「タクシー会社と配車アプリはズブズブ関係」 現役ドライバーが告白、日本におけるライドシェアの実態とは

話題を呼んだ河野発言

タクシー乗り場(画像:写真AC)

タクシー乗り場(画像:写真AC)

 7月29日に開かれた、一般ドライバーが自家用車で乗客を有償で運ぶ「日本版ライドシェア」の効果を議論する政府の規制改革推進会議の作業部会で、河野太郎規制改革担当相の発言が話題になった。

 河野氏は

「タクシーが実際には空車にもかかわらず迎車中と表示し、アプリでの配車依頼にすぐに対応できるようにしてマッチング率を引き上げようとする動きがあると聞く」(『毎日新聞』2024年7月29日付け記事)

と指摘し、もしこれが事実であれば道路運送法に違反する行為だと非難した。発言の論点は、タクシーが

・実際には空車にもかかわらず「迎車中」と表示している
・アプリでの配車にすぐに対応できるようにしてマッチング率を引き上げようとしている

のふたつだ。

 筆者(二階堂運人、物流ライター)は現役タクシードライバーである。空車でありながら、タクシーの前面にある

「スーパーサイン(タクシーの助手席のダッシュボードの上に乗っている表示灯)」

を隠すようにして「迎車」と書かれた板を立てて走っているタクシーがいることは確かだ。

 実際、河野大臣の発言を受けたかのように、あるタクシー会社はこれまでの誤解を招く可能性のある迎車板での営業をやめ、スーパーサインでしっかりと「迎車」と表示して走るようにした。

 スーパーサインはメーターと連動しており、実際にメーターの迎車ボタンを押さない限り「迎車」と表示されることはない。したがって、偽装には当たらないことになる。ちなみに、メーターは年に1度、距離に対する料金の正確性を検査することなどが義務付けられている。

 次の「アプリでの配車にすぐ対応できるようにしてマッチング率を上げようとする」という点だが、アプリでの配車が増えているとはいえ、そんなに頻繁に迎車の依頼があるのだろうか、という疑念が筆者にはある。

 実は、この仕組みにはウラがある。アプリ配車専用で営業しているドライバーは、常にアプリ会社から迎車依頼を受けている。そして、実際の乗客からの申し込みが入ると、迎車地点を変更して乗客を迎えに行くというシステムになっている。つまり、アプリ会社が本当の依頼が入るまで仮予約をして

「タクシーを確保している」

のだ。

ドライバーを悩ます配車アプリ

配車アプリ(画像:写真AC)

配車アプリ(画像:写真AC)

 先日、神奈川県にあるタクシー会社が、X(旧ツイッター)でアプリに関する乗客のマナーやモラルについて問題提起を行った。複数のタクシー会社に電話やアプリで同時に配車を依頼し、早く到着したタクシーにだけ乗り、他のタクシーはキャンセルするというケースが増えているという。

 この問題は乗客のモラルだけに限らず、アプリ会社にも責任がある。なかには、ドライバーの立場を無視して乗客を最優先する会社があり、

「無理な配車指示」

によって事故や違反が多発しているからだ。指示に従わないドライバーには、アプリの利用停止や制限といったペナルティーが課されることもある。

 さらに、ドライバーはアプリでの営業時間が設定され、いつマッチングがあるかわからないため、休憩やトイレに行くことも困難だ。このような状況は身体的にも精神的にも負担が大きく、ドライバーたちは乗客だけでなく、アプリ会社にも振り回されている。そんな

「殿様商売」

に嫌気が差し、アプリから離れるドライバーも増えている。

 一部のアプリでは、乗客とドライバーが互いに評価できるシステムが導入されているが、多くのドライバーは、自社が指定したアプリしか使えず、自由に選べる状況ではない。タクシー会社とアプリ会社が協力して、乗客とドライバーを囲い込んでいるのが現状なのだ。

ライドシェア拡大の課題

タクシー乗り場(画像:写真AC)

タクシー乗り場(画像:写真AC)

 ライドシェア事業を手掛けるnewmo(ニューモ、東京都港区)は、事業の本格展開に向けて、大阪の老舗タクシー会社「未来都」の経営権を取得、自社でタクシー事業に参入した。

 アプリシェア率ナンバーワンの『GO』は、日本交通の「Japan taxi」とDeNAの「Mov」が統合したアプリであり、同アプリを運営するGO株式会社の現在の代表取締役会長は川鍋一朗氏(日本交通取締役)だ。

 川鍋氏は、日本交通の代表取締役会長を退任し、GOの代表取締役会長に就任した。このことからも、アプリに対する力の入れようがわかる。GOの事業内容も「タクシー事業者等に向けた配車システム提供などモビリティ関連事業」とあり、タクシー会社に向けたサービスなのである。また、川鍋氏は全国ハイヤー・タクシー連合会の会長も務めている。

『S.RIDE』は、国際自動車や大和自動車交通といったタクシー会社などと連携しており、アプリのプラットホームは、タクシー会社との連携がなければ土俵に上がることすらできない。

 日本版ライドシェアは、タクシー会社がライドシェアのドライバーを管理・指導することに焦点が当てられがちだが、日本におけるライドシェアの真の姿は、ドライバーだけでなく、

「アプリもコントロールする」

システムである。こうしたズブズブの関係を解消することが先決だ。

 今後、アプリの利用比率はさらに増えるだろう。ライドシェアの推進には、利用者がアプリを使いこなすことが不可欠であり、タクシーやライドシェア車両の増加といったハード面の問題だけでなく、高齢者世代のデジタル・ディバイドやアプリとタクシー会社の関係にも注目する必要がある。

 アプリの自由化を進め、ドライバーと直接やり取りするなどの方法を検討すれば、より多くの人々に利用されるだろう。ドライバーは増えているにもかかわらず、タクシー不足とはどういうことか――。国のお偉いさんには、目先の判断や思いつきを控えてほしいものだ。

ジャンルで探す