身近な必需品を防災ポーチに!【逃げる技術!第9回 防災編② 】大きめリュックで備える

藤井セイラ「モラハラ・DVから 逃げる技術! 「この結婚失敗かも……?」と思ったら知っておきたいTips50」

身近な必需品を防災ポーチに!【逃げる技術!第9回 防災編② 】大きめリュックで備える

DVから子連れで逃げた編集者の藤井セイラさんが「安心・安全・HAPPYなDV避難」を描くエッセイ。モラハラって何? どこに相談する? 親にどう話す? お金は? 「離婚だって結婚情報誌みたいに明るく語りたい!」と、体験談&Tipsをつづります。

今回は前回に続き番外編として、藤井さんが今年1月1日の能登半島地震で被災した体験を基に、災害時、子連れで逃げるときに得た気づきをお届けします。

イラスト/藤井セイラ 監修/太田啓子弁護士(湘南合同法律事務所)

5分弱で高台への避難が完了

能登半島地震で被災された方にお見舞い申し上げます。今回も番外編として「災害から逃げる」をテーマに書かせていただきます。

わたしの実家は富山県で、自宅では震度5強の揺れを観測しました。海抜は3メートル、河口のそばの家なので、津波警報を聞いてすぐさま靴を履き、5歳と8歳の子ども達と走って逃げました。

本震が16時10分、津波警報発令が16時12分、海抜30メートル超の高台に避難を完了するまで5分弱でした。

避難先の高台をGoogleマップで見ると道のりは750メートル、徒歩9分と出ます。徒歩と自動車を組み合わせたので、子どもがいながらも5分弱で避難できたのだと思います。徒歩、自動車、自転車など、移動手段は臨機応変に組み合わせるのがよいと感じました。平時のときにシミュレーションしておくとよいかもしれません。

水平避難だけでなく、高い建物に上る「垂直避難」も選択肢に

祖母の暮らす海のそばの老人ホームでは、その日は一晩、垂直避難をしたそうです。垂直避難とは、建物の中で上階に移動することです。

障害や病気があったり、乳幼児がいるなどで機敏に動けない、また道路の損傷が激しいといった場合には、水平避難(海抜の高い場所まで移動する)にこだわらず、とにかく早く、高さのある建物の上階へ上ることがよいとされています。閉じ込めリスクがあるため、エレベーターは使いません。

垂直避難は津波に限らず、近年増えている大規模水害においても重要な選択肢です。図の中央のような標識のある「津波避難ビル」を見かけたら、普段から意識しておきたいと思いました。津波避難ビルは、4階建以上が目安とされています。(画像の出典:内閣府・防災情報のページ「災害種別避難誘導標識システム」JIS Z9098防災標識ガイドブック)

防災編 Tips11
これらを知っておくと安心!
①自宅・学校・職場などの海抜
②津波警報が出たときに逃げる場所
③避難先まで、徒歩や車で何分かかるか
④家族の集合場所と津波の一時避難先は別。それぞれのいる場所から最短で逃げる
⑤垂直避難のできる津波避難ビルはあるか

地震発生直後、LINE通話は使えなかった

高台への避難を終えると、わたしにも母にも、安否を尋ねるLINEの通話やメッセージが続々と入ってきました。そのときはLINE通話では音声がまったく聞こえませんでした。

通常の電話でなら通話できたので、やはり、互いの電話番号を知っておく必要性を実感しました。母も「あらまー、最近はLINEばっかり交換して、番号のわからん人もおるわねぇ」と話していました。

ただ、電話がつながったのは、人口が少ない地方だったからこそかもしれません。2011年の東日本大震災では大規模な輻輳(回線の混雑)が起こり、14:46の地震発生から夜10時頃まで、被災地と首都圏では電話のつながりにくい状態が続きました(参考:総務省Webサイト)。

今回、不安だからこそ声を聞いて元気か確認したいという心情を身をもって知りました。しかし、やはりパケットでやり取りをするテキストメッセージのほうが通信インフラへの負担が少なく、災害時には有効です。

防災編 Tips12
家族や友人とは、電話番号、LINE、SMS、SNSなど複数の通信手段を確保しておくのがベター。

「普段通り」を心がけて子どもの不安に対処する

夜にかけてママ友からもLINEメッセージが次々と届きました。「大丈夫ですか? バッテリーの心配もあると思うので返信は不要です」とあり、心遣いがありがたかったです。「既読」にするだけで互いにひとまずの安否確認ができることは非常に便利でした。なお、もともとこの「既読」機能は、東日本大震災を経てそのような使い方をされるために実装されたのだそうです。

緊張の面持ちだった子ども達に「ねぇ、○○ちゃんのママから連絡だよ。わたし達のことを心配してくれてるよ。ありがたいね」と伝えると、その度に少しだけニコッとしました。子どもはストレスを感じて一人は饒舌に、一人は寡黙になっていました。

