また、ピーク時には車内の清掃状況や衛生管理に問題が生じることもある。さらに、ユニバーサルデザイン型のジャパンタクシーでも、車両の寸法を小さくしているため、車いすの乗降に時間がかかるという声も依然として根強い。

今後の四つ課題

タクシー(画像:写真AC)

タクシー(画像:写真AC)

 生活者のニーズにどう答えていくか、筆者(北條慶太、交通経済ライター)は今後の課題として四つの点を考えた。

●個の意識への対応
 筆者は先日、当媒体に「率直に言う 零細タクシー会社が生き残るためには「乗り合いサービス」「子育て支援」が必須である」(2024年7月26日配信)という記事を書いた。そのなかで、今後のタクシー業界にはデマンド型の乗り合いサービスや個別のニーズに対応する必要があると訴えた。地域のバス輸送が衰退し、タクシー車両を通常営業以外にもデマンドや乗り合いで活用するニーズが増える。行政も関わる形で、コミュニティーバスをコミュニティー乗り合いタクシーに転換する動きも見られる。車両のサイズや種類によって異なるが、

・ひとり用シートの並列
・座席間の可変式の仕切り(新型コロナ等のウイルスを気にする方への対応にもなる)
・冷暖房通風孔での寒暖調整

などは今後必要になるだろう。バスの設計思想をタクシーのインテリアにも取り入れる形が期待されている。

●介助や子育てに対する配慮
 デマンド型の乗り合いタクシーを利用する子育て中の親が増えている。乗り合いだと運賃が安くなり、自治体が子育て支援の一環として推奨するケースも多い。ベビーカーを収納できるスペースや、座席の仕切りを外して椅子をスライドさせ、幼児と一緒にゆったり座れる機能があると便利だ。これは介助が必要な人への配慮にもつながる。

 現行のタクシー車両では、大きな車いすやベビーカーの収納が難しい。また、座席の仕切りを取り外し、椅子をスライドして高齢者や障がい者に寄り添える機能も必要だ。ポイントは「可変性」である。

・ひとりで利用する際の個人スペースの確保
・子どもや高齢者、障がい者と寄り添うスペースの確保

が重要だ。こうしたニーズに対応する可変式のシートは、今後ますます需要が高まるだろう。

●観光支援と生活支援の両立
 2024年から関西電力が神奈川県箱根町で、人工知能(AI)を活用して複数の利用者の乗降場所を最適に調整し、効率的に運行する相乗り移動サービスをタクシー会社と協力して始めた。これは主にインバウンド観光のニーズに応えるものだが、取材によると、他の自治体では観光用のAIデマンドサービスを生活利用者にも対応させることを検討する地域が増えている。

 通常、デマンドサービスではトヨタのハイエースなどバン型車両を使用することが多いが、観光と生活の支援を組み合わせることで、より効率的かつ効果的な運行が期待されている。例えば、朝や夜は生活ニーズを優先し、日中は観光客を中心に運行するなどの使い分けが可能だ。また、観光や生活を支援するための地域情報を提供する設備(モニターやQRコードでアクセスできる情報、Wi-Fi)も今後重要な機能になるだろう。これにより観光地の情報や、生活者向けの

・病院の混雑状況
・行政関連情報
・スーパーのお得情報

なども提供できるようになる。

●車内での過ごし方の多様化
 空港タクシーなどではテレワークのニーズにも対応できる環境が求められている。前述のWi-Fi接続や充電設備の整備は、ビジネス利用にも役立つだろう。さらに、通学でタクシーを乗り合いで利用するケースも増えており、移動中に学生が学習できる環境も必要だ。こうした個人の業務や学習にも対応でき、効率が上がる空間デザインがこれから求められる。

2045年のタクシー新常識

タクシー(画像:写真AC)

タクシー(画像:写真AC)

 タクシーは、今や

「自分だけが乗る」

ものではなく、乗り合いの重要な移動手段となっている。利用シーンも生活、ビジネス、観光と多岐にわたり、それにともない利用者の層も多様化している。この多様なニーズに応えられるようなタクシーのインテリアを考え、標準化や価格の引き下げを社会全体で進めていく時期にきている。

 やがて自動運転が実現すると、運転席のスペースが不要になるため、乗客のスペースがさらに広がる。車内空間を用途ごとにデザインし、利用者が自分に合った場所を選べる時代が訪れるかもしれない。

 鉄道では新幹線のオフィス車両が好評だが、自動運転時代には、乗り合いタクシーの車内もオフィス用途や子育て・介助用途に分かれていることが求められるかもしれない。これは2045年頃の話だが、今後のキーワードは

・可変性
・フレキシブル

であり、用途に応じた柔軟な空間利用の可能性を追求し、標準化していくことが重要だ。

 タクシーの社会的役割が変化するなか、車内でのユーザーのアクティビティに基づいた人間中心の設計(ヒューマンセンタードデザイン)を通じて、未来のタクシーを考えていきたいものである。

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