「あの人に好かれたい」「誰かに勝ちたい」…あなたの目標は自分を苦しめてませんか?

勉強や仕事など、人生において目標を立てることは大切です。しかし、世の中には目標の設定の仕方に問題があるがゆえに、精神的に苦しんでいる人もいます。そういう人は、目標設定を少し切り替えるだけで、精神的に苦しい状況から抜け出せる可能性があります。陸上自衛隊幹部学校の学校長を務めていた小川清史氏が、目標設定で多くの人が陥りがちな“落とし穴”について教えてくれました。

※本記事は、小川清史:著『どんな逆境でも、最高のパフォーマンスを発揮する 心を「道具化」する技術』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

自分でコントロールできないことを目標にしない

多くの人が陥りやすい“落とし穴”は、「結果」を目標にしてしまっていることです。

例えば、次のような目標を設定したことはないでしょうか。

  • 来年までに部長に昇進する
  • 〇〇さんに好かれる人間になる
  • ライバルに勝利する
  • ダイエットで10キロやせる
  • 次のテストで100点をとる
  • 年収を1000万円以上にする

誤解してほしくないのは、別に私はこれらの目標が「悪い(ダメだ)」と言っているわけではありません。実際、こうした目標を掲げて自分を奮い立たせ、たゆまぬ努力でそれを実現した方もいると思います。

ただ、これらは本来、自分自身が努力して成長した「結果」として得られるものです。

「出世したい」「人に好かれたい」「誰かに勝ちたい」「理想の体型になりたい」「点数をとりたい」「お金を稼ぎたい」という気持ちは理解できます。

しかし、「来年までに部長に昇進する(出世する)」「〇〇さんに好かれる人間になる(人に好かれる)」といった類の目標は、自分ではコントロールできない(自分の努力だけではどうしようもできない)、組織の評価や相手の感情によって得られる「結果」です。

出世できるかどうかは、会社の人事評価や事情(希望するポストが空いているかどうか)によりますし、誰かが自分のことを好きになってくれるかは相手次第です。

このように自分以外の誰かに依存するような「他人基準」の目標を掲げてしまうと、人前でだけ良い恰好(上司の前でだけ大げさなパフォーマンス)をしたり、人目のないところでズルをしたりすることにつながりかねません。

要するに、他人のために“見える部分”を良く見せるための努力をした結果、「中身のない空っぽの人間」になってしまい、肝心の本当の実力が伸びない(自分自身が成長しない)恐れがあるわけです(パフォーマンス重視の人が実際の現場で「役に立たない」というのは、どこの世界でもよくある話だと思います)。

▲自分でコントロールできないことを目標にしない イメージ:metamorworks / PIXTA

その他の目標についても、「結果」だけを追い求め過ぎると、卑怯な手を使っても相手に勝とうと思ったり、極端で過激なダイエットに走ったりするなど、ズルや無理・無茶な方向に走ってしまう恐れがあります(「そもそも、本当のところ自分はいったい何を目指しているのか」という「意志」の部分が、これらの目標からは見えません)。

また、こうした「個人的な願望・欲望」に基づく目標は、「個人的な悩み事(=狭い世界の悩み事)」と表裏一体の関係にあるので、視野が狭まりやすく、失敗すると精神的なダメージが大きくなりがちです。

例えば「受験戦争」を想像していただくとわかりやすいのですが、「〇〇大学に合格する」という個人的な願望を目標にしてしまうと、「ライバルに勝つぞ」「出し抜いてやろう」と気の休まらない状況になります。

一方で不安が増すと「これで失敗したら俺の人生は終わりだ」という極端な考え方とも結びつきやすいので、精神的にも疲れやすくなります。

「結果を目標」にすると、「自分を苦しめる目標」になりやすいというわけです。

精神的な負担が軽減される目標の立て方

では、どのような目標に切り替えれば精神的な負担が軽減され、「自分を苦しめない目標」にできるのでしょうか。

ポイントは大きく2つあります。

〇 結果ではなく過程(成長)を重視する

目標を設定する際には、それが「自分でコントロールできる目標か否か(自分ではコントロールできない「結果」を目標にしていないか)」を、よく確かめてみてください。

「結果」はコントロールできなくても、その「過程」で自分自身をどのように成長させていくかは、自分の意志と努力によってコントロールできます。

また、その成長を通じて「将来どうなりたいのか、どうありたいのか」という、自分の意志に焦点を当てれば、例えば「出世」も「勝利」も「合格」も、それを実現するための「手段」のひとつに過ぎないケースが大半でしょう。

視野を広く持てば、山頂(目標の先にある「理想の自分」)にたどり着くための登山道が複数あることに気づくと思います。

そうすれば、何かひとつ失敗したところで、「俺の人生はもう終わった……」と悲観的に落ち込むことはないのではないでしょうか。

「これがダメなら次はあれで挑戦してみよう」という発想で、本当の意味の「楽観主義者(オプティミスト=選択肢〈オプション〉がたくさんある人)」になり、精神的にも楽になれると思います。

▲精神的な負担が軽減される目標を立てよう イメージ:chachacha / PIXTA

〇 個の欲望から公の欲望へ拡大する

ここで言う「公の欲望」とは、「自分自身のためだけではなく、自分以外の誰かのためにも何かを実現したい」という気持ちです。

例えば「〇〇大学に合格したい」や「部長になりたい」は「個の欲望(=個人的にかなえたい願望)」ですが、「〇〇大学で△△を研究して社会に貢献したい」や「部長になって〇〇のプロジェクトを推進し、成功させて会社を大きくしたい」は「公の欲望」だと言えます。

「個の欲望」で突き当たるプレッシャーや困難は「個人的な悩み(=「うまくいかなかったらどうしよう……」)につながることが多いですが、「公の欲望」のそれは、大抵の場合、自分一人ではなく誰かの手を借りながら解決しなければならない「公的な課題」です。

個人の場合よりも、問題解決には難しさや大変さが伴いますが、精神的なツラさよりも、むしろ「やりがい」につながりやすいと思います。

誤解のないように補足しておきますが、私は「個の欲望」を否定しているわけではありません。「個の欲望」自体は人間が生きていくうえで大切な原動力だと思います。

「個の欲望」を捨てて「公の欲望」だけにしろ、と言っているのではなく、「個の欲望」を「公(他者)」の範囲まで“拡大”することで、自分にとっても努力しがいのある目標になる、と述べているだけです。

「あまり社会とは関係なさそうな個の欲望、例えば『ダイエットで10キロやせる』をどうやって公の欲望に変えるんだ?」と思われるかもしれませんが、「公」といってもそれほど大げさに考える必要はありません。自分以外の誰かに良い影響を与えようという気持ちがあればそれで十分です。

例えば「ダイエットで10キロやせるまでの過程を子どもに見てもらい、努力の大切さを学んでほしい」でもいいですし、「ダイエットで10キロやせるまでの過程をSNSで発信し、同じようにダイエットを頑張っている人を勇気づけたい」でもいいと思います。

こうした目標なら「過程」も重視しているので、「結果」だけを追い求めて極端で過激なダイエットに走るなどの事態も防ぐことができるのではないでしょうか。

ダイエットやテストの点数を上げるといった目標は、自分の努力次第で「結果」をコントロールできるものですが、「個の欲望」のままにするよりも「公の欲望」にまで広げたほうが、一時的な成果を求める“ズル・無理・無茶”を防ぐことができて、達成したときにも、“より大きな喜び”につながると思います。

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