子育ては「大人もアップデート」する大チャンス

走る子ども

遊ぶヒマもないほど習いごとをしても「子どもが伸びるとはかぎらない」と筆者は話します(写真:kapinon / PIXTA)
将棋の藤井聡太さんが幼少期に受けていたことでも知られる「モンテッソーリ教育」は20世紀初め、イタリアの精神科医マリア・モンテッソーリさんが始めた教育法です。そのメソッドを日々の子育てに、家庭でも気軽に取り入れてみようと呼びかけているのが、モンテッソーリ・ホームレッスン代表の菅原陵子さん。菅原陵子さんの著書『4・5・6歳 小学校の勉強がスイスイできる子になるおうちゆるモンテッソーリのあそびと言葉がけ』より一部を抜粋、再編集してお届けします。

時代で変わる教育・変わらない本質

SNSなどで、子育てにまつわる情報がすぐに手に入る時代になりました。

しかも「〇〇とは、こういうもの」とコンパクトにまとめられていたり、子育てが「楽しそう」「うまくいっていそう」なご家庭の様子も目に入りやすいですよね。

あるいは、「○歳までに△△をする」とか、「子どもの自己肯定感の高いお母さんの5つの特徴」みたいに、「いい子育ての基準」や「正しそうな理論」が書かれていたりします。

そういうすぐまねできそうなだれかの成功事例や、コンパクトで正しい理屈で幸せになれる方はいいのですが、なぜか私が出会う親御さんは、そういう情報にたくさん触れている人ほど、育児に悩んでいるように思います。

「わかりやすい正しさ」は、ときに不安をあおります。

育児の本や、よその家庭の子育てをバロメーターにして、ついまわりと自分の子を比べ、心がザワザワしてしまう。そして、「まわりに置いていかれないように、小さいうちからあれもこれもやらせなくちゃ」と思った結果、最近の子どもたちはとにかく忙しいのです。

一週間の予定が習いごとでびっしり。大人より忙しそうに見える子もいます。そんな子どもたちから聞こえてくる声は「疲れた」「休みたい」「遊びたい」……。

習いごとを否定するつもりはありません。でも、「遊ぶヒマもないほど習いごとをしても、子どもが伸びるとはかぎらない」のです。

ここで一つ、みなさんに質問です。教育の中身は、時代で変わると思いますか? それとも変わらないと思いますか?

講演会でこの質問をすると、多くの方が「変わる」と答えます。

その理由を聞いてみると、「AIの登場で人間に求められる力が変わった」とか「グローバル社会になって英語力が必須になった」など、もっともらしい答えが返ってきますが、「では、そのためにどんな人に育つといいのでしょう?」と、もう一歩踏み込んだ質問には、答えがないことも多いのです。

教育の中身は、時代によって変わります。それは、社会が変わると、求められる教育の中身も変わっていくからです。

時代が変わっても「変わらないもの」

いっぽうで、変わらないものもあります。それは、子どもの人としての発達そのもの。

子どもが成長・発達していく段階は、時代や求められる力が変わっても、ずっと同じ。人間の体や心の成長にかかる時間が変わるわけではありません。

0〜10歳までの子どもの発達とは、体を使い、話を聞いて、自分で考え、話したことからものごとを理解します。そして同時に心を満たし、成長していきます。

急いで何かをやらせたからといって、一足先に大人になるとか、賢くなるといった「飛び級」みたいなことは起こらないのです。

だから、「教育の中身」と「子どもの成長・発達」、この2つを切り分けて考えることが大切。そうしないと、いつも情報に翻弄され、世の中の流行りの学びを子どもにさせようとしてしまいます。

そしてもう一つは、子どもの成長に合ったものを学ぶようにすること。せっかく子どもの将来によかれと思って始めたものも、時期が早すぎるためにあまり意味をなさないということもあります。

くり返しになりますが、大事にしたいのは「体感」と「会話」。0〜10歳までの時期は、そこに軸足を置いた子育てを心がけてくださいね。

大人はつい、自分が育った時代の感覚でものごとを見てしまいがち。

「私の時代は、勉強ができないと将来困るよと言われて、たくさん勉強した」「自分を出しすぎると、わがままな人に思われてしまう」など、育った時代の価値観が自分の判断基準や常識になっていたりします。

でも、時代は変わっています。もしかすると、みなさんが考える「子育ての正解」は、すでに古いのかもしれません。

だからこそ、親御さんたちも、いまの時代に合わせたアップデートが必要。変わらないといけないのは、じつは子どもではなく、私たち大人の方なのです。

あせらず、ゆっくりアップデートしていこう!

そう言うと、たいていの方は拒否反応を示します。

「私が変わるより、子どもが変わればいいのに……」と思ったり、これまで自分なりに積み重ねてきたものを否定されたように感じたり。

でも、私がお伝えしたいのはそんな大げさなことではないのです。

教育は社会の変化に応じて、その中身が変わっていきます。だけど、子どもの成長のステップ自体は、時代が変わっても変わることはありません。

ならば、これからの時代を歩んでいく小さな人たちが生きるために必要な力が何で、どう育んでいけばよいのか、毎日ちょっとずつ考えながら子育てをしてみませんか、ということ。

いま、私たちは変化の目まぐるしい社会で生きています。未来の答えなんて、誰も持っていません。

4・5・6歳 小学校の勉強がスイスイできる子になるおうちゆるモンテッソーリのあそびと言葉がけ

親世代や私たちが子どもだったころのように、頑張って勉強すれば将来安泰、なんて分かりやすい目標が描けない。それが、これからの子どもたちが生きていく世界です。

だからこそ、大人に求められるのは「すぐに答えを見つけようとしないこと」。

もともと仕事や勉強は、課題とそれに対する打ち手が明確に計画しやすいもの。でも子育ては、少し違う面があります。

人の心はゆっくりゆっくり育っていくもので、タスクを「こなす」ように育てていくことはできません。幼児の知育は、一見勉強のように見えますが、この「ゆっくり育つ」部分もたくさんあるのです。

まずは「いまの教育」を知ることから

子どもと一緒に過ごす持ち時間は10年。その10年を仕事のタスクをこなすように過ごすのではなく、親子で試行錯誤を楽しむ時間にしてみる。時代に合わせた内容で、子育てを楽しむ。

まずは、いまの時代の教育の中身を知ることから始めてみましょう。

子どもの成長のステップ

(出所:『4・5・6歳 小学校の勉強がスイスイできる子になるおうちゆるモンテッソーリのあそびと言葉がけ』)

(菅原 陵子 : モンテッソーリ・ホームレッスン代表)

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