おとなしくなったリブゴルフ選手のなかでラームだけは強気崩さず ライダーカップ出場への“特例”“譲歩”にも不満

リブゴルフ選手たちは自身の権利を主張して、さながらダダっ子のように振る舞うことが多かったが、最近はすっかりおとなしくなっている。そんななか、ジョン・ラームだけは主張を曲げることなく不満を言い続けている。

自力でメジャーに出るための努力や挑戦を開始

 リブゴルフが創設されるやいなや、フィル・ミケルソンは推定2億ドル、ダスティン・ジョンソンは同じく1億5000万ドルの契約金を受け取ってリブゴルフへ移籍した。リー・ウエストウッドセルヒオ・ガルシアブルックス・ケプカブライソン・デシャンボーらも次々にリブゴルフへ移っていった。

リブゴルフの個人最終戦・シカゴ大会で優勝したジョン・ラーム 写真:Getty Images

リブゴルフの個人最終戦・シカゴ大会で優勝したジョン・ラーム 写真:Getty Images

 彼らはこぞってPGAツアーを大批判。その内容は「PGAツアーは独裁的だ」「選手に自由がない」「僕らのパフォーマンスを売り物にして大儲けしているのに、それが僕ら選手には還元されていない」「スケジュールが過密すぎて、人間らしい生活ができない」等々、よくもそこまで文句が言えるものだと、あ然とさせられた。

 PGAツアーは、そもそもは彼らにとって憧れの場所だったはずである。「あそこで戦いたい」と願い、そこに辿り着くことを目指してゴルフクラブを振ってきたはずである。

 それなのに、まるで意に反してその場に縛り付けられてでもいたかのように、文句タラタラでPGAツアー批判を行ない、「だからリブゴルフへ行く」「リブゴルフは理想郷だ」とあがめて見せた。

 しかし、いざリブゴルフへ移籍して、PGAツアーやDPワールドツアーからメンバーシップを停止されると、イアン・ポールターやテーラー・グーチらが「横暴だ!」「訴訟だ!」「メンバーシップを返せ!」と声を荒げた。

 散々文句を言った末に自分から離れたはずのツアーなのに、メンバーシップを停止された途端、今度は「返せ!」とは、なんとも解せない話で、「身勝手にも、ほどがある」と思わずにはいられなかった。

 そうこうしているうちに、今度は「世界ランキングのポイントを授けてほしい」と言い出した。リブゴルフは世界ランキングの対象ツアーとして承認されておらず、それゆえ選手たちの世界ランキングは下降の一途だ。

「このままだと僕たちリブゴルフ選手はメジャー大会に出られなくなってしまう。だから世界ランキングのポイントを授けてほしい」

 そんなことは移籍する以前から分かっていたはずである。分かった上で、高額の契約金をもらい、移籍したはずである。

 それなのに、移籍したあとに「世界ランキングの対象にしてくれ」「メジャーに出られないのでは困る」とは、これまた身勝手な主張だった。そして、リブゴルフの身勝手な要求は、いまなお認められてはおらず、OWGR(オフィシャル・ワールド・ゴルフ・ランキング)から承認される見通しも立ってはいない。

 だが、リブゴルフへ移籍する以前から世界ランキングできわめて上位にいた選手、あるいは近年のメジャー大会で優勝した選手らは、リブゴルフへ移籍後もメジャー大会に出場することができている。ミケルソンやデシャンボー、ケプカは、その典型である。

 一方、世界ランキングは下がる一方で、近年のメジャー優勝もない他のリブゴルフ選手たちは、最近はどうしているかと言えば、以前に比べると格段に静かでおとなしくなった印象を受ける。

 ある時期から彼らは、もはや大騒ぎしたところで道は開けないと悟った様子で、自力でメジャー大会に出場するための努力や挑戦を開始している。

 かつてはマナーやエチケットの悪さで酷評されたガルシアまでもが、アマチュア選手や無名選手らに混じって地区予選に挑み、そこから全米オープンや全英オープンに出場しようと動き出している。

 その変化は、まるで幼い子どもが散々ダダをこねて泣きわめいた挙句に、そんなことをしても事態は変わらないことを自ずと悟り、泣き止んでおとなしくなる姿によく似ていた。

 人間は成長するものだし、変化もするものなのだろう。身勝手な主張やわがままを通そうとしていても、一定の時間が経過すると、「このままでは無理だ」と悟り、方向の修正や転換を行なうものなのだろう。

