パリ五輪「金メダルに恋した14歳」報道に感じた違和感 ネット上では称賛も、「若いのにすごい」は無意識の偏見か? 企業文化も同様だ

「若さ」に潜む評価の落とし穴

スケートボード(画像:写真AC)

スケートボード(画像:写真AC)

 先日行われたパリオリンピックのスケートボード女子ストリート競技で、14歳の吉沢恋(ここ)選手が金メダルを獲得した。吉沢選手は抜群の安定感と技の完成度、余裕のある態度で世界を驚かせた。ただ、日本のメディアが彼女を称賛する際に

「若いのにすごい」

というニュアンスがあったことには注意が必要かもしれない。率直にいうと、筆者(曽和利光、人事コンサルタント)もそう感じてしまった。スケートボードに関していえば、今回は

「金メダルに恋した14歳」

がそれだったが、前回の東京オリンピック(2021年)では西矢椛(もみじ)選手が

「13歳、真夏の大冒険」

と表現された。これらはネット上で多くの賛同を集めたが、その一方で批判の声も上がっていた。彼らは若いとはいえ、れっきとしたオリンピアンである。

 吉沢選手と西矢選手の成功は、間違いなく常人を超えた努力と才能の成果であり、年齢は関係ない。「若いのに」と称賛するのも悪くないかもしれないが、少し立ち止まって考えてみたい。

成果を奪う若さの偏見

 まず、「若いのにすごい」という表現について考えたい。この言葉は、若い時期は修行や訓練の期間であり、

「結果や業績で判断される時期ではない」

という暗黙の前提に基づいているように思える。暗黙の前提は、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を指す。

 つまり、若い人が何らかの成果を上げることは難しいため、若い成功者は特別視されがちだ。その結果、若者が達成した成果が過小評価される危険性がある。

 本人の実力によるものであっても、

「たまたま」

できたものと見なされることがあるということだ。

若手評価の落とし穴

若手社員のイメージ(画像:写真AC)

若手社員のイメージ(画像:写真AC)

 このようなアンコンシャスバイアスは、企業内でも若手社員の評価に影響を与えている。

 特に、非常に高い業績を上げる“スーパー若手社員”に対して「若いのにすごい」といった表現が使われることが多い。

 この結果、彼らの成果が特別なもので、偶然や運によるものと見なされることがある。このような評価は、若手社員の実力や努力を正当に認めることを妨げ、成長を阻害する可能性がある。

「今回は(環境に恵まれて)よい成果が出た」

とだけ評価し、適切なポジションやグレードに引き上げなければ、彼らの実力は埋もれてしまう。

凡人マネジャーの苦悩

 この背景には、多くのマネジャーが

「凡人」

であるという現実があるのではないか。努力によって管理職にはなったものの、常人を超えたスーパースターではないのが普通だ。

 そんななか、卓越した才能を持ち、軽々と実績を上げる“スーパー若手社員”を部下に持つと、マネジャーはプレーヤーとは異なる役割であるにもかかわらず、ある種の劣等感を抱くことがあるだろう。

 人間は基本的に自己正当化をする生き物だ。認めたくない“スーパー若手社員”の活躍を、

「たまたま」
「偶然」
「運がよかった」

と片付けることで、彼らに適切なポジションを与えず、自分自身を守ろうとしてしまうのだ。

若いアイデアが重要な時代

悩むマネジャーのイメージ(画像:写真AC)

悩むマネジャーのイメージ(画像:写真AC)

 自動車業界においても、この視点は非常に重要だ。

 特に、技術革新が急速に進む情報系の分野では、若手技術者が持つ新しいアイデアや能力が組織全体の競争力に大きく影響することがある。

 例えば、新しい運転制御装置のプロジェクトで、“スーパー若手社員”が革新的なアプローチを提案したとしよう。この場合、マネジャーは彼らの才能に劣等感や嫉妬を抱く必要はなく、むしろ

「その提案を積極的に受け入れ」

実現に向けて支援を行うべきだ。そうすることで、企業全体の技術革新が促進され、業界内での競争力が向上する。

 しかし、素直に受け入れられず、無駄に批判的になってしまっては、イノベーションは生まれない。

 マネジャーは自分を「凡人」と卑下する必要はない。むしろ、自身の経験や知識、組織での視点を生かして、“スーパー若手社員”の挑戦や成長をサポートする重要な役割がある。

 スポーツ選手にとっての監督やコーチのように、彼らに適切なチャレンジ目標を与え、必要なリソースやツールを提供し、目標達成に向けたガイダンスを行うことが求められる。

 年齢や経験にとらわれず、若手社員の能力を最大限に引き出すために新たなプロジェクトを任せてサポートするのがマネジャーの仕事だ。だから、“スーパー若手社員”に対して気後れする必要はないし、ましてや劣等感や嫉妬を感じる必要もない。

協力で高める組織成果

優れたマネジャーのイメージ(画像:写真AC)

優れたマネジャーのイメージ(画像:写真AC)

“スーパー若手社員”が組織内で孤立しないよう、適切なサポート体制を整えることも重要だ。彼らは他の社員からの

・嫉妬
・過度な期待

によるプレッシャーにさらされることがある。そのため、彼らを支える具体的な対策が必要だ。

 例えば、定期的に経験豊富な社員とのディスカッションの場を設けることで、彼らの不安や悩みを共有し、解決策を見つける手助けができる。

 こうしたサポート体制を整えることで、“スーパー若手社員”は安心して自分の能力を発揮できるようになる。

 繰り返しになるが、「若いのにすごい」という言葉には年齢に基づく

「アンコンシャスバイアス」

が含まれている。マネジャーはこのような偏見にとらわれず、自らの役割の重要性を誇りに思い、“スーパー若手社員”の才能を最大限に引き出すためのサポートや機会を提供することが求められる。

 プレーヤーとしての彼らとマネジャーとしての役割は異なるが、両者が協力することで、組織全体の成果を高めることができるのだ。

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