ワーストスコア「75」はシード選手中1位! 平均飛距離134位の古江彩佳が“最も飛ばない”ベアトロフィー受賞者になれたワケ

古江彩佳が米女子ツアー平均ストローク1位の選手に授与されるベアトロフィーを日本人選手で初めて獲得した。「ドライビングディスタンス134位」だった古江は歴代で最も飛ばない受賞者となった。

162人中134位という飛距離でベアトロフィーを受賞

 古江彩佳が米女子ツアー平均ストローク1位の選手に授与されるベアトロフィーを日本人選手で初めて獲得するという快挙を成し遂げた。その古江のドライビングディスタンスは部門134位。過去のデータを調べると“最も飛ばないベアトロフィー受賞者”であることが分かった。飛ばない古江がなぜ大きな勲章を手にできたのか、その理由をデータ面から掘り下げてみた。

米女子ツアー平均ストローク1位の選手に授与されるベアトロフィーを日本人選手で初めて獲得した古江彩佳 写真:Getty Images

米女子ツアー平均ストローク1位の選手に授与されるベアトロフィーを日本人選手で初めて獲得した古江彩佳 写真:Getty Images

 まず、ベアトロフィーについて簡単に説明したい。シーズン通算70ラウンド(今季はパリ五輪も含む)など規定のラウンド数をクリアした選手の中で最も平均ストロークが良い選手に与えられる賞がベアトロフィーである。1953年に創設された歴史ある賞で、名称の由来となっているのは1920年代から30年代にかけて全米女子アマで6勝を挙げた伝説の米国人選手、グレナ・コレット・ベアだ。

 ベアトロフィーを獲得するには安定していいスコアを出すのはもちろんのこと、規定のラウンド数をこなすためにシーズン通してプレーするタフさも必要。今季は平均ストローク1位のジーノ・ティティクル(タイ)、同2位のネリー・コルダ(米国)とも故障で休んだ時期があったために規定ラウンド数に届かず、3位の古江が受賞した。1988年には岡本綾子が平均ストローク1位ながらラウンド数不足で受賞を逃した例もある。

 古江は153センチの小さな体で大きな病気や故障もなくシーズンを走り切った。その間、日本ツアーに6試合(日米共催の「TOTOジャパンクラシック」を除く)も出ているのだからスゴイ。

バーディー率も部門23位と高くない古江

 さて、歴代のベアトロフィー受賞者はアニカ・ソレンスタム(スウェーデン)やカリー・ウェブ(オーストラリア)、ロレーナ・オチョア(メキシコ)ら一時代を築いた名選手ばかり。顔ぶれを見ると、やはり飛距離が出る選手が多い。

 ドライビングディスタンスのデータが残る1992年以降で受賞者の当該年の同部門順位を調べると、今年の古江も含めた33人中、部門30位以内だった選手がちょうど3分の2にあたる22人もいた。ランキングに入るのは多い年で190人を超えるから30位以内はかなりの上位である。

 古江はというと、昨年より数字も順位も上がったとはいえ250.41ヤードで162人中134位でしかない。昨年までベアトロフィー受賞者のドライビングディスタンス順位が最も低かったのが2022年リディア・コ(ニュージーランド)の90位だった。つまり、100位以下でベアトロフィーをつかんだのは古江が初めてで、歴代で最も飛ばない受賞者になったのだ。古江と最後までベアトロフィーを争ったユ・ヘラン(韓国)は264.96ヤードで36位。古江より15ヤード近くも飛ぶ選手である。

 飛距離が出ないぶん、古江はバーディーを取る確率も高くはない。バーディー率(バーディーよりいいスコアも含む)は21.16%で部門23位にすぎない。ユは23.75%で3位だった。ユより高いのはティティクルとコルダ。やはり平均ストロークのいい選手はバーディーを取る力が非常に高いことが条件で、古江はそこからはやや逸脱している。

ワーストスコア「75」はシード選手で1位

 だがしかし、古江には“簡単にスコアを崩さない”という強みがある。ボギーかそれより悪いスコアを叩く確率はツアーで最も少ない11.17%だった。パーオンできなかったホールでパーセーブ(バーディーを含む)する確率を示すスクランブリングでも66.43%で1位。ピンチを切り抜ける力が米女子ツアーで最も高い選手だといえる。

 シーズンのワーストスコアにも“簡単にスコアを崩さない”ことが表れている。古江の今季ワーストスコアは75だった。これは、シード入りした80人の中で最もいいワーストスコアで、75だったのは古江だけ。76でも2人しかおらず、80人中半数以上の42人が80以上だった。この中にはコルダやパリ五輪金メダルのコも含まれている。

 平均ストロークは大叩きすれば一気に悪くなる。今季の古江はどんなに難しいコースでも、難しいコンディションでも、飛距離の不利を克服し、粘って、耐えてスコアをつくってきた。その積み重ねが日本人初の栄冠につながったわけだ。

 今季は24試合に出場して予選落ちはダブルスの「ダウ選手権」だけ。個人戦では予選落ちは1試合もなかった。これはシード選手の中で古江だけだ。

 ライバルのユをギリギリで交わしてゴールに駆け込んだ最終戦の最終ラウンドは5バーディー、1ボギーの68という好スコアだった。ただし、ショットが好調だったわけではない。7ホールでグリーンを外しながらすべてしのいで(唯一のボギーは3パット)つくったスコア。タイトルがかかる重圧の中、古江らしさが詰まったプレーだった。

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