億万長者の米国選手たちがライダー杯の分配金にこだわるのはなぜ? 欧州マキロイは「40万ドルが必要な選手は一人もいないはず」

今年行われたプレジデンツカップでは使途を限定しない出場料が選手に支払われたことが伝統に反すると批判の対象になったが、かねてから噂のあったライダーカップにもその流れは波及しそうだということが報道で明らかになった。

「ライダーカップの収益は一体どこへ行っているんだ?」

「愛と名誉のために戦えますか?」――そんな問いかけが、米欧そして世界のゴルフ界から聞こえてきている。

 米国チームと世界選抜チームの対抗戦、プレジデンツカップでは、これまで寄付を前提とした給付金15万ドルが支払われ、2022年大会からは25万ドルに引き上げられた。

2023年の前回大会で勝利し、カップを掲げるローリー・マキロイ。ライダーカップへの強い思いが伝わってくる 写真:Getty Images

2023年の前回大会で勝利し、カップを掲げるローリー・マキロイ。ライダーカップへの強い思いが伝わってくる 写真:Getty Images

 そして今年9月に開催された24年大会では、その25万ドルの給付金から「寄付が前提」という条件がいつの間にか取り払われ、実質的に賞金化していたことが判明。ゴルフ界は大いに驚かされた。

 そして、その事実が今後は米国チームと欧州チームの対抗戦、ライダーカップにも影響を及ぼすのではないかと見られていたのだが、案の定、米国開催となる25年ライダーカップでは、出場選手に40万ドルが支払われる見込みであることを英テレグラフ紙が報じ、ゴルフ界を騒然とさせている。

 その40万ドルを「賞金」と呼ぶべきか、「出場料」あるいは「アピアランスフィー」と呼ぶべきかは不明だが、どんな呼称になるにせよ、支払われるのは米国チームのみである。以前から「お金はいらない」「もらうべきではない」というスタンスを取り続けている欧州チームは、今後もその姿勢を維持すると見られている。

 1927年から始まったライダーカップは、創設当初から「国と大陸の名誉とプライドを懸けて戦う対抗戦」とうたわれ、賞金が支払われない「ノーマネーの大会」「無償の大会」であることは、ライダーカップの本質であり、アピールポイントでもあった。

 しかし、99年の全英オープンの際に、当時のスター選手だったマーク・オメーラペイン・スチュワートが「僕たちがプレーすることで得られているライダーカップの収益は一体どこへ行っているんだ? 僕たち選手は5000ドルの経費以上を受け取って然るべきだ」と初めて公の場で主張し、大会主催者であるPGA・オブ・アメリカに抗議したことは、言うまでもなく、大いなる物議を醸した。

 そして翌年、タイガー・ウッズが「選手は20万ドル、30万ドル、40万ドルをもらうべき。受け取った選手は、そのお金を適切に使うべき。ちなみに僕は全額寄付する」と語り、オメーラらの主張を後押しした。

 以後、米国チームには寄付を前提としてチャリティー給付金が支払われるようになり、選手たちが自分が選んだ団体へ寄付することが慣例化した。昨年大会では米国チームの各選手に20万ドルのチャリティー給付金が支払われた。

 しかし、それでもなお不満ということなのだろう。2023年大会では、米国チームメンバーのパトリック・カントレーが、かつてのオメーラやスチュワート同様、「ライダーカップの莫大収益は一体どこへ行っている?」という抗議の意を込めて、米国チームのユニフォームの一つである帽子の着用を拒否。終始、ノーハットでプレーした。

 そして、ノーハットのカントレーのマッチを応援していた米国チームの面々が、カントレーに合わせて、みな自身のキャップを取り、手に持って振り始めたところ、米国チームを応援していたギャラリーも一斉に真似をした。突如、会場に起こった帽子によるウエーブ(波)が、欧州チームの選手たちの集中力を阻害することになり、大騒動へ発展。

 それが、後に「ハットゲート事件」と名付けられた後味の悪い出来事だった。キャップを振った米国チームの面々の中には、カントレーがノーハットでプレーしている意味を知らず、「ただ、その場のノリで、みんなに合わせてキャップを振った」と明かした選手もおり、ハットゲート事件そのものが大会主催者への抗議だったわけではなかったが、そんな騒動を経た末に勝敗は欧州チームの圧勝となり、米国側の後味は一層悪いものになった。

