「心あるポエム聞きたい」首相目指す小泉進次郎氏へ 環境相時代花渡した81、75歳記者

自民党総裁選(27日投開票)に立候補した小泉進次郎元環境相(43)は政界きっての「人たらし」ともいわれる。6日の出馬会見では、「知的レベルが低い」と質問をした記者に「肝に銘じ、『マシになったな』と思ってもらいたい」と切り返し、環境相時代を引き合いに「同じような質問を最初の会見で指摘された。そのベテラン記者とは退任の花束をもらう関係になった」と語った。このベテラン記者に、小泉氏の環境相時代を振り返ってもらい、総裁候補としての期待と課題を聞いた。

「手腕を期待されてじゃない」

小泉氏が言及したベテラン記者は、専門誌「エネルギーと環境」の社長兼記者の清水文雄さん(81)と環境新聞記者の小峰純さん(75)の2人。超ベテランの域に達しても、一記者として会見に参加し、独自の見地から質問を飛ばす。

小泉氏が環境相に就任したのは2019年9月。当時2人は小泉氏の起用に懐疑的だった。党の環境部会などで小泉氏を見かけた記憶はないからだ。

清水さんは就任会見で「環境相は重要閣僚じゃない。大臣が環境省に来たのは、環境行政の手腕を期待されてではなく、自民党が解散総選挙をにらんでではないか」と質問を浴びせた。38歳で知名度の高い小泉氏を入閣させることで、政権にとって話題づくりにしたい狙いがあったと感じていた。

小泉氏は清水さんに対し、「政治部みたいですね。誰が来たら重要閣僚だと思うか、書いていただければ面白い政治コラムになる」と牽制(けんせい)した上で、「環境省の課題はどんな閣僚が来ても世界の最重要課題でしょう。そこに充てられた。ありがたい」と述べた。

〝無茶〟な要求も…

小峰さんは、小泉氏の地元・神奈川県横須賀市で東京電力の関連企業が進めている火力発電所の建設計画の白紙撤回を求めた。

「気候変動だなんだときれいごとを言っているが、いっそのこと東電の社長を呼んで、『中止したらどうか』、これくらいのことを言って、初めて価値がある。あなたのシマですよ。隗より始めてはどうか」

小峰さんは経済産業相らの記者会見も含め、機微に触れる話題に切り込んでいくことで知られる。「要注意人物」と事前に報告を受けていたのか、小泉氏は「噂に違わぬ小峰さんですね。横須賀はいい所ですよ。ぜひ来てください」と述べ、「一地域のために仕事するのが国会議員ではない。日本全体、世界の中の日本を考えて仕事するのが役割だ」と答えた。

小峰さんは、自身の名前を挙げられたことで「進次郎…、なかなかいいじゃないか」と〝籠絡〟されたという。清水さんも小泉氏の会見の対応について「口八丁手八丁の政治家と思っていたが、なかなかざっくばらんな男だ」と思ったという。

小泉氏の回答の中身はないに等しいが、霞が関で50年近い取材歴を持った2人を魅了するのは独自の「技術」なのだろうか。

反対されるからニュースになる

環境相時代、小泉氏は誕生した長男のため「閣僚の育休」を取得するなど働き方改革を率先した。一方、環境行政では石炭火力発電所の輸出停止を訴えていった。20年7月には政府方針に輸出支援要件の厳格化が盛り込まれ、同年10月に「2050年カーボンニュートラル」(CN)を宣言した菅義偉首相(当時)を後ろ盾に、経済産業省が所管するエネルギー政策に切り込んでいく。

小峰さんは、小泉氏について地方自治体を含め、脱炭素の機運を高めたという点を評価し、「戦略的に政策を考えていた」という。

例えば、50年までに二酸化炭素の実質排出量ゼロを宣言する「ゼロカーボンシティ」は小泉氏の就任時、4自治体だったが、2年の在任で400自治体まで増えた。小峰さんは「小泉氏は直接首長に電話し、宣言を訴えていた。小泉氏に突然頼まれて驚いちゃう。発信力を武器にした」という。小泉氏退任後の22年度に始まった「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」は脱炭素に取り組む地方自治体を財政支援する仕組みで、小泉氏が在任中の財務省出身の環境省幹部らと練った戦略だという。

