本郷和人『光る君へ』二人の関係が怪しまれる中、道長がまひろしか喜ばなさそうな「紙」を褒美にしたために微妙な空気に。でも決して道長が無頓着だったのではなく…

(写真:stock.adobe.com)

大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。9月29日の第37話「波紋」では、中宮・彰子(見上愛さん)が一条天皇(塩野瑛久さん)の皇子を出産し、まひろと道長(柄本佑さん)は喜びを分かち合う。そんな二人の親密さがうわさになる中、彰子がまひろの書いた物語を冊子にして天皇への土産にしたいと言いだして――といった話が放送されました。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるシーンを解説するのが本連載。今回は「平安時代の贈りもの」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし!

『光る君へ』「母上が嫡妻ではなかったせいで!」自慢話で家族をドン引きさせたまひろに娘・賢子が怒るのは当然で…視聴者「成功者の帰省あるある」「不器用だから酒に逃げようと」「8歳で母を失った影響も?」

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道長の褒美

前回のドラマ内にて、中宮彰子は内裏に戻るにあたり、藤式部ことまひろの書いた物語を美しい冊子にして、一条天皇に差し上げたいと考えました。

そこで女房たち総出で、その冊子の準備を進めていると、左大臣・道長が褒美をもって正妻・倫子とともに彰子のもとを訪問。

道長が「皆で分けよ」と持参したその内容は硯と筆、そして紙でした。

道長自身はまひろに喜んでもらえるものと考えたのでしょうか。皆の前で「筆や硯も入用であろう」とまひろに伝えますが、当のまひろは微妙な反応。

それもそのはず、二人の関係は周囲はもちろん、妻・倫子にまで薄々気づかれはじめていて…

時折見せる倫子のかたい表情には恐怖を覚えつつも、来週の展開が楽しみでなりません。

平安貴族は何を贈りものとしたか

さて、ドラマを見ながら「紙と硯に筆じゃ喜ぶのはまひろだけでしょ? 露骨すぎるというか、無頓着というか、道長ももう少し考えてよ…」なんて思った視聴者の方がいらっしゃったかもしれません。

本郷和人先生が監修を務める大人気の平安クライム・サスペンス!『応天の門』(作:灰原薬/新潮社)

そこで今回は、あらためて平安貴族が何を<贈り物>としたか、考えてみましょう。

室町時代の武家なら、贈り物には「1に馬、2に刀、3が紙」という感覚がありました。

馬は現在でいう車かな? すごくざっくりではありますが、特に陸奥や信濃の馬は、600万円くらいの高級車、といったイメージ。

そしてこれらの<贈り物>はなじみの質屋に持っていくと、お金に替わるんです。

僕が若い頃までは、お中元・お歳暮で貰う特定の銘柄のウイスキーは現金になってましたね、たしか。

それから良く訓練された鷹は、ブランド馬の更に上。一羽で立派なプレゼントになりました。 

紙は貴重品

『光る君へ』を続けて見てきた方ならお分かりになっていると思いますが、紙は平安時代における大変な貴重品でした。

なので、ドラマ内で<褒美>として道長が紙を持ってきたのは、決して不自然なことでも、彼がまひろにぞっこんで、無頓着だったわけでもないのです。

ちなみに厚い紙はダメ。薄い紙が格上。

兄から美しい紙が贈られてきた。どう使おうか?  と主人の定子から相談された清少納言は「私に下さい。そこに面白いものを書きます」と願い出た。

それでできたのが『枕草子』です。

そういえば、平安時代前期に成立した『竹取物語』では、かぐや姫が5人の求婚者にとんでもない贈り物を要求していましたね。

「仏の御石の鉢」、「蓬莱の玉の枝」、「火鼠の皮衣」、「竜の首の玉」、「燕の子安貝」でしたか。

いや、こちらについては男からすれば、どうせえっちゅうねん、ですが。

平安時代のおしゃれは「種類やいろどり」が勝負

まひろが執筆中の『源氏物語』でも、光源氏が女性たちに実にセンスの良いプレゼントをしています。

小物もあるけれど、主にはやはり衣服。

この連載でも指摘しましたが、日本にはイヤリングなどのアクセサリーがあまり発達しなかった反面、おしゃれは「種類やいろどり、どんな衣服を身につけるか」が勝負なんです。

だから「モテる男」は、いかに女性のステュエーションに配慮した衣服をプレゼントするか、でアピールする。

いやあ、こうした男女のやりとりを読むと、僕なぞは、「光る君は総理大臣級のえらい人なんだから、他にすることあるだろう」と思ってしまうんですけど。

はい、非モテのひがみです。お許し下さい。

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