本郷和人『光る君へ』「藤壺は光る君のことをどう思っていた?」登場人物の心境が議論されるまでになったまひろの物語。その執筆にも使われた「文房四宝」とは
大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。ドラマが人気を博す中、平安時代の暮らしや社会について、あらためて関心が集まっています。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生がドラマをもとに深く解説するのが本連載。今回は「文房四宝」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし!
次回の『光る君へ』あらすじ。悲しみに暮れる彰子を慰めるため、まひろは和歌の会を催す。そこに招かれてもいないあの人が現れて…<ネタバレあり>
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まひろ先生大人気
まひろが書き続けている、「光る君」の物語。
前回のドラマ冒頭では、物語の登場人物である藤壺が光る君のことをどう思っていたのか、といったことを巡って議論する場が描かれました。
敦康親王や中宮彰子自ら、その心情をたずねるなど、作者であるまひろはもはやスター作家の地位に。
さて、今回はそのまひろ先生も執筆をするうえで使っていたであろう、当時の文房具について考えてみたいと思います。
文房四宝
そもそも読書をしたり、文章を書くような部屋である書斎を、中国では「文房」と呼びました。その文房で用いられた道具だから、「文房具」です。
そして文房具のうち、中心的な4つを「文房四宝」、もしくは「文房四友」と呼びました。
さて、ここでクイズです。この4つとは、具体的に何を指すでしょう? ちなみに、みな現代でも使っていますよ。
特に、これまでまひろが執筆する風景が何度も描かれてきた『光る君へ』ファンのあなたなら、当てていただきたいところですが……。
その4つが何かというと…
ではその答えを記しましょう。4つとは「硯」「墨」「紙」「筆」でした。
みなさんは、いくつ当たりましたか?
まあ、言われてみれば納得ですよね。学校での習字の時間を思い出して下さい。これらがなくては、筆字が書けませんものね。
では続けて、もう一つクイズです。
4つのうちで最も大事されたのはどれでしょう?
じっくり考えれば正解にたどり着きますので、こちらもドラマのファンのあなたには、ぜひとも当ててほしいところですが……。
硯は財産として後世にも伝えられた
さっそく答えを記しますと、正解は「硯」でした。
紙と筆は消耗品。墨もそれなりに長持ちしますが、使えばなくなる。
これに対して硯は格段に長持ちしますので、財産として後世にまで伝えられました。ですから、非常に価値が高いのですね。
なお、唐代にはまだ「文房四宝」という語は使われていません。
唐の滅亡後に中国南部を領土とする後唐(937年~975年)という王朝が立ちました。首都は現在の南京です。
この王朝は文化を重んじたので、唐代の文房具のあり方がここで整理され、中国を統一した宋王朝(960年~)に多大な影響を与えました。
つまり「文房四宝」は、宋において用いられるようになる言葉なのです。
でも、硯の最高峰とされた「端渓硯」が唐の時代から使われていたことが示すように、「硯」「墨」「紙」「筆」は唐の文人にも間違いなく重んじられていて、それが日本にも影響を与えていたのでした。
10/21 10:41
婦人公論.jp