小峰さんは、「石炭火力に狙いを定めたのは政治家としての勝負勘だろう。みんなが賛成なら手柄にならない。経産省が反対しているからニュースになる」と指摘する。

清水さんは、小泉氏の一連の脱炭素政策について、「環境行政を長く取材してきた身として、画期的だ。経済成長を優先させてきた中、環境問題が経済・社会活動に上蓋をかけたことになる」と振り返った。

パフォーマンス的対応は若さから

小泉氏の環境行政に不満はないのか─。

政府は21年4月、30年度の温室効果ガス排出量の新たな削減目標について13年度比46%減という目標を掲げた。13年度比26%削減とした6年前の目標を大幅に引き上げた形となる。

経産省との調整過程で、小泉氏は水面下で「50%超減」を主張していた。米民主党の主張と足並みをそろえる形だ。これに対し、梶山弘志経産相(当時)は反対した。各省庁がさまざまな分野の削減可能量を積み上げても、およそ到達しない数値だからだ。

小峰さんは「海外の政治家に評価され、わが国の発信力を高めることは外交戦略上良いことだ」と理解を示したが、清水さんは「国際政治家として箔(はく)をつけたかったのでしょう」と述べ、急進的な脱炭素方針が国内産業に与える影響を踏まえ、「国民にとってマイナスになりかねない要素もある。非常にリスキーな所はある。パフォーマンス的に対応するのは若さだろう」と指摘する。

最大排出国を巻き込めたのか

温暖化の原因とされる二酸化炭素の排出に関して、日本は世界の3%弱。世界の3割を占める中国の対応が気候変動対策の肝となる。

清水さんは中国に対する小泉氏の姿勢について「弱腰でなかったか。国際政治家を目指すならば、リスクを冒してでも中国に(脱炭素を)主張すべきだった。中国が減らさない分を、日本がギリギリ減らすという構図は長く続かない」と不満をこぼす。

小峰さんも「小泉氏は中国に対して何も言っていない」とつぶやいた。

最後はノーサイド

小泉氏が環境相を退任する際、環境省の記者有志が花束を贈る場面があった。小峰さんが音頭を取って、清水さんが小ぶりの花束を手渡した。

2人によれば、記者有志が花束を贈るのは環境庁時代の1982年に退任した原文兵衛長官にさかのぼるという。

「為政者と報道機関は緊張感を保たねばならない」と渋る清水さんに対し、小峰さんはこう説得した。

「記者会じゃなくて有志ならいい。きつい質問もしたけど、最後はノーサイドだからさ」

「ポエム」でいいじゃない

小泉氏は今回の総裁選に立候補し、首相就任を目指している。小峰さんは一抹の不安も抱えているという。

首相は自衛隊の最高指揮官として有事を指揮する立場となるが、小泉氏は外交や安全保障分野に専門的に携わった経験は薄いといえる。

清水さんは、総裁選での小泉氏の主張について「地球環境の『ち』の字も言っていない。他の候補もだが、小泉氏は何のために環境相をやったのだろうか。在任中は環境行政と経済対策は一体だと言っていたのに」と物足りなさを感じる。

小泉氏を巡っては、環境相就任直後に「30年後の自分は何歳かな」というなど独特の表現が「ポエム」と評され、物議を醸した。一方、総裁選では会見前に質問を集め、原稿に沿った答えに終始するなど、封印しているかのようだ。

小峰さんは、独特の表現でこうエールを送る。

「ポエムなきもの政治家たる資格なし。聞きたいのはチャットGPTじゃなくて、心あるポエム。ポエムの究極はやさしさですよ。今のままじゃ持ち味を殺してしまうじゃないか」(奥原慎平)


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