本郷和人『光る君へ』「光が強ければ闇も深くなる」道長へ最後の忠告をして安倍晴明はこの世を去り…そもそも彼ら陰陽師の占いに不可欠な<吉兆・凶兆>とは何か

(写真提供:PhotoAC)

大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。8月25日の第32話「誰がために書く」では、道長(柄本佑さん)の思惑通り、一条天皇(塩野瑛久さん)はまひろが書いた物語に興味を示す。そこで道長は、まひろに道長の娘・彰子(見上愛さん)が暮らす藤壺へあがり、女房として働きながら執筆することを提案し――といった話が放送されました。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるシーンを解説するのが本連載。今回は「吉兆・凶兆」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし!

次回の『光る君へ』あらすじ。藤壺に住み込みで働き始めるも、思うように筆が進まないまひろ。悩んだ結果、道長の反対を押し切って…<ネタバレあり>

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安倍晴明死す

前回、長く道長を支えてきたユースケ・サンタマリアさん演じる陰陽師・安倍晴明が亡くなりました。

晴明は自分の死を前に、「光を手に入れた」道長の家の盤石さを予言。それと同時に、「光が強ければ闇も深くなる」ことに注意するよう、言い添えていました。

実際それからしばらく、皆既月食で闇が深まったタイミングで、内裏から火の手が…。

晴明の言った光が、光る君が登場する「源氏物語」のことなのか、もしくは、ソウルメイト「まひろ」のことなのかはこの先の物語に委ねるとして、今回は陰陽師らが未来を占うのに用いていたであろう、吉兆・凶兆について考えてみたいと思います。

研究者が切り捨てること

歴史を学ぶときには確実な史料を読む。で、確実な史料とは、古文書と古記録(日記)である。

本郷和人先生が監修を務める大人気の平安クライム・サスペンス!『応天の門』(作:灰原薬/新潮社)

この連載でも、僕は何回かそう言ってきました。

それで、さあ古記録を読むときにどうするかというと、僕ら普通の研究者は、まず宗教的なこと、生活習慣的なことはザッと捨てる。

それから政治的なこと、経済的なこと、社会のニュース的なことに飛びついて分析を始める。

だから入学試験に出ないような「呪術」とか「占い」とかの扱いは中々むずかしい。

独自の発展を遂げた<日本の陰陽道>

ただ、吉凶のことを語るのであれば、やっぱり陰陽道、陰陽師でしょう。

陰陽道は、古代の中国で生まれた思想をもとに、日本で独自の発展を遂げた呪術や占術の技術体系なんですね。

オリジナルは中国ですが、それを日本人が得意とする<魔改造>を施したモノ。

日本の陰陽道は、陰陽道と同時に伝わってきた道教の方術(仙人の神通力的なヤツです)に由来する方違(かたたがえ)、物忌(ものいみ)、反閇(へんばい。呪術的な足づかい、歩き方)などの呪術や、土地の吉凶に関する風水説や、医術の一種であった呪禁道なども取り入れ、独自の発展を遂げました。

なお密教の呪法や密教とともに新しく伝わった占星術(宿曜道)や占術の影響も受けています。

そう書くと、もう何でもありですね。

様々な場面で吉凶を気にした貴族たち

貴族の日記に良く出てきて、生活に根付いていると思わせる<吉兆・凶兆>が、上記の方違、物忌、反閇です。

古文で習いませんでしたか? 

方違というのは、外出または帰宅の際、目的地に特定の方位神がいる場合に、いったん別の方角へ行って一夜を明かし、翌日違う方角から目的地へ向かって禁忌の方角を避ける、といったもの。

貴族は面倒くさがらずに守っていますね。

物忌は斎戒ともいい、ある期間中、ある種の日常的な行為をひかえて、穢れを避けることです。

たとえば、肉食や匂いの強い野菜の摂取を避けたり、他の者と火を共有しないなどの禁止事項を受け入れたりすることです。

案外楽しかったのかも

しかしあらためて考えてみれば、どれもこれも基本、ゆとりある貴族だからできたことでしょうね…。

こんな具合で、貴族は様々な場面で吉凶を気にしました。それで、陰陽師の活躍の場が広がり、安倍晴明も活躍したわけです。

実際「あっちに行っちゃダメ」「これはしてもいい」と彼らがズバリ言ってくれると、それで生活にメリハリもできて、案外楽しかったのかもしれませんね。

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