「井上尚弥が義務を果たさないのは恥。私と対戦しないならベルトを返上しろ!」12月の対戦を見送られたWBA指名挑戦者アフマダリエフが怒りの挑発

 プロボクシングのスーパーバンタム級の元WBA&IBF世界王者で現在WBA1位のムロジョン・アフマダリエフ(29、ウズベキスタン)が同級の4団体統一王者である井上尚弥(31、大橋)に「指名試合の義務を果たさないのは恥ずかしいこと。私と戦わないのならWBAのベルトを返上せよ」と怒りを込めて挑発した。米専門サイト「ボクシングシーン」の取材に答えたもの。井上は12月の次期防衛戦でWBO&IBF同級1位のサム・グッドマン(25、豪州)と対戦予定でWBAの指名挑戦者であるアフマダリエフを後回しにしたことが気に入らないようだ。

 「私は井上を倒せる」

 モンスターは体がいくつあっても足りやしない。
 来日した元3階級制覇王者のカシメロが対戦を熱望する井上を挑発したが、海の向こうからは、WBAの指名挑戦者であるアフマダリエフが、また怒りのクレームをつけてきた。米専門サイト「ボクシングシーン」のオンラインインタビューにウズベキスタンから応じたもので、なかなか、お鉢が回ってこない状況を「奇妙な状況だ」と言い、こう続けた。
「(WBAの)ベルトを持っている以上、井上は(指名試合の)義務を果たさなければならない。彼が怖がっているのか、彼のチームが怖がっているのか。何が起こっているのかわからない。私は『日時と場所を指定してくれればそこに行くよ』と言ってある。どこでやるかなんて私には関係ない。私はずっと敵地で戦ってきた。それは私にとって問題ではなかった。準備はできているし喜んで参戦する」
 井上が自分との指名試合を先送りにして12月の防衛戦相手にWBO&IBF同級1位のサム・グッドマン(豪州)を指名したことが気に入らない。
「私の名前を出し、私と戦いたいと言っているにもかかわらず、彼らは決して接触してこないのだからすべてはハッタリなのだ。もうタイトルを返上すればいい。ルールは、みんな同じだ。カネロ(・アルバレス)は(IBFの指名挑戦者であるウィリアム・スカルではなくエドガー・ベルランガと対戦したことで)タイトルを剥奪された。なぜ井上は剥奪されないのか。あのベルトは私のものだと信じている。私は判定で(マーロン・タパレス)に負けたけど、まだチャンピオンだと感じている。井上戦では、それを証明できる。『井上を倒せる』 と信じているからね」
 アフマダリエフは、WBAのベルト返上を要求した。彼が説明したようにスーパーミドル級の4団体統一王者だったサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)はIBFの指名試合を蹴ったため、IBFのベルトを剥奪された。だが、指名試合に厳格なIBFと違い、WBAは興行優先の考え方で、しかも井上は通常の指名試合の期限などに縛られないスーパー王者。井上は「アフマダリエフもグッドマンもいずれどっちともやるんで心配しないでください(笑)」と語っており、何もアフマダリエフとの対戦を避けているわけではない。IBFとWBOの2団体の指名挑戦者を優先しただけの話だ。
 それでもアフマダリエフの怒りが収まらない。
「私は122ポンドで最高のファイターだ。彼を倒せる選手がいるとすれば、それは私だと世界中の誰もが知っている。私はまだこの階級のチャンピオンのような気がしているんだ。井上のことは本当に尊敬している。彼は偉大なファイターだと思うけど、口先だけだ。行動をしているわけじゃない。彼は世界最高のファイターと呼ばれている。だが最高のファイターが自分の義務である指名試合をしたくないというのは恥ずかしいこと。彼らは試合を避けているが、私はそれでいいと思う。タイトルを返上して次に進めばいい。私と戦いたくないと全世界に言えばいい。ただし、私の名前を出して『戦いたいけど絶対に戦わない』なんて言うな!」

 

 

 アフマダリエフは13戦12勝(9KO)1敗の戦績を持つ強打のサウスポー。リオ五輪では準決勝で元WBO世界フェザー級王者で金メダルを獲得したロベイシ・ラミレス(キューバ)に敗れたが、銅メダルを獲得。2020年にプロ8戦目でWBA&IBF世界同級王者のダニエル・ローマン(米国)を2-1の判定で2本のベルトを奪取した。その後、母国でIBFの暫定王者だった岩佐亮佑を5回TKOで沈めている。回転力のある攻撃力が武器で、評価は高いが、昨年4月に米国でマーロン・タパレス(フィリピン)に1-2の僅差判定で敗れ2つのベルトをタパレスに奪われた。
 そのタパレスと井上が昨年12月に対戦して10回KO勝利で史上2人目の2階級4団体制覇を成し遂げた。アフマダリエフがタパレスに負けていなければ、昨年12月に対戦は実現していたのだ。
 ただアフマダリエフはその判定に納得していない。
「あるジャッジは私に10ラウンドを与えた。私はディフェンディング・チャンピオンだった。私はペースを握っていた。より大きなショットを打ち込んだ。私の方がアグレッシブだった。もう少し早くプレッシャーをかければ彼を追い払えたかもしれないが、あの試合は私の勝ちだった。あの夜、ジャッジは間違いを犯したのだ。だから試合直後にWBAが再戦を命じたんだ。そしてタパレスのチームは、その再戦を避けた。井上との試合はすでに決まっていた。私のチームは勝者が私と対戦することになっていたから、それでOKだと言った。でもそれは実現しなかった」
 アフマダリエフの説明によるとWBAはタパレスとの再戦を命じたが、井上との統一戦が決まっていたため、その勝者とアフマダリエフが対戦するとの条件で統一戦が優先されたという。その中でアフマダリエフは昨年12月にケビン・ゴンサレス(メキシコ)とのWBA指名挑戦者決定戦を戦い8回TKO勝利している。
 だが、井上陣営は、アフマダリエフではなく、元IBF同級王者のTJ・ドヘニー(アイルランド)を次期挑戦者に選び対戦交渉に入った。WBAは6月13日に突然、9月25日までにアフマダリエフとの指名試合を行うことを井上陣営に指令し7月14日までに交渉を締結するように命じてきた。井上はスーパー王者で通常の指名期限に縛られないため、陣営は困惑。ベルトの返上さえ視野に入れていたが、その後のWBAとの話し合いで指名試合が回避されることが決まり、井上は4つのベルトを持ったまま9月3日にドヘニー戦に臨み、7回TKO勝利した。
 井上戦に備え4か月も米国で合宿トレーニングを重ねていたアフマダリエフは、「ちょっとオーバートレーニング気味だったから休養を取ることにした」とウズベキスタンに帰国。現在は母国の五輪チームと一緒に練習しているという。
「私はWBAの決定を待っている。私は12月に戦うつもりだし、タイトルをかけて戦えると信じている。彼が正しいことをすることを願っている。でももしそうでなければ、彼はベルトを剥奪されるだろうし、私はとにかく(剥奪で空位となったタイトル)をかけて戦うつもりだ」
 アフマダリエフは、ずいぶん勝手で先走った発言を続けた。大橋会長は「私も尚弥ももう4つのベルトへのこだわりはない。状況次第で返上しなければならないのであれば、それも仕方ない」との考え方を示している。

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