「井上尚弥にしては冴えずに物足りない。変な終わり方だ」12月に対戦予定のグッドマンがドヘニー戦を語りモンスターとの契約交渉を明かす…「勝つ方法はある」

 プロボクシングの井上尚弥(31、大橋)が12月に戦う最有力候補のWBO&IBF世界同級1位のサム・グッドマン(25、豪州)が6日までにTJ・ドヘニー(37、アイルランド)戦(3日・有明アリーナ)の感想とモンスター戦への意気込みを明かした。自身が所属するプロモーション「ノーリミット」のYouTubeに出演して語ったもので、井上が7回16秒にドヘニーの“棄権”でTKO勝利した試合を「一方的だったが中途半端で変な終わり方」と酷評。井上サイドとの交渉が進んでいることを明かして「勝つ方法はある」と豪語した。

 「凄いショットだ。右ストレートに右ボディストレート」

 早くもモンスターの“次の刺客”であるグッドマンが仕掛けてきた。彼が契約する豪州では最も大きなボクシングプロ―モーション「ノーリミット」が公開した約6分強のYouTube映像は、どこかの部屋の大きなソファにジムメイトと見られる人物と一緒に井上vsドヘニー戦をテレビ観戦しているグッドマンの姿を映し出した。白いTシャツに黒のジャージ。リラックスした格好のグッドマンは、試合開始直前に、そのジムメイトに「賭けようか?」とKOラウンド予想を持ちかけて自らは「オレは2ラウンドかな」と早期決着を口にした。
「最初のラウンドはあまり動きはないと思う。そして打ち合いの中で(ドヘニーが)つかまる。それがオレの予想だ」
 映像は編集されていて、グッドマンが、どのラウンドを見ているかは不明だが、リングに登場しているドヘニーの11キロ増量した肉体を見て「かなり体がでかく見える」との感想を漏らし、試合が始まると「右ストレートが井上の武器だが、右のボディストレートも効果的だ。すごいショットだ。あの右をたくさんもらうと危険だ」と井上の放つ右ストレート、そして右のボディストレートを絶賛した。
「まるでタップダンスみたいだ。(ドヘニーが)足を踏んでいたからだろう」
 そう発言したのはおそらく3ラウンド。ロープにつめた井上がドヘニーの右足の外、内と交互に左足を大げさに踏み変えた場面があった。グッドマンの見立て通りに、サウスポーのドヘニーが、前の右足で井上の左足を何度も踏みにくる反則行為が目立ったため「言い加減にしろ」のけん制の意味も込めた行為だったのだろう。
 父で専属トレーナーの真吾氏も、この場面を「サウスポーには左足を相手の右足の外に置けというのが基本だが、今のボクシングでは内側に置いて攻め込むパターンもある。踏まれたのもあるが、どっちもあるぞ、の揺さぶり、プレッシャーだったと思う」と分析していた。
 グッドマンが「勝負を決めるのは右ストレートからのボディショットだ」と再び話をした直後に表情が一変した。
「何があったんだ?変な終わり方だな。鋤骨かな」
 目の前であの幕切れシーンがあったのだろう。
 7回に井上にノーモーションの右を2発打たれたドヘニーはコーナーに後退。ボディショットを3発まとめられると右腰を押さえて、横を向き、足をひきずりながらロープ沿いに歩いて、膝をついた。再び立ち上がったが、まともに歩けずレフェリーが試合続行不能と判断してTKOを宣言した。
 試合後にはドヘニーのプロモーターであるマイク・アルタム氏は「6ラウンドに腰にパンチをもらって神経を痛めた。立ち直って戻れると思ったが、7ラウンドにさらに悪化した」と説明し、米メディアが投稿した映像によると、ドヘニーは控室でイスに足を投げ出して座り「腰の上の筋肉だよ。右足が使えないんだ。試合に戻ってなんとか押し返そうとしたが….ダメだったんだ」 と苦しそうに答えていた。
 グッドマンは試合全体を「TJ(ドヘニー)はところどころで試合を厄介にして、ちょっとしたチャンスは作ったが、試合は一方的だった」と総括した。

 

 

「ちょっとしたチャンス」とはジャッジの2人がドヘニーを支持した3、4ラウンドだ。後ろ重心で頭を下げて、上体を後方にそらす超守備的な姿勢で、いっこうに攻撃の意思を示さないドヘニーにたまりかねた井上はガードを上げてあえて打たせて誘う場面を作った。そこが「試合を厄介にした」というシーンになるわけだが、グッドマンは衝撃的なダウンシーンを演出できなかったモンスターをこう酷評した。
「一方的だが冴えない。物足りない。ちょっと変な終わり方だったな」
 そして話は12月に予定されている井上との対戦に向けて切り替わった。
「勝つ方法はある。オレのやりかたでプレッシャーをかければ勝てるチャンスはある」
 そう豪語してさらにこう続けた。
「最高の自分で挑む。頭を使ってスマートに戦わねばならない。彼はとても速く、カウンターもうまく、パワーもある。だからスマートにやらなければならない」
 頭脳的なボクシングを展開することを強調した。
 グッドマンは19勝無敗(8KO)のオーソドックスファイター。昨年3月にはドヘニーと対戦し、途中フラッシュダウンを奪い3-0判定勝利。6月には元WBA世界同級暫定王者で、井上とスパーリング経験もあるライス・アリーム(米国)に3-0判定勝利している。パンチ力はなく、どちらかと言えばジャブを軸に組み立てて距離を保ちながら総合力で勝ってきたボクサーで、井上も「正統派のイメージがある」と口にしている。5月6日に東京ドームで行われた井上とルイス・ネリ(メキシコ)戦の試合後にリングに上がり、「次に戦おう」とエールを交換したが、この9月3日の対戦には同意せずに“敵前逃亡”。7月に地元豪州で無敗でWBC世界同級8位のチャイノイ・ウォラウト(タイ)と前哨戦を行った。3-0で判定勝利したが、ダウンシーンはなく、手数ではタイ人が上で、左手骨折のアクシデントまで負った。
 グッドマンはすでに井上戦の勝利イメージを描いている。
「勝つために実行できることや戦略は確実にある」
 ただその「確実にある」という戦略を具体的に話することはなかった。
 まだ正式契約は、結ばれていないそうだが、水面下で交渉はスタートしていることをグッドマンが明かした。
「彼らのチームがコンタクトしてきたのは“オレと戦いたい”ということなんだろう。準備万全。ぜひ実現したい。やってやるよ」
 一度は“敵前逃亡”していて、いまさら何を言っているのか、とも思うが、2団体の指名挑戦者で、彼が現状のプロボクシングのランキング制度の中にあって、スーパーバンタム級の“最強挑戦者”の一人であることは確かだ。

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