自分がイヤだったことをしてしまう…。教育や指導のストレスを軽減する3つのポイント
お子さんがいらっしゃったり、会社の部下に指導されたりする立場の方なら一度や二度は経験があると思いますが、相手が自分の思った通りに行動してくれなくて苛立ったことはないでしょうか。教育は「される側」だけではなく「する側」もストレスがたまりやすいものです。
自衛隊の元陸将で、陸上自衛隊幹部学校の学校長を務めていた小川清史氏が、教育で心のコントロール力を発揮しやすくするために意識すべき3つのポイントを紹介します。
※本記事は、小川清史:著『どんな逆境でも、最高のパフォーマンスを発揮する 心を「道具化」する技術』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
経験に学ぶ者は「愚者」ではない
子どもの頃、親から「勉強しなさい」「部屋を片付けなさい」「家の中で騒いではいけません」「早く準備しなさい」などと叱られて、なんの不満も抱かずに、素直に親の言う通りに行動できた人はあまりいないと思います。
しかし、そういう人がいざ親になったときには、自分の子どもに「勉強しなさい」などと同じ叱り方をしてしまいます。さらに最悪なのは、「あなたのためを思って言っているのになぜわからないの」と、自分のやり方の悪さを相手が悪いように言って押しつけることです。
過去に自分が言うことを聞かなかったのに(そのやり方が通じないことは自分が経験済みなのに)、なぜ同じやり方を繰り返すのでしょうか。
また、今では上司の立場の方も、かつて誰かの部下だった頃には、上司の理不尽な命令でイヤな思いをした人もいるはずです。それなのに、いざ自分が上司になるとそれを繰り返してしまうことがあります。
過去に自分がそれをされて余計なプレッシャーを感じたり、ストレスや不満を抱いたりしたことがあるのに、なぜその経験を活かさないのでしょうか。
ドイツ(プロシア)の鉄血宰相ビスマルクは「賢者は歴史から学び、愚者は自分の経験から学ぶ」と言ったそうです。確かに偉大な言葉だと思います。
しかし、私は自分の経験から学ぶ者が愚者だとはけっして思いません。
自分の受けたイヤなことを次の世代で繰り返さないようにする(そのうえで相手が本当に役に立つ内容を実行できるようにする)には、自分自身の経験を活かした「知恵」がなければ難しいと思います。
自分が受けた理不尽な指導を思い出し、親になったときにそれを繰り返さないことが賢明な道であり、「自分の経験に学ぶ」ということではないでしょうか。
植物を育てるように人も育てよう
「教育」(自分自身に対する教育も含む)で心のコントロール力を発揮しやすくするために意識すべきポイントは、大きく3つあると思います。
〇 急速な成長を期待しないこと
植物を育てるときに、早く花を咲かせようとして、水や肥料をたくさん与えようとする人はいないと思います。茎を引っ張って早く伸ばそうともしないでしょう。
それは、植物を育てるのに「適度な水や肥料の量」があることを知っていて、水や肥料を与え過ぎると、逆にうまく育たないことがわかっているからです。ましてや茎を引っ張ると、根っこが抜けるか、茎がちぎれてしまいます。
しかし、なぜか相手が「人間」になると「適度」がわからなくなる人がいます。
部下や子どもにキャパシティオーバーの教育をしても、成長が早まるわけではないのに、それをしようとしたり、あるいは自分自身に対しても、キャパシティオーバーの課題を与えて、早急な成果を期待したりします。
例えば、適度な運動と食事量のコントロールで健康的に体重を減らそうとするのではなく、「(ダイエットに効果的だとどこかで聞いた)〇〇を食べるだけ」にしたり、食事量を急激に減らしたりするような極端なダイエットで早くやせようとしている人などは、まさにそれです。
あるいは、相手の性格や人間性まで根本から変えようとして、相手の人格まで否定する過剰な「教育」(本来「教育」と呼べるものではありませんが)をする人もいます。
それは植物を早く育てようとして茎を無理やり引っ張り、根っこを引き抜いてしまっているようなものです。これも植物に対してはそんなことする人はいないのに、相手が「人間」だとしてしまう人が少なからずいます。
植物を育てようと思えば、適度な水や肥料と日光が必要です。つまり、その植物が成長するのに適した「妥当なこと」をしなければなりません。あとはその植物自体の自然の力によって無事に成長するのを見守るだけでいいはずです。