わたしはつとめて明るい声で「大丈夫だよ。念のために避難してるんだよ。津波警報が終わったら帰ろうね。NHKの人が『避難して』と大声でいうのは、昔、逃げ遅れた人がいるから、わざと命令しているの。わたし達はもう避難完了してるから、いいんだよ」と、特に下の子には、抱っこして何度も伝えました。

災害報道自体が子どもにはトラウマになることもあるといわれています。ネットとスマホは使えていたのだから、子どものためには、緊急性が低くなった時点でテレビの地震情報は切るべきだったかもしれない、と反省しています。

なお、翌日以降も余震は続きましたが、なるべく地震のことを考えなくてすむように、ぬりえやシール貼りを買ってきて手先を使う作業をしたり、絵本を読んだり、アニメを見たりと普段通り過ごすよう心がけました。Eテレの「おかあさんといっしょ」などの見慣れた番組も、子どもがリラックスするのでありがたかったです。

「普段使うもの」を詰め込んだ防災ポーチを

先述の通り、高台へは自動車で避難しました。数時間、車中で待つ間に「居住空間としての車」ということを考えました。

暖房があり、カーナビでNHKの地震情報が見られます。正月の元日はスタンドも休みになるため、大晦日にガソリンは満タンにしてあり、灯りの心配もありません。車内にはティッシュペーパー、ウェットティッシュ、ゴミ箱もあります。

あとで詳細を書きますが、車内に防災用品を備えておけば「移動できる避難スペース」となるのだ、と思いました。

ただ、子ども達はずっと狭い車内にいると動きたくなってきます。このままいつまで車にいたらいいのだろう。落ち着かない雰囲気になってきたとき、助手席の母がごそごそとハンドバッグの中をあさって「あ、あった」といい、ふりむいて「はい、飴」と渡してくれました。いわゆる「おばちゃんの飴」です。黒柳徹子さんのおだんご頭からも出てくるという飴です。血糖値が下がるとイライラや不安が増します。迷わず受け取ってなめました。

この日は結局、わたし達親子は高台にある公民館で泊めていただきました。このときに「一晩、避難所で過ごすときにあると助かる!」と実感したものを以下に書きます。

・タオルハンカチ(タオルならなおよい)
・ティッシュ
・アルコールなしのウェットティッシュ
なお、赤ちゃんのおしりふきは最強です。子どもの顔や体もやさしくふけます。
・保湿剤(乳液など。アトピー性皮膚炎などのある場合は欠かせません)
・アルコール
・マスク
・絆創膏
・おやつ(あめ、チョコ、プロテインバーなど)
・毎日飲んでいる薬(悪化させないよう、こういうときこそ必須)
・鎮痛剤(解熱剤)
・スマホの充電器、モバイルバッテリー
・筆記具
・トランプなど、子どもの気分転換になるもの
・歯ブラシ
・水筒かペットボトルの飲み物

写真のように、水と歯ブラシ以外は、A5サイズのポーチ(100円ショップのもの)にすべて収まりました。何も特別なものはありません。普段から使う、どこの家にもある、安価なものをひとつにまとめただけです。

いまはリュックにこのポーチを入れっぱなしにしています。今度、お薬手帳の最新のページのコピー
もここに追加しようかと考えています。

防災編 Tips13
普段から持ち歩ける防災用品を、ポーチにまとめて。

給水車から水をもらうときも、大きなリュックは活躍

地震のあと、リュックサックを一回り大きなアウトドアブランドのものに変えました。大容量で背負って走りやすいものにしたのです。以前は、普段から大きなバッグを持つのはちょっと……と思っていたのですが、「余分なものが入る=緊急時に子どものものを詰められる」と考えるようになりました。

また断水時に自動車がない場合、給水を受けてもリュックに容量がないと運べないと知ったからです。大量の水を腕だけで持ち上げると腰をいためるリスクがあります。

マイカーがあるなら、車にある程度の生活用品を積んでおくと、そのまま災害時の避難スペースになります。以下もおすすめです。どれもあまりかさばりません。

・スマホやタブレットを車から充電するためのアダプタ
・2リットルペットボトルの飲料と紙コップ(水だけでなくコップも!)
・ビスケットなどの食料
・ポップアップテント(3,000円くらいから買えて軽量。避難所での仕切り用に)

