ライドシェア運転手の「3分の1」が事故経験あり! 日本政府やる気満々も、「米国研究」が明らかにした事故の根本原因とは

急増する訪日客とタクシー不足

ライドシェアのイメージ(画像:写真AC)

ライドシェアのイメージ(画像:写真AC)

 ライドシェアは、一般ドライバーが自家用車で有償で乗客を運ぶサービスだ。2024年4月から東京23区や京都市など一部の地域でスタートし、今後も普及が進むと予想されている。

 このサービスは、

・増加する訪日外国人
・減少し続けるタクシードライバー

の数という現状を解決する手段として期待されている。

 また、日本政府は9月4日、公共交通機関の利用が困難な交通格差を解消するために、官民が協力できる方法を検討する組織を設立することを決定した。地方自治体や新興企業は、今春解禁された日本版ライドシェアの普及を加速させるため、協力や財政支援を行い、全国的な移動手段の確保を目指す。

 新組織は、自治体と民間企業を結びつけることで、公共の乗り合い客を増やすことを目的としている。全国で約320の自治体がまだライドシェアを導入しておらず、政府は自治体に導入を促すことで、利用者の安全確保に努める。

 そんなライドシェアだが、米国の最新研究によると、

「営業運転中の事故率」

が高いことが問題視されているのだ。

副業ドライバーの疲労問題

ライドシェアのイメージ(画像:写真AC)

ライドシェアのイメージ(画像:写真AC)

 2024年2月、米イリノイ大学シカゴ校とブルームバーグ公衆衛生大学院の合同研究チームが学術雑誌「Journal of Safety Research」で発表した研究によると、ライドシェアドライバーの

「3分の1」

が業務中に事故に巻き込まれていたという。

 ライドシェアドライバーは比較的新しい職業であるため、仕事中の事故やケガに関する情報が十分に集まっていない。今回の研究は、そうしたライドシェアドライバーの事故率を数値で示した初めての調査となる。277人のライドシェアドライバーから得たアンケート結果を分析した

 ライドシェアドライバーの事故率が一般のタクシーより高い理由は、副業として運転している人が多いため、

「運転中の疲労度が高い」

ことにある。さらに、利用者との連絡や対応で

「スマートフォンを頻繁に使用する」

ことも、注意力を低下させる要因になっている。本業や家業で疲れた状態や睡眠不足のままスマートフォンを操作しながら運転すれば、事故が増えるのも無理はない。

「顧客リスク」が招く事故率増加

イリノイ大学のメディア「UCI Today」(画像:イリノイ大学理事会)

イリノイ大学のメディア「UCI Today」(画像:イリノイ大学理事会)

 しかし、共著者のリー・フリードマン氏は、これらのドライバーにとっての最大のリスクは実は“顧客”かもしれないとイリノイ大学のメディア「UCI Today」で説明している。フリードマン氏は

「見知らぬ人があなたの車に乗り込んできた。彼らは手に負えないかもしれないし、酔っているかもしれない」

と述べ、酔った乗客が暴言を吐いたり、後部座席で嘔吐(おうと)したりすることが、ドライバーの愛車内で起きると、ストレスが増し、運転中の注意力が低下する可能性があると指摘している。

 今回の研究は小規模な調査グループに基づいているため、研究者たちはさらなる調査を進める予定だが、

「ドライバーの待遇を改善する」

ことで事故を減らせることは明らかであるという。また、手に負えない乗客に遭遇したドライバーへのサポートを強化すれば、ストレス軽減と注意力の向上につながる可能性がある。

 ライドシェアドライバーという新しい職業におけるこうした問題が、広く認識されることが求められているだろう。

「ライドシェア不安」81.7%

日本版ライドシェアサービスの利用意向(画像:MM総研)

日本版ライドシェアサービスの利用意向(画像:MM総研)

「日本版ライドシェア」は、一般ドライバーがタクシー事業者の管理下、有償で他人を運送するサービスで、2024年4月から東京23区や京都市などの一部地域で始まっている。

 これにより、対象地域ではライドシェアが利用できるが、現時点で日本においてライドシェアがタクシーの代わりになり得るかどうかは疑問だ。最近の民間調査では、約8割の人が「利用したくない」と考えていることが明らかになった。

 この調査は、民間調査会社のMM総研(東京都港区)が、2024年6月下旬に全国の15~79歳の男女1000人を対象にインターネットで実施した。

 日本版ライドシェアを利用したいかという質問に対し、「利用したい」と答えた人は

「18.3%」

にとどまり、「利用したくない」と答えた人は81.7%に達した。

 ライドシェアサービスを「利用するメリット」(複数回答)としては、「タクシーと比べて料金が抑えられる」が21.5%で最も多かった。しかし、実際にはライドシェアの運賃はタクシーと同水準であるため、人々の間で

「誤解」

が広がっていることが指摘されている。

 一方、「利用するデメリット」のトップ3は、「犯罪などに巻き込まれる可能性がある」(31.1%)、「トラブル発生時の対応方針が不安」(28.5%)、「ドライバーの運転の安全管理体制が不安」(22.9%)で、

「安全性やトラブルへの懸念」

が強いことも明らかになった。

副業ドライバーの危うさ

論文『Work-related crashes in rideshare drivers in the United States(米国におけるライドシェアドライバーの業務関連の交通事故)』(画像:Journal of Safety Research)

論文『Work-related crashes in rideshare drivers in the United States(米国におけるライドシェアドライバーの業務関連の交通事故)』(画像:Journal of Safety Research)

 日本版ライドシェアでは、タクシー会社が管理を行っているため、ドライバーの裁量には一定の制限がある。そのため、ドライバーのキャラクターや属人的な側面についてはあまり心配しなくてよさそうだ。

 しかし、ほとんどのドライバーは

「副業」

であるため、体調には変動があるかもしれない。そしてもちろん、体調の変化は気分にも影響を与える。

 ドライバー側だけでなく、利用者側にも問題がある。タクシー業界では利用者によるハラスメント、いわゆる“カスハラ”が深刻な問題になっているが、これもライドシェアサービスでのリスクとなるだろう。

 タクシーの場合、車両は会社のものであるため、ドライバーは車のダメージをあまり気にしなくて済む。しかし、ライドシェアドライバーの多くは自己所有の車を使っているため、車両の汚損は実害となり、場合によっては泣き寝入りになることもある。

 このように、ライドシェアサービスの普及にはいくつかの問題や課題が残っているが、不安定な立場で働く

「ギグワーカーへの理解」

がまず求められている。

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