94歳佐藤ヒデさん、体内年齢は36歳「まずは行動。90歳から通い始めたデイサービス、折り紙教室で作った作品が飾られるのが嬉しくて」
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【写真】88歳でミシンを購入して着物をリメイク。洋服の他に、コロナ禍ではマスク入れも
朝ドラを見終わったら早速ミシンに向かう
震災後、さまざまな出会いがあったなかに、京都のご夫妻がいたんです。人形作りの話をしたら、「たくさんあるから」と古い着物や帯なんかをドカッと送ってくださいました。20kgの段ボールが7箱も! 裁縫やお茶、踊りを嗜む人におすそ分けしたけれど、まだまだ届くから、88歳にして初めてミシンを購入。着物をリメイクした洋服作りを始めたんです。
布を裁つのは難しいから裁縫の先生にお願いして、私は縫う担当。今では50代とか60代とか、私よりもうんと若いリメイク仲間がたくさんできて、生きがいになっています。
朝食をとって朝ドラを見終わったら、早速ミシンに向かい、作業開始です。うちには近所の人や親戚など、しょっちゅう人が来るから、できる時に済ませないと仕事が終わらないのよね。夜もキリがいいところまでやらないと気が済まないので、かなり遅い時間まで作業することもあるんです。
息抜きには雑誌を読んでいます。活字がびっしり並んだ雑誌を毎月、購読して読んでいて。政治家とか実業家とか、苦労して成功した人のインタビューを読むのが好きです。届いたその日にだいたい読み切ってしまう。
私は口だけじゃなくて、実践する人が好きなんです。文句ひとついわないで家族のために一生懸命働いた、自分の兄姉たちの姿が重なるのかもしれません。難しい内容も多いけれど、読まないよりは読んだほうが、脳や心の老化に歯止めが利くような気がするのよ。
作業や読書に長時間集中できるのは、老眼にならなかったおかげもあります。子どもの頃から目がよくて、両目ともずっと1.5ぐらいありました。2~3年前に白内障の手術を受けてからは、0.3と1.2に落ちてしまったものの、今でも眼鏡はかけていません。
左右で視力が違うから、まっすぐ縫ったつもりが、斜めになる時があるけど(笑)。矯正したほうがいいんでしょうが、この歳だし、もういいかなと思って。
夜は、布団に入ればすぐに、ぐっすり眠りにつけています。トイレに起きてしまうことは何回かありますが、目が冴えた時はゆっくり深呼吸をすると、ストンと入眠できるんです。
日々できあがる新作のリメイク洋服は、自分が全部着るわけではありません。誰かがお茶を飲みに来る時、わざと部屋の目立つところに掛けておくんです。そうすると、「あら! いいわね」と話題になるから、気に入ってくれた人にあげるわけ。
先日、週に一度通っているデイサービスで敬老会が企画されて。そうしたら、私よりずっと若い人たちが、「着る服がないから行かない」なんていうの。せっかくの機会なのにそれはもったいない!
私が作った洋服から似合うものを着て参加する、そんなことができたら楽しいな。もう少し上達したら提案しようと思っています。
服をあげた人から、「来年はこれに合うアクセサリーをつけたいわ」といわれたことがあって。そういうふうな感想はすごく嬉しい! 若い先生たちに今度はアクセサリーの作り方を教わってみるのも楽しいわね。
小さなことから始めてみて
デイサービスには4年前、90歳の時から通い始めました。といっても、自分のためではなく、20歳年下の義理の姪の付き添いです。
彼女は津波で夫を亡くした後、70歳で認知症になってしまった。働いている子どもたちだけではお世話が間に合わないので、親戚のなかで一番、時間のあった私が付き添いを買って出たのです。
初めて介護施設を訪れた時は、私のほうがまいってしまって。みなさんとてもおとなしくて、活気がないので……。そういう光景に不慣れだったものだから、「私が来る場所じゃないわ」と感じ、やめようと思いました。でも姪は乗り気だったから、じゃあ週に一度だけ、と。
でも、何度も通ううちに私も楽しくなってきたんです。それほど人の出入りが多いわけではないから、どんどん知り合いが増えて。自分とは違う人生を歩んできた人の話を聞くのは、いくつになっても勉強になります。嫁姑の愚痴を聞くのも、不謹慎だけど面白いですよ。(笑)
最近は、施設で2週間に一度の折り紙教室にも姪と通うようになりました。翌週、施設の玄関に自分たちの作品が飾ってあるのを見つけると、なんだか誇らしい気持ちになります。
せっかく展示してくれるんだったら外の人にも見せたい。そう思ったので、地域の保育園なんかに飾らせてもらったらどう? と提案してみました。
「おじいちゃん、おばあちゃんの作品です」と持っていけば、「仕方ないな」なんて笑いながら飾ってくれるんじゃない? 震災で何もなくなった陸前高田が、もう一度明るい街になればいいなって。
それからお年寄りのみなさんも、もっと元気になってほしい。黙々と折るのではなく、たとえばそれぞれおにぎりを持ち寄り、お茶でも飲みながら一緒に作ったら楽しそうでしょう? そう話したら施設長さんが、「ヒデさんやってみます?」といってくれて。「やりたい!」と即答しました。
先生たちが大変になるかなと思ったから、シルバー人材センターの人にも相談したら、手伝ってくれるというの。目下、準備中です。こういうの、ワクワクするわよね。
人のため、周りのためになることならどんなに小さなことからでも始めてみればいい。笑われてもいいじゃない。まずは行動してみることで、自分に自分で種をまくの。足りないところは他人に助けを求める。そうすればきっと種が熟成されて、やがて花が咲きます。いいと思うことは全部やり切り、人生を卒業したい、それが私の願いです。
11/21 12:30
婦人公論.jp