また、アルミ毛布と携帯トイレは、ポケットティシュサイズのコンパクトな使い捨てのものがあると知り、それも手に入れました。

また、今回の地震では倒壊した建物に下敷きになる痛ましい事例が数多くありましたので、声を出せなくても助けを呼べるようにホイッスルも買いました。

防災編 Tips14
大きなリュックは安心。水を運ぶときにも役立ちます。
マイカーはそのまま避難空間に。充電器、水、紙コップ、毛布などを積んで。

なお、泊めてもらった公民館は、市が開いた避難所ではありませんでした。夜7時の時点では地域のあちこちで断水が始まり、わたしの実家もその中に含まれていました。

避難した高台のそばにたまたま同級生が帰省していました。LINEで「車内にずっといる。自宅は断水していて、子どもを連れて低地に帰るのはこわい。あとでトイレを借してもらえないか?」と聞くと、友人がそのお父さんに伝えてくれて、お父さんが町内会長さんに連絡してくれて、公民館の鍵を開けてくださったのです。

感謝を伝えると友人は「いやー、だってこれは津波警報、朝まで解除にならんやろ。家に戻れんよね」と話していました。実際、翌朝10時まで警報は解除されませんでした。

同じ高台に避難していた他の人達にも「あそこの公民館を開けてもらえます。トイレも使えるそうです」とお知らせして、一緒に入りました。あとから話を聞いてやってきた人もいました。公民館で過ごしたのは、みなさん赤ちゃんや子どものいる方か、妊婦さんでした。

わたし達の地域では津波の直接被害はなく、大人だけの家庭の多くは、夜には家に戻ったのです。夜中に余震が来ても大人だけなら避難できる、という判断でしょう。わたしは5歳と8歳を連れて暗い中をふたたび逃げるのは避けたいと思い、公民館で一晩過ごしました。

自主避難所とは何か?と知る

夜7時頃に市の災害対策本部に電話をかけて問い合わせると、4カ所の避難所を開けたといわれました。しかし、それぞれ海の近くだったり、遠かったりして、そこに移動するのは現実的ではありませんでした。公民館にいる旨を伝えると「市の避難所以外には毛布や食料の配給はできない」ということでした。

翌日以降のニュースで、「被災地で自主的に避難を続ける人がいる。自治体の指定の避難所でないと物資が届かず困っている」という話が何度も流れました。事情を知らなければわたしも「どうして指定避難所に移動しないの?」と思っていたでしょう。

津波警報の出ているときに、避難先を選ぶ余裕はありません。そして一度避難すると、そこから別のエリアへ移動するというのは簡単ではないのです。もし道路が寸断されていたら移動できません。お年寄りや子どもであれば、度重なる環境変化がさらにストレスになります。

障害のある方が、避難所では周囲の人に迷惑をかけてしまうと悩み、損傷した自宅に戻るという話も聞きました。ペットを家に置いていけず、車中泊を続ける人もいたようです。

初日の避難は命からがらになるので仕方ありません。むしろ、メッシュ状に細かく公民館があるありがたみを痛感しました。ただ、地震発生の翌日以降は、より速やかに、ある程度のプライバシーが保たれて衛生的な避難所が運営されるように、と願います。特に衛生面は非常に大切だと今回痛感しました。

災害時こそ重要さを増す、うがい・手洗い・歯磨き

災害時はストレスや疲れから、風邪をひきやすくなっています。さらに地震発生から数日間は、断水していました。

水がないと、うがい・手洗い・歯磨き・トイレ・洗濯・シャワー・入浴・調理・皿洗い・拭き掃除・ペットの世話・植木の水やりなど、できなくなることが非常に多いのです。衛生管理がとても難しくなりました。

子どもには、うがい・歯磨きはペットボトルの水を使ってでもしっかりさせるよう気をつけていましたが、やはりついつい水を節約してしまうからか、家族みんなで喉が痛くなりました。水をたっぷりは使えないので、洗口液やうがい薬も使いました。

母も施設にいる祖母に、何度も「水がもったいないと思わんと、うがいはちゃんとしられ(しなさいよ)。入れ歯も洗うんやよ」と伝えていました。道路がダメになって施設まで会いにいけなくなり、LINEでメッセージを送ったり通話をしたりして励ましていました。

防災編 Tips15
水がないときこそ、口腔ケアは念入りに。感染症や虫歯を予防します。

トイレも我慢しがちになるので、膀胱炎にかかりやすくなります。試してみてわかりましたが、我が家の洋式トイレの水を流すには、2リットルのペットボトルで6本分をタンクに注ぐ必要がありました。重労働ですし、いくら水があっても足りません。結局、昼間は断水のない地域まで車や徒歩で出かけてはトイレを済ませていました。

なお、流すのに必要な水の量はトイレのタイプによって異なります。また、万が一、下水管に破損があった場合は、水を流すことで逆流のおそれもあります。我が家では父が何度も確認してから行いました。

父は、融雪用のポンプで農業用水から水を汲み上げ、しばらく置いてゴミを沈殿させ、それをトイレに運ぶ、というルーティンを1日で生み出しました。これで給水車の上水をトイレに使わずに済みます。田舎のたくましいDIY精神を感じました。

また、飲めるほどきれいな水をトイレに流すなんて、わたしはなんと贅沢なことをしていたのか、と断水によって気づきました。

防災編 Tips16
トイレを流すには大量の水が必要です。
また下水管が破損している場合には、流すと逆流のおそれがあります。

断水になると何が困る? 何が売り切れる?

