「視界が開けると鉄柱9本が折れていた」突風→倒壊の恐怖 ゴルフ練習場襲う“ダウンバースト”の猛威とは?【小川朗 ゴルフ現場主義!】

近年、記憶にないような激烈な自然災害が次々と起こっている日本列島。ゴルフ練習場も自然の猛威をもろに受けている施設の一つです。支柱倒壊という深刻な事態に見舞われた練習場をゴルフジャーナリストの小川朗氏が取材しました。

「天気は全然普通の、穏やかな日だったんですよ…」

 地球温暖化が引き起こす異常気象による被害が深刻度を増しています。8月末に上陸した台風10号の影響により、宮崎では竜巻とみられる突風被害が発生。7月末には埼玉で突風によるゴルフ練習場の支柱倒壊事故も起きています。なぜこうした被害は続くのでしょうか。関係者の生々しい証言を元に、危機回避術を探ります。

支柱倒壊事故に見舞われた埼玉県志木市のゴルフ練習場「志木スポーツプラザ」 写真:清流舎

支柱倒壊事故に見舞われた埼玉県志木市のゴルフ練習場「志木スポーツプラザ」 写真:清流舎

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 2024年7月24日、埼玉県志木市で起きたゴルフ練習場「志木スポーツプラザ」の支柱倒壊事故をご記憶の方も多いと思います。(写真)。午前11時50分ごろ、「ダウンバーストかガストフロント(※)による」(熊谷地方気象台)突然の突風に襲われコンクリート製の柱29本のうち、約半数が折れてしまいました。コンクリートの破片が周辺の住宅などに飛び散り、人的被害こそ出なかったものの、物損被害が出ています。

※編注
<ダウンバースト>積乱雲から吹き降ろす下降気流が地表に衝突して水平に吹き出す激しい空気の流れ
<ガストフロント>積乱雲の下で形成された冷たい(重い)空気の塊が、その重みにより温かい(軽い)空気の側に流れ出すことによって発生
(出典:気象庁HP「竜巻などの激しい突風とは」より)

 同練習場の関係者は、緊急時にはネットを下ろせる構造になっていながら「昇降装置が完全に作動しなかった」と語っています。ダウンバーストやガストフロントは未然に対策を講じにくく、ネットの降下作業が間に合わなければ、強風をはらみ水分で重量を増したネットが、支柱を倒壊させる事態へとつながってしまうわけです。

 実はこの事故と酷似したケースが約1年前の23年7月4日午後5時頃、静岡県掛川市の「掛川ゴルフガーデン」でも起きていました。こちらも高さ約40メートルの支柱9本が倒壊し、静岡地方気象台は突風の原因を「ダウンバーストまたはガストフロントの可能性が高い」と発表しています。

昨年、支柱9本が倒壊し、現在は復旧している静岡県掛川市の「掛川ゴルフガーデン」 写真:清流舎

昨年、支柱9本が倒壊し、現在は復旧している静岡県掛川市の「掛川ゴルフガーデン」 写真:清流舎

 同練習場の関係者は当日の様子をこう振り返ってくれました。

「天気は全然普通の、穏やかな日だったんですよ。そのうちに向こうの方で雷が鳴って光が見えたりして、いくつもの雷が落ちていました。それから何分もしないうちに、急に風と雨が来ちゃって、雹(ひょう)も混じっていました。その時はもう真っ白で何も見えなくなって、ものすごい風が吹き込んできました。窓がたわんで割れそうなので、急いで窓を開けました」

 この時、1階打席に14、5人のゴルファーがいたため、クラブハウスに誘導することが最優先となります。「ネットを降ろすよりもまず、その方々を避難させて中に入っていただいたけど、もうネットを降ろす間もなく、支柱ごとそのまま引っ張られていました」。

 ホワイトアウトの状態から視界が開けると、練習場の奥に並んでいた鉄柱のうち9本が折れていました。雨を含んだ防球ネットが突風をはらんで、支柱を凄まじい力で引っ張り破壊したのです。

「とにかく、何もできなかった」。同練習場の関係者は、そう言って深いため息をもらしました。「風は50m/hを超えていたと思いますよ。生半可な風じゃなかったです。台風の場合は来るのが分かっているから、ネットは降ろしています。風速計もあるわけですが、この時は風速計自体が飛んでいってしまいました。近くの小学校では木も倒れたしね」。

 突然やってきた突風に驚き、来場客の避難誘導をしているうちに、ネットを下ろす間もなく支柱が倒壊していたというわけです。

 すでにこの練習場は今年の4月20日に、経営が代わりリニューアルオープンをしています。「(閉鎖中に)他に行っていたお客様は、そこで使っていたプリペイドカードを使い切ってから、戻ってきてくれた人もいます。まだ(営業休止)以前の7~8割だと思いますけど」。

 さらにこの関係者は、最後にこう付け加えました。「もう一度、同じ状況になったら、対応できると思います。いつもとは違う黒い雲で、いくつもの落雷と雹を伴ってきますから」。

気象情報をこまめにチェックして備えるしかない

 今回、志木の件で「ダウンバーストかガストフロント」と発表した熊谷地方気象台に、今回のようなケースを回避する方法について聞いてみました。

「突風、雷、降雹(こうひょう)の気象情報を毎日確認していただく。朝5時台と夕方16時に出しています。雷は早い段階で出しますので、半日先の状況をチェックしていただければ。朝の始業時とかに」

 突風、雷、雹の情報が出た日は、いつでもネットを下ろせるように準備。落雷を伴った積乱雲が見えてきたら、すぐに営業を中断し、ネットの降下作業に入ることが大事。

 全日本ゴルフ練習場連盟の横山雅也会長も「猛暑対策と並んで突風に備えてのネット・ポール対策は連盟としての大きな課題。安全面では今のところネットを早く下ろすことぐらいしか、対処の方法はないんです。だからこそ連盟としても、セミナーなどを開催して、会員に向けて啓もう活動を行っていきたい」と語っています。

 全国に散らばる2322カ所のアウトドア練習場(全日本ゴルフ練習場連盟調べ)の関係者にとっても、常に念頭に置いておくべきことは、日々の気象情報の収集と、天候の急変に対応できる体制づくり。積乱雲が落雷と雹を伴ってやってきたら、すぐにネットを下ろすべきなのです。

 次回は練習場の倒壊が相次ぐ理由と、もはや練習場の危機をカバーしきれなくなってきた損害保険の実情に迫ります。            

取材・文/小川朗
日本ゴルフジャーナリスト協会会長。東京スポーツ新聞社「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女メジャーなど通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。東京運動記者クラブ会友。新聞、雑誌、ネットメディアに幅広く寄稿。(一社)終活カウンセラー協会の終活認定講師、終活ジャーナリストとしての顔も持つ。日本自殺予防学会会員。(株)清流舎代表取締役。

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