『光る君へ』に新登場・泉里香さん演じる和泉式部。有名な<恋の歌>の相手はなんと…紫式部も公任も高評価!「ことのはの魔術師」の知られざる横顔

(写真提供:イラストAC)

大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。ドラマの放映をきっかけとして、平安時代にあらためて注目が集まっています。そこで今回「和泉式部」について、『謎の平安前期』の著者で日本史学者の榎村寛之さんに解説をしてもらいました。

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「光る君へ」に登場する和泉式部とは

平安時代の宮廷女房といえば、紫式部、清少納言、それに続いて知られているのは、「和泉式部」ではないでしょうか。

『光る君へ』では、俳優の泉里香さんが和泉式部役を務めることが先日になって発表され、話題になっていました。公式サイトによると、「あかね」という名前で8月4日放送予定の30回から出演されるそう。今からとても楽しみです。

しかしその和泉式部、名前と和歌以外はほとんど知られていませんよね。その彼女を有名にしているのはひたすら“恋の和歌”です。

多くの方が最初に知る彼女の和歌は、『百人一首』の

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あらざらむこの世のほかの思ひ出に今ひとたびの逢ふこともがな

(私はこの世からいなくなります。だからあちらの世界に持っていく思い出に、もう一度あなたにお逢いしたいの)

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ではないでしょうか。

不肖著者も、中学の時にこの歌に接して思いました。「重いな…」と。そして、古典の模擬試験で、『和泉式部日記』には手も足も出ませんでした。

「ことのはの魔術師」

それから十年余、平安時代史の研究の中で、著者は劇的な二首の歌に出会いました。

『謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年』(著:榎村寛之/中公新書)

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物おもへば沢の蛍も我が身よりあくがれいづる魂かとぞみる

(こんなに恋しいと、沢の蛍も私の体から離れてあの人の所に飛んでいく魂に思えるの)

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この「あくがれいづる」という言葉が特にツボに来ました。

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暗きより暗き道にぞ入りぬべきはるかに照らせ山の端の月

(暗い人生を更に暗いものにしていきそうな私です。月よ遠くから見守っていてください)

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こちらの歌は煩悩(暗き道)からの解脱(山の端の月は仏の教えのこと)を願って詠まれたものですが、人生を一幅の絵のように語る言葉がとても美しいのです。

もちろんどちらも和泉式部の歌です。まさに「ことのはの魔術師」!

和泉式部は、越前守大江雅致の娘とされます。父が元式部丞だったので「式部」と呼ばれた(これは紫式部と同じ)ようです。

大江氏といえば学者系の五位クラスの貴族で、赤染衛門の夫の大江匡衡も同族です。

しかし和泉式部がようやく『光る君へ』に登場するのに対して、赤染衛門(凰稀かなめさん)は早くから出ていました。なおこの二人、もともとは別の派閥だったのです。

『和泉式部日記』に記された身分違いの恋

『和泉式部日記』(和泉式部の日記か、誰かが彼女になりきって書いた日記風歌物語かは議論がある)は、和泉式部と恋人・敦道親王の、長保五年(1003)四月から翌年一月までの恋愛日記です。

受領の娘と親王ですから、かなりの身分違いの恋だと言えます。

この敦道親王は、『光る君へ』には出てこなかった冷泉天皇の皇子。花山・三条天皇の弟にあたります。ちなみにドラマにて、花山天皇は本郷奏多さんが、三条天皇は木村達成さんが演じていらっしゃいました。

冷泉の皇后は朱雀天皇(村上天皇の兄)の一人娘で昌子内親王といい、和泉式部やその両親、更に夫になる橘道貞(のちに和泉守になったので「和泉」式部)もこの人に仕えていました。

敦道は昌子の義理の子。なので、和泉式部との接点もこのあたりから生じたようです。

しかし和泉式部の身分ちがいの恋はこれが最初ではありません。

和泉式部、もとは敦道親王の兄・為尊親王と恋をしていて、為尊親王が若くして亡くなった後に、敦道親王と恋に落ちています。

スキャンダルを繰り返したことで、親からは勘当。親王の正妻は家を出、彼女がその邸に入る…というなかなかハードな道を選んだのです。

藤原公任も紫式部も評価

しかし敦道親王も寛弘四年(1007)に、27歳で先立ってしまいました。

和泉式部の歌碑。京都市・貴船神社(写真提供:PhotoAC)

『和泉式部集』には、

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身よりかく涙はいかがながるべき海てふ海は潮やひぬらむ

(泣いても泣いてもどうして涙が止まらないのだろう。海という海は潮が引いてしまったみたい)

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という、涙を海に例える狂おしいまでの悲しみの歌があります。

ドラマでは町田啓太さんが演じている才人貴族・藤原公任が、和泉式部の歌を赤染衛門のそれより高く買っているのは、こういった天才的な言葉の選び方にあります。

紫式部も『紫式部日記』で、彼女の素行や態度を批判。しかし歌については「本物の歌人ではない」と言いつつも、「をかしき一ふし」が目に留まるとしています。

そんな天才歌人を周りが放っておくこともなく、傷心の彼女に彰子サロンからスカウトがかかったようなのです。

最後に、私が今気になっている和泉式部の歌をご紹介します。

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わが袖は水の下なる石なれや人にしられでかわくまもなし

(私の着物の袖は水の下の石なのだろうか。人に知られていないけど涙で乾く間もないわ)

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「泉」里香さんが演じる「和泉」式部ということで、「水」の歌を思い出したという次第です。

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