幸い、多くのスーパーやドラッグストアは地震翌日から営業していましたが、ミネラルウォーターはすぐ品切れになりました。皿洗いができなくなるため、紙コップ、紙皿、割り箸、ラップなどもよく売れていました。ラップが必要になるのは、お皿にラップを巻いて、使用後はラップのみ取り替える、という使い方ができるからです。

スーパーマーケットも水が出ないまま営業している店舗もあり、お惣菜を買おうにも、そもそも製造されておらず、お弁当もおにぎりもないところがありました。自宅で炊飯や野菜洗いができないので、パックごはん、カット野菜、それからご飯のかわりにパンが売れるようで、それぞれ売り場は空っぽでした。パンにつけるジャムやマーガリン、蜂蜜なども品薄になっていました。

人口の少ない地域なのでこの程度で済んだのかもしれません。大都市であれば物資は払底するでしょう。家庭での備蓄はやはり必要だと思い知らされました。生野菜が摂れなくなったので、子ども用サプリを子どもには摂らせました。防災用品にはビタミンのサプリも入れておくとよいと思います。

また洗濯もできないため、コインランドリーも一日中混みあっていました。また、スマホ決済のできないコンランドリーでは大量の小銭が必要になります。やはり現金は持っておかないと困る、とわかりました。

風が吹けば桶屋が儲かるではありませんが、水が出ないとはこんなにも多方面に影響が出るのだ、と身にしみました。スーパー銭湯もすごい混雑ぶりで、駐車場はつねに満車、風呂屋の手前の幹線道路に渋滞の列ができていました。洗い場でもシャワーが足りないため、裸のまま並んで待つ、という状態でした。

それでも浴槽につかった人達はみんな「ほーっ」といいながらニコニコしており、わたし達にとって入浴というのは単に衛生のための行為ではなく、ひとつの文化なのだな、と感じました。

防災編 Tips17
断水で必要になったもの:ミネラルウォーター、給水車から水を受けるためのポリタンク、パックごはん、ラップ、紙皿、紙コップ、割り箸、使い捨てスプーン、ビタミンサプリ、小銭など。

人とのコミュニケーションの重要性が身にしみた

ここまで地震で困ったことを書きましたが、悪いことばかりではありませんでした。避難した夜は、公民館の隣りのお宅の方が「電気ついとるのが見えたから」といって「家にあるもんやけど、よかったら食べて」とカップラーメン、割り箸、ジュースなどを差し入れてくださいました。とてもありがたかったです。他に避難している方とも、自宅から持ってきたお菓子やコーヒーを交換して、会話しました。

祖母も施設に入所して以来、なじみのある人が周りにおらず、なんとなく元気をなくしていたのですが、建物に避難してきた人達に部屋の備品を貸してあげたりしたらしく、人とのふれあいがあったようで、電話で聞くと久しぶりに声に張りが戻っていました。

災害に立ち向かうには、モノも大切ですが、コミュニケーション、そして知識や情報がとても大切だと思いました。何に困っているのか、どんな助けを得られるのか、人に伝える、聞く、頼む、感謝を伝える、自分が知っている情報を正確に提供する、そういった意味でコミュニケーションはとても重要です。

また、子ども達のうち一人は、ストレスでかなりダメージを受けました。そのケアをするのに、昨年、保育士の資格を取るために勉強した内容がとても役立っています。知識や情報が状況を打開することがあるのです。

子どもは東京に戻ったいまも、夜中でも逃げられるようにと靴下を履き、室内履きとヘルメットを枕元に用意して寝ています。これは安心して眠れるようにと、親子で一緒に考えた入眠儀式です。不安に向き合って対策を考えることで、食欲も戻り、寝つきもよくなりました。

この連載を始めさせていただくときに、情報をシェアすることでDVに苦しむ人が一人でも減ってほしい、「知る」ことによって、誰でももっとよりよく生きられるはずだ、と考えました。改めて、そのことを信じてやっていきたいと思いました。

***

次回から、またDVについて書いていきます。次は「DV避難について、事前に子どもに伝えるべきなのかどうか?」についてです。

先週、実家から、「知っているパン屋さんが再開したので和倉まで買いにいってきた。七尾の一本杉通りも大変な状況だった」と写真が送られてきました。中能登の和倉でそのような状況なら、奥能登はどうだろうか、と思いやられます。一日も早い被災地の復旧をお祈りします。

当連載は毎月第1、第3月曜更新です。次回は3月4日(月)公開予定です。

ジャンルで探す