「ライダーカップで戦える立場にはお金を払ってもいい」

 その後、PGA・オブ・アメリカと米国チームの面々との間では、水面下で交渉や討議が重ねられてきた様子で、ニューヨーク郊外のベスページが舞台となる来年のライダーカップでは、米国チームのみに1人40万ドルが支払われる見込みであることが英テレグラフ紙によって報じられた。

 今のところ、PGA・オブ・アメリカはノーコメントだが、同紙によると、理事会の承認待ちという最終段階にあるとのこと。米国チームのキャプテンやトッププレーヤーからの声も、まだ聞こえてきてはいないが、欧州側では、すでに批判の嵐が巻き起こっている。

 その筆頭は欧州チームのエース、北アイルランド出身のローリー・マキロイだ。

「ライダーカップに出場する両チームの合計24名の選手の中で、40万ドルを必要としている選手は一人もいないはずだ。2年間、試合で戦う合計104週のうち103週は(高額な)賞金をもらっているのだから、1週ぐらいは、純粋にノーマネーで戦っても良いのではないだろうか? 僕はライダーカップで戦えるという恵まれた立場に対しては、お金を払ってもいい。払ってでも出たい。ライダーカップと五輪の2つは、(お金ではなく)ピュアな戦いであるべきだ」

 そう語った上でマキロイは「ライダーカップで得られる莫大な収益」に関しても言及。

「(主催者のPGA・オブ・アメリカが)ビッグな収益を得ていると言われているが、ライダーカップは世界の5大スポーツイベントの一つなのだから、そうだとしてもおかしくはない。優れた才能には対価が支払われるべきだとしても、ライダーカップは、そういう話を超越したものであり、とりわけ欧州選手と欧州のツアーにとっては特別なものだ」

 マキロイの親友であるアイルランド出身のシェーン・ローリーも「ライダーカップを愛しているし、私はただただライダーカップに出たい」と語り、「お金が支払われるかどうかなんて関係ない」と言い切っている。

 欧州出身のレジェンドである英国出身のニック・ファルドも「1995年大会でチームメイトらとともに激戦を制した思い出以上のものはない」と語り、米国チームの面々がお金を受け取ることに首を傾げている。

 やはり英国出身の女子ゴルフのレジェンド、ローラ・デービースも「お金を求める人は恥ずべき人です。ライダーカッパーたちは代表選手に選ばれるまでに、すでに山ほど稼いでいるはず。お金をもらうためにライダーカップに出るなんて理解できない。もちろん、そう言っているのは(米国チームの)全員ではなく、数人だけなんでしょうけどね……」。

「来年大会ではギャラリーの1日入場券に750ドルもチャージする」

 欧州側からの批判に対し米国側の選手はまだ沈黙しているが、米メディアからは賛否両論が上がっているところが興味深い。

 元PGAツアー選手で、昨今は歯に衣着せぬTV解説者として活躍しているブランデル・シャンブリーは、自身は米国人だが、「マキロイがまたしても核心をつくコメントをしてくれている。その通りだ」として欧州選手たちの批判に同調している。

 一方で、米NBCスポーツのベテランゴルフ記者、レックス・ハッガードは「プロスポーツはチャリティーではない。それにPGA・オブ・アメリカは来年大会ではギャラリーの1日入場券に750ドルもチャージする。肝心の選手たちが、そんな大きなパイの一切れももらえないのだとしたら、それはあまりにも旧体質すぎる」と一定の理解を示す。

 しかし私は、少しばかり論点がずれているように感じられてならない。1999年に声を上げたオメーラやスチュワートも、昨年大会でノーハットを通したカントレーも、愛のため、チャリティーのために戦うのが嫌だと言っているわけではない。ライダーカップで得られる莫大な収益を主催者だけが独り占めすることに異を唱えているわけで、「パイの分配」に公平性や透明性が見えるようになれば、そして、その段階でチャリティー精神やチャリティー活動が盛り込まれれば、誰もが喜んで「愛と名誉のために戦う」に違いない。

「タダなら出ない」とか「お金をくれないならプレーしない」という話ではないことを、いま一度みんなで再確認した上で、PGA・オブ・アメリカには誰もが納得できる最終決議をしていただきたい。

文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。

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