本郷和人『光る君へ』「藤壺は光る君のことをどう思っていた?」登場人物の心境が議論されるまでになったまひろの物語。その執筆にも使われた「文房四宝」とは

(イラスト:stock.adobe.com)

大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。ドラマが人気を博す中、平安時代の暮らしや社会について、あらためて関心が集まっています。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生がドラマをもとに深く解説するのが本連載。今回は「文房四宝」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし!

次回の『光る君へ』あらすじ。悲しみに暮れる彰子を慰めるため、まひろは和歌の会を催す。そこに招かれてもいないあの人が現れて…<ネタバレあり>

* * * * * * *

まひろ先生大人気

まひろが書き続けている、「光る君」の物語。

前回のドラマ冒頭では、物語の登場人物である藤壺が光る君のことをどう思っていたのか、といったことを巡って議論する場が描かれました。

敦康親王や中宮彰子自ら、その心情をたずねるなど、作者であるまひろはもはやスター作家の地位に。

さて、今回はそのまひろ先生も執筆をするうえで使っていたであろう、当時の文房具について考えてみたいと思います。

文房四宝

そもそも読書をしたり、文章を書くような部屋である書斎を、中国では「文房」と呼びました。その文房で用いられた道具だから、「文房具」です。

本郷和人先生が監修を務める大人気の平安クライム・サスペンス!『応天の門』(作:灰原薬/新潮社)

そして文房具のうち、中心的な4つを「文房四宝」、もしくは「文房四友」と呼びました。

さて、ここでクイズです。この4つとは、具体的に何を指すでしょう? ちなみに、みな現代でも使っていますよ。

特に、これまでまひろが執筆する風景が何度も描かれてきた『光る君へ』ファンのあなたなら、当てていただきたいところですが……。

その4つが何かというと…

ではその答えを記しましょう。4つとは「硯」「墨」「紙」「筆」でした。

みなさんは、いくつ当たりましたか? 

まあ、言われてみれば納得ですよね。学校での習字の時間を思い出して下さい。これらがなくては、筆字が書けませんものね。

では続けて、もう一つクイズです。

4つのうちで最も大事されたのはどれでしょう? 

じっくり考えれば正解にたどり着きますので、こちらもドラマのファンのあなたには、ぜひとも当ててほしいところですが……。

硯は財産として後世にも伝えられた

さっそく答えを記しますと、正解は「硯」でした。

紙と筆は消耗品。墨もそれなりに長持ちしますが、使えばなくなる。

これに対して硯は格段に長持ちしますので、財産として後世にまで伝えられました。ですから、非常に価値が高いのですね。

なお、唐代にはまだ「文房四宝」という語は使われていません。

唐の滅亡後に中国南部を領土とする後唐(937年~975年)という王朝が立ちました。首都は現在の南京です。

この王朝は文化を重んじたので、唐代の文房具のあり方がここで整理され、中国を統一した宋王朝(960年~)に多大な影響を与えました。

つまり「文房四宝」は、宋において用いられるようになる言葉なのです。

でも、硯の最高峰とされた「端渓硯」が唐の時代から使われていたことが示すように、「硯」「墨」「紙」「筆」は唐の文人にも間違いなく重んじられていて、それが日本にも影響を与えていたのでした。

ジャンルで探す