名匠・井上誠一氏考案の「2グリーン制」 なぜ1グリーンに改修するゴルフ場が増えている?

ゴルフ場のグリーンは、素人にとっては、どこでも同じように見えますが、実は使用されている芝は地域や気候に応じてさまざまな種類が使い分けられています。では、どのような品種が使われているのでしょうか。

日本では『ペンクロス』と呼ばれる品種のベント芝が主流

 ゴルフ場のグリーンは、素人にとっては、どこでも同じように見えますが、実は使用されている芝は地域や気候に応じてさまざまな種類が使い分けられています。

 では、グリーンで採用されている芝にはどのような種類が存在するのでしょうか。ゴルフ場の経営コンサルティングを行う飯島敏郎氏(株式会社TPC代表取締役社長)は以下のように話します。

1グリーンに改修するゴルフ場が増えてきた 写真:PIXTA

1グリーンに改修するゴルフ場が増えてきた 写真:PIXTA

「バブル期にたくさん造られた日本のゴルフ場では、『ペンクロス』と呼ばれる品種のベント芝を採用したところが多いです。ベント芝は、『高麗芝』などの和芝と比較してボールの転がりがスムーズな反面、元々寒冷地向けの品種だったこともあって高温多湿になりやすい日本の気候への耐久性はあまり高くなかったことが弱点でした」

「そこで、ペンクロスを『第1世代』としてその後も毎年のように改良が続けられ、現在主流となっている第4世代では『007(ダブルオーセブン)』や『タイイ(Tyee)』、そして特に新しい分類に属する第5世代では『777(トリプルセブン)』といった名前の芝が生まれています」

「使用されている割合としては、ベント芝を由来とする品種を全て合わせるとゴルフ場全体の80%以上を占め、次に高麗芝をはじめとした和芝、さらに少数派でバミューダといった種類の順番で用いられています」

「また、日本のゴルフ場が持つ独特の特徴に1ホールにつきグリーンが2つ設けられている『2グリーン制』を導入している場所が多いですが、これはゴルフ場設計の第一人者として知られる井上誠一氏が編み出したアイデアで『1年を通して美しく、かつ品質の良いグリーンをゴルファーに提供したい』という思いから作られました」

「2グリーンのうち一方を暖地向けの高麗芝、もう一方を寒地向けのベント芝と種類を分けることで季節に応じて切り替えが容易にできるように工夫されています」

 ベント芝は、葉先が細くて芝目が出にくいほかボールにかかる抵抗も少ないため、プロのトーナメントさながらの戦略性に富んだ高速グリーンを作りやすい点で、高麗芝よりも優れています。

 さらに、高温への耐久性も向上して季節で分ける必要がなくなったこともあり、昭和中期から末期にかけて流行した2グリーン制を止め、国際基準に準拠した1グリーンに変更したゴルフ場も増えてきました。

グリーンの改良やメンテナンスは簡単ではない

 しかし、飯島氏は「年々激しさを増してくる気候変動に対応するためのグリーンの改良は、そう簡単にうまくいくわけではない」と話します。

「環境の変化によって劣化が進み、傷んでしまったグリーンを全面的に補修するために芝の総取り換えが行われることがあります。本来であれば、芝を全てはがして播種するのが望ましいですが、工事期間中、グリーンはおろかコース自体が使用できなくなってしまうので、『インターシード』と呼ばれる手法が用いられるのが一般的です。これは、交換前の芝が生えている状態で次に使う芝の種を少しずつ撒いていき、段階的に新しい品種に世代交代させるやり方です」

「ところが、インターシードでは新しい種が芽生えてしっかりと根を張ってくれる確率が非常に低く、20%もあれば良い方だといわれています。ですので、仮に毎回20%の活着に成功できたとしても、完全に置き換えが終了するのには5年もかかってしまいます。さらに、しばらくの間は特性が異なる2種類の芝が混在することになるので、管理を行き届かせるのにも苦労します。最近では気候が変わるスピードも早くなっているため、より計画性を持ったグリーンの改修が求められてきているといえるでしょう」

 また、芝もれっきとした植物であるので肥料や日光だけでなく水やりも行わなければなりません。しかし、散水のシステムが構築されていないゴルフ場では、コース管理者が通常よりも早く出勤し、気温がまだ上がらない早朝に手作業で水を撒いている場合もあるそうです。

 ゴルフコースの管理が徹底されているかどうかの判断材料として「芝の状態」が見られることがありますが、中でもグリーンは絨毯のようなきめの細かさや色味などが重要とされています。もしも、ラウンドする機会があったらどのような芝が使われているか、状態はどうなっているかを観察してみると面白いかもしれません。

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