「知っているのは松山英樹選手と渋野日向子選手だけです!」 ゴルフは好きでもトーナメントを見ない人が増えている?

インターネットやCSでのライブ放送が中心になり、地上波での放送は減少傾向にある国内プロツアー。実際、動画サイトなどでレッスン動画は見るけれど、プロのトーナメントは一切見ないというゴルファーも多いようです。

ゴルフするけどトーナメントは見ない人が多い

 ゴルフ好きが集まるスポーツバーでゴルフ談議をしていたとき、「そういえば今年の女子ツアーは誰が強いのですか?」と質問されました。「竹田麗央選手です」と答えたところ、なんと2人とも竹田選手のことを知りませんでした。1人は40代男性で、もう1人は30代男性です。

「女子トーナメントはあまり見ませんか?」と逆質問したところ、「こういうお店ではトーナメントの再放送が流れていることがあるので見ますが、家に帰るとトーナメントが見られる環境がないのでほとんど見ません」という答えが返ってきました。

レッスン動画は見るけれどプロの試合は一切見ないゴルファーは増えている 写真:PIXTA

レッスン動画は見るけれどプロの試合は一切見ないゴルファーは増えている 写真:PIXTA

 筆者がゴルフを始めた25年前は、先輩たちから次のようなアドバイスを受けたものです。「ゴルフを始めたなら、テレビでトーナメント中継を見てプロのスイングを目に焼きつけたほうがいいぞ。プロのスイングを見てもプロと同じように打てるわけではないけど、どういうスイングが理にかなっているか分かるようになるから」

 でも今は、テレビをつければトーナメント中継が見られる時代ではありませんし、2人はテレビをつけることもほとんどないそうです。

「スマートフォンでユーチューブのレッスン動画を見ていることが多いですね。だからオススメのレッスン動画が次々と流れてくるのですが、お酒を飲みながら見ているから、誰の動画が参考になって、誰の動画が参考にならなかったのか、全然覚えていないんですよ(笑)」

 筆者の周りには近年、こういうタイプのゴルファーが増えています。別にゴルフを始めたからといってトーナメント中継を見なければいけないわけはありませんし、楽しみ方は人それぞれです。

 ただ、ゴルフというスポーツは自分でプレーする人とトーナメント中継を見る人の層が比較的重複している印象があったので、「時代が変わったんだな」と思わずにはいられませんでした。

 この手のタイプのゴルファーでも名前を知っている女子プロの筆頭は渋野日向子選手です。2019年8月に「AIG全英女子オープン」で海外メジャー初制覇を達成したとき話題になったので、渋野選手の名前はみんな知っています。

 一方で、2021年6月に「全米女子オープン」で海外メジャー制覇を果たし、2024年6月の「全米女子オープン」でメジャー2勝目を挙げた笹生優花選手や、2024年7月の「アムンディ エビアン選手権」で待望のメジャー初優勝を手にした古江彩佳選手の名前は知りません。

 渋野選手の次に名前が知られているのは稲見萌寧選手です。これは東京オリンピックで銀メダルを取ったからで、2020-21シーズンに賞金女王になったからではありません。したがって2022年と2023年に2年連続で年間女王に輝いた山下美夢有選手は知りません。

 そもそも2020-21シーズンまでは獲得賞金で年間女王を決めていたのが、2022年から各競技の順位をポイントに換算し、メルセデス・ランキングで年間女王を決めるシステムになったことも知られていません。

トーナメントを見ている人でもポイントランキングを理解していない

 ポイントランキングシステムに関しては、もう1つ印象深い出来事がありました。同じ店でPGAツアー(米国男子ゴルフツアー)のプレーオフシリーズを見ていたとき、こんな質問を受けたのです。

「PGAツアーのプレーオフって何試合あるんですか? どうやって年間王者を決めるのですか?」

 これは鋭い質問です。PGAツアーのプレーオフの試合数と仕組みは最近変わりました。以前は4試合で構成されていて、初戦が125人、2戦目が70人、3戦目が50人、最終戦が30人で年間王者を決めていました。しかしポイントランキング1位の選手と2位の選手が最終戦でどういう状況になったら順位が入れ替わるかという条件が分かりにくいという欠点がありました。

 そこでPGAツアーはプレーオフを3試合制に変更しました。初戦が70人、2戦目が50人、最終戦が30人で、最終戦はポイントランキングに準じて1位が10アンダー、2位が8アンダー、3位が7アンダーといった具合にポイントをスコアに換算する試合形式にしました。

 ところが2024年シーズンはスコッティ・シェフラー選手(米国)がポイントランキングで2位以下に圧倒的な差をつけていたにもかかわらず、それをスコアに換算するとわずか2打差というのは不公平ではないかと議論になりました。

 結局、シェフラー選手が首位を独走したので大きな騒動にはなりませんでしたが、逆転を許していたら、またプレーオフの仕組みを変える議論が巻き起こっていたかもしれません。

 話を元に戻しますと、PGAツアーを熱心に見ている人でさえもプレーオフの仕組みが分かっていないのですから、トーナメントをまったく見ていない人には、1年間の流れや仕組みが到底理解できないでしょう。

 日本の男子トーナメントに至っては、試合がいつ開催されていて、誰が勝ったのか話題になることすらありません。「松山英樹選手が日本の試合に出ることはあるのですか?」と聞かれるくらいです。

「10月に『ZOZO CHAMPIONSHIP』というPGAツアーの試合が日本で開催されるので、その試合には出ると思いますよ」と伝えると、「だったらその試合は見ようかな」という答えが返ってきます。

 PGAツアーでシード権を獲得した久常涼選手、DPワールドツアー(欧州男子ツアー)で初優勝を挙げた星野陸也選手や中島啓太選手に桂川有人選手、国内ツアーで頑張っている平田憲聖選手や杉浦悠太選手や米澤蓮選手も残念ながら名前を知られていません。

 彼らの頑張りが足りないとは思いませんが、ゴルフをする人でもトーナメントを見なくなっている現状を踏まえると、名前を知ってもらうにはPGAツアーで優勝し、4大メジャータイトルを手にするところまで上り詰める必要があるのかもしれません。

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