 そして、できることをやるしかないと思い立つのだと私は思う。

DPワールドツアーはラームに譲歩

 悟るまでの「一定の時間」は、どのぐらい必要なのかは、人にも状況にもよるのだろうが、昨年12月にリブゴルフへ移籍したスペイン出身のジョン・ラームは、リブゴルフ選手の中では一番最後に移籍した「新人」であり、まだ「一定の時間」を経過していないせいか、いまなお「ダダっ子の過程」に位置している様子である。

 米欧対抗戦のライダーカップの代表選手になるためには、そもそもは米欧ツアーのメンバーであることが前提条件とされていた。

 しかし、これまで欧州チームの主力選手だったラームがリブゴルフへ移籍したことで、さすがに危機感を感じた欧州選手たちの悲痛な叫びと尽力により、DPワールドツアーは「メンバーシップを取り戻したいという申請を提出すること」「DPワールドツアーの最低4試合に出場すること」「規定の罰金を払うこと」という3つをすべて満たせば、DPワールドツアーのメンバーとしてライダーカップの欧州チーム入りができるという特別規定を設けた。

 パリ五輪は4試合のうちの1試合とカウントされるため、実質的にラームが求められているのは、最低でも3試合への出場である。
ラームはこの特例措置に感謝しつつも、「僕はライダーカップに出たいんだ」という主張と「僕が出ないと欧州チームは困るでしょ?」という姿勢は崩さず、「申請は提出した」「あと3試合に出たい」。しかし、罰金の支払いに関しては「それは筋が通らない。違うと思う」と首を傾げ、「僕は払わない」と拒否している。

 罰金の金額は明かされてはいないが、リブゴルフへの移籍料2億ドルと今季のリブゴルフで、すでに賞金とボーナス合計3400万ドル以上を稼いでいるラームにとって、罰金が支払い困難な金額であるはずはない。

 支払い拒否の理由は、おそらくはラームの信条やプライドの問題なのだろう。リブゴルフを選んだ自分の選択に対し、「罰」「罰金」という言葉が付くお金を払うのは嫌だということなのではないだろうか。

 しかし、「ライダーカップには出たい」と言い張り、「僕が必要でしょ?」と強気を通しているラームは、「PGAツアーやDPワールドツアーは、なかなかまとまらないPIFとの交渉より、まずはこういう個別の事例にきちんと対応すべきだ」と批判までしている。

 そんな「個別の事例」を生み出したのはラーム自身であることは棚に上げて、「きちんと対応すべきだ」とは、あまりにも身勝手である。そんな態度を取り続けるラームは、リブゴルフ選手になって日が浅い分、いまなおダダっ子の域を出ていないということなのではないだろうか。

リブゴルフは罰金を肩代わりすると表明

 ラームの罰金騒動を傍目にして、リブゴルフはラームを含めた元DPワールドツアー選手全員の罰金を「肩代わりして全額支払う」と申し出た。

リブゴルフのスポンサー、PIFのヤセル・ルマイヤン会長(左)とリブゴルフのCEO、グレッグ・ノーマン 写真:Getty Images

リブゴルフのスポンサー、PIFのヤセル・ルマイヤン会長(左)とリブゴルフのCEO、グレッグ・ノーマン 写真:Getty Images

 その金額も、潤沢なオイルマネーが溢れ返るリブゴルフにとっては何でもない少額なのだろうが、金額の大小はさておき、そうやってリブゴルフが罰金を肩代わりすることの方が、よっぽど「筋が通らない」「違う」と私は思う。

 実際、DPワールドツアーがリブゴルフからの申し出をきっぱり拒否したと聞いたときは、その毅然とした態度に拍手を送りたくなった。

 だが、米スポーツ・イラストレイテッドによると、DPワールドツアーは自分たちのプライドによって拒否したというよりも、リブゴルフ選手のカムバックを一切認めていないPGAツアーへの気遣いや、すでに罰金を支払った選手への気遣いもあって、「がんじがらめになって動きが取れない状態」とのこと。

 いろいろな選手、団体、機関の声に耳を傾けることは、ときとして必要である。

 だが、すでにあるルールや規定を自分の都合に合わせて「変更してほしい」「変更すべきだ」と言い張ることは身勝手であり、その身勝手なリクエストを聞き入れてしまうと、どんどん特例を増やすことにつながり、やがて、どん詰まりになる。

 強い選手は年間王者や賞金王にはなれても、わがままな王様になってはいけないし、万能の神様にはなりえない。その意味を、今はまだ「ダダっ子の過程」にあるラームが自ずと悟るまでには、あとどのぐらいの時間が必要だろうか。

文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。

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