しかし、なぜか「人間」相手だと、その「妥当なこと」ができなくなる人がいます。
他人に対しても、自分に対しても、即効性や急速な成長を求めて、短期間で成果が実感できないと、せっかくの努力を継続することなくやめてしまう人が意外と少なくありません。
自分自身も含めて「人間」を育てる際には「植物」を育てる意識で、急速な成長を期待せずにおこなったほうが、ストレスに振り回されることなく、心のコントロール力を発揮しやすくなります。
陸上自衛隊幹部学校で使っていた質問術
〇 できている部分にこそしっかりと目を向けること
人を指導する際には、どうしても相手のできていない部分に目がいきがちになります。人の努力をビンの中の液体に例えるなら、ビン上部の空の部分を指さして「まだまだ空っぽだ(努力が足りない)」と指摘してしまうわけです。
これでは、すでにビンの中に入っている液体のほう、つまりその人がそれまで努力して溜めてきた液体の部分をまったく認めていないことになります。
本人としては、努力して溜めた液体の部分をさらに磨いて努力して増やすことで、実力を伸ばそうとしているのに、液体の入っていない空の部分を指摘されると、やる気が失せてしまうかもしれません。
例えば、子どもに部屋の片づけをさせたときに、洋服ダンスの中はきれいになったけれども、おもちゃ箱のおもちゃが散乱していたとします。
洋服ダンスがきれいなら、まずはそこを認めて褒めてあげましょう。そのうえで、洋服ダンスと同じようにおもちゃも片付けられるように促し、見守ってあげることが重要だと思います。
「できていないところ」や「足りない部分」を指摘する指導よりも、「できたところ」に意識を向けたほうが、お互いにとってストレスになりにくく、心のコントロール力を発揮する余裕が生まれやすくなります。
〇 「命令」ではなく「質問」をすること
例えば、「勉強しなさい」と命令するのではなく、「将来の夢(目標・やりたいこと)は何?」「それを達成するためにはどういう勉強をどれくらいすればいいと思う?」「それを踏まえて、今の自分の状況をどう思う?」と質問し、話し合いながら相手の考え(意志)を聞き出します。
ただし、圧力をかけるような聞き方(すでに“答え”があって、それを当てさせるような聞き方)にならないように注意してください。あくまでも相手の意志を明確にし、その意志を成長させる質問を心がけましょう(植物の成長を意識してください)。
質問者は自分の意見を言わないで、相手が発言するのを我慢強く待つことがとても重要です。相手に自分の意志を作り上げるのに十分な時間を与えることで、責任感とそれに付随する自主的積極性を引き出すようにします。
心の中で植物の成長をイメージしながら、人間の心の成長を手助けしましょう。
植物に“早く成長しろ”とどれだけ命じても、成長のスピードは上がらないでしょう。植物は人間が余計な力を加えなくとも、もともと成長したがっているのです。子どもも同じで、やらされたから成長するのではなく、もともと成長したいものです。
つまり、「やらされている」感覚ではなく、本人が自分なりに“納得”して、自らの意志でその課題に取り組むことが大切だということです。「命令」だとどうしても前者になりがちなため、「質問」によって後者に導くよう心がけてください。
じつは、この質問術は私が過去に陸上自衛隊幹部学校の学校長を務めていたときに実践していたものです。
学生に問いかける際は、“答え”を求めるのではなく、彼らの意志を尋ね、その意志を伸ばし、意志を堅固に保持するように誘導することが重要であると気づき、そのあともさまざまな場面で実践し続けてきました。
ちなみに、私がよく使っていた質問の“型”は次のようなものです。
- 「君、この状況をどう思う?」
- 「君ならどうする?」
- 「なぜ君はそうするのか?」
- 「君の目的は何か?」
- 「君が、その目的を達成するためにはどうすればいいか?」
民間の教育機関の先生方に、この質問術の話をしたところ、賛同していただける方がたくさんいてうれしい気持ちになりました。
あとでわかったことですが、明治維新前の江戸時代の各藩校では、この質問術と似たような一対一の問答を通じて、藩の指導者層の武士を育てていたそうです。
この質問術は他の人への教育のみならず、自分自身の自主積極性を引き出したり、目的・目標と現在の自分の行動が合致しているのかを確認する作業にも使えたりするので、ご自身に対してもぜひ試してみてください。
09/04 18:00
WANI BOOKS NewsCrunch