「バス専用レーン」の導入はなぜ遅々として進まないのか? 耳を澄ませば聞こえてくる自治体の阿鼻叫喚

法整備と現実のギャップ

バス専用レーン(画像:写真AC)

バス専用レーン(画像:写真AC)

 路線バスのサービス向上を図るために設けられているのが「路線バス専用レーン」だ。これは、朝夕のラッシュ時などに路線バスの円滑な運行を促進することを目的としている。道路交通法第20条に基づき、バス専用レーンは特定の状況を除いて、バス以外の車両が走行すると

「路線バス等優先通行帯違反違反」

となる。

 1997(平成9)年には、運輸省、建設省、警察庁が連携して「オムニバスタウン事業」がスタートした。

「すべての人が利用しやすいバスが走るまち」
「渋滞や事故のない安全で移動しやすいまち」

などを目指し、指定都市ではバスレーンなどの走行環境整備が重点的に進められた。

 法律も整備され、道路を有効活用しながら路線バスの定時運行を支える優れたシステムであるバス専用レーンだが、導入が進まない地域も多い。なぜそのような状況になっているのだろうか?

都市部渋滞とバスレーンのジレンマ

高架沿いのバス専用道路(画像:写真AC)

高架沿いのバス専用道路(画像:写真AC)

 バス専用レーンの導入や普及には、いくつかの課題を解決する必要がある。そのなかでも最も大きな問題は、専用レーンのための

「土地確保」

が難しいという点だ。特に都市部では、バス専用レーンを設置したくても、用地を確保するのが物理的に困難である。そのため、既存の道路を時間帯によってバス専用レーンに転用すればいいという考え方もあるが、実際にはそう単純ではない。

 沖縄県では、過度なマイカー通勤を路線バス利用に誘導し、渋滞を緩和するために公共交通機関の活性化に取り組んだ。その一環として、基幹バスシステム導入に向けたバスレーンの拡充が行われた。国道58号のバスレーンは、朝の通勤時に那覇向けの車線が8.8kmから10.4kmに延長され、夕方には宜野湾向けの車線が2.8kmから7.4kmに大きく延長された。

 その結果、朝のバスの所要時間が1割、夕方の所要時間が2割短縮された。また、国道58号の交通量も5.8万台から5.6万台に減少し、成功したといえる。しかし、一般車両の所要時間は朝夕ともに1割増加してしまった。

 都市部のバスレーンでは、渋滞のためにバスレーンが機能しない状況も見られる。広島市の国道183号線では、片側2車線の左車線にバスレーンが設定されているが、ピーク時には1.8kmもの渋滞が発生する。県は、時差出勤を呼びかけるなどして渋滞緩和に取り組んでいる。

 バスレーンを導入しようとしても、道路の許容量を交通量が超えてしまうと、バスレーンを導入しても機能しなかったり、渋滞の負担が一般車両に転嫁されたりするなど、バランスを取るのが難しい状況だ。

バス優先システムの課題

バス専用レーンの標識(画像:写真AC)

バス専用レーンの標識(画像:写真AC)

 バス専用レーンの導入には、コストというさらなる問題がある。この金額は決して少なくなく、自治体の財政が厳しい昨今、財政的負担は大きなハードルとなっている。

 例えば、沖縄県の国道58号で行われているバスレーン拡充プロジェクトには、総事業費約2300万円が予算として計上されている。この費用には、定時運行を支援する公共車両優先システム(PTPS)対応の車載器導入などが含まれている。

 公共車両優先システムは、車載器から発信されるIDを道路上の光ビーコンが受信し、交通管制センターを経由して信号を制御することで、バスを優先的に通過させるハイテク装置である。

 しかし、多額の費用を投じても、期待通りの効果が得られなかったり、渋滞や違法駐車によってバスレーンが機能しなくなったりする可能性もある。

 バスレーンを導入しても、道路のキャパシティーは増加しないため、これらの要素が自治体がバスレーン設置に高額な費用を投入することをためらわせる要因となっている。

対立する市民ニーズ

路線バス(画像:写真AC)

路線バス(画像:写真AC)

 実際、市民のニーズが相反している状況が見られる。沖縄県が実施したバスレーン延長に関するQ&Aでは、公共交通の活性化に向けて

・決められた時間に運行すること
・目的地にもっと早く行けること

などが求められている。これらは定時運行や運行速度の向上を期待する意見であり、バスレーン延長を支持するものだ。

 しかし同時に、

「バスレーンを延長すると自動車が不便にならないか」

という不安の声も上がっている。この点について、県は車を利用する人に不便を強いることになるが、理解と協力を求める姿勢を示している。多額の費用を投じ、さらに一部の市民に犠牲を強いる状況は、自治体にとって大きな課題となっている。

 もちろん、道路を拡張する物理的な余裕がない以上、既存の道路でやりくりするしかない。公共交通機関の利便性を高め、利用を促進する必要がある。広島市が取り組んでいる

「時差出勤を勧めるキャンペーン」

などを通じて、バスレーン導入時に車両が集中する状況を避けるための努力が求められる。

ジャンルで探す