平野レミさんが『徹子の部屋』に出演「〈ここには和田さんが半分入ってる〉樹里ちゃんに言われ、力強く握ってくれた息子の手が嬉しくて」
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4年半あまり前、イラストレーターの夫・和田誠さんを亡くした平野レミさん。今なお悲しみは続いているそうですが、それでも「私は幸せ」と笑顔を見せます(構成:平林理恵 撮影;浅井佳代子)
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おもしろくて料理好きの《三男坊》と
周りの人から、「いつも楽しそうですね」とよく言われます。テレビに出て喋ったりすると、「レミさんから元気をもらいました」なんて言ってくれる人も。声がデカいからか、乱暴な話し方のせいなのか(笑)。自分でもよくわかりませんが、そう思っていただけるのは、とってもありがたいです。
だって私自身も、私を元気にしてくれそうな人とつき合いたいから。世の中にはいろんな人がいて、明るい話をするときもくらーい表情で、くらーく話す人っているでしょう。そういう人は、やっぱり避けちゃいます。
嫌なことはしない! 嫌な人とは距離をとる! これはシンプルだけど、ご機嫌に過ごすコツかもしれません。
逆に、こちらの気持ちを上向きにしてくれる人には、オープンマインドでグッと距離を詰めます。少し前に、私とはまったく別の世界で活躍する33歳のピアニスト・山中惇史(あつし)さんと仕事で知り合いました。彼が弾くショパンは感動的で、涙が出るほど素敵なの。おまけに話がおもしろくて料理好き!
すぐにLINEを交換して、今は私の友達、いや《三男坊》として自宅によく遊びに来てくれます。一緒にいるだけで幸せになれるんだから、こういう存在って大切よね。
私は仕事でもなんでも、「若い者には巻かれろ」の精神で生きているの。「長い物」ではなくね(笑)。若い人っていいですよ。発想が柔軟で、新しい意見やおもしろいアイデアをたくさん持っていて。
年長者として否定するのではなく、「わあ、それいいねえ」「やってみようよ」と、一緒に楽しんじゃっています。
つかむものが突然なくなって
と、こんな私ですが、2019年に和田さんが亡くなったときは、本当に悲しくて、私以上に不幸な人はこの世にいないんじゃないかとさえ思いました。和田さんはいい人だったから、好きなことをさせてもらって、47年間幸せいっぱいの結婚生活だった。
お別れから4年半以上が過ぎましたが、いつだって会いたい、会いたくてたまらない。死ぬまで立ち直ることはないんじゃないでしょうか。
今日も、素敵に撮っていただいた写真を見た瞬間、「和田さんに見せなきゃ」と思いました。おいしいものを口にすれば「和田さんに食べさせたい」、仕事で帰りが遅くなれば「和田さんが待ってるから急ごう」。で、そのあと「ああ、もういないんだ」と寂しさに包まれます。
こんなことがいったい、いつまで続くのかしら。でもね、和田さんを思ったその瞬間瞬間には、和田さんはたしかにいるんです。だから私はたぶんこれからも、そうやって存在を常に感じながら生きていくのでしょう。
息子たちの前でもいまだに「お父さん、お父さん」と和田さんの話ばかりするものだから、最近は「お母さんは言いすぎだよ」って嫌がられるの(笑)。話ぐらいさせてよ、と思うけれど、これは彼らなりの「元気出せよ」という励ましなのかも。
振り返れば、ここまで来るのに、息子にもお嫁さんにも孫たちにも、ずいぶん支えられました。みんなしょっちゅうご飯に誘ってくれたし、遊びにも来てくれて、私を一人にしなかった。
いつだったか長男の唱(ミュージシャンの和田唱さん)の家に行ったとき、樹里ちゃん(妻で俳優の上野樹里さん)に、「和田さんいなくなっちゃって、つかむものがなくなっちゃった。寂しくて寂しくてたまらない」って言ったんです。
そしたら樹里ちゃんが、「唱さん、手を出して。レミさんも手を出して」と。そして唱に「レミさんの手を握ってあげて」って。私の手を力強くギュッと握ってくれた息子の手は、昔はもみじみたいにちっちゃかったのに、がっちりした大人の手になっていました。
そのとき、「あ、つかむものがあった。ここには和田さんが半分入ってる」、そう思えたの。もううれしくて涙が出てきてね。樹里ちゃんには、前を向くきっかけを作ってもらったと思っています。
食卓を囲めば笑顔もごちそうに
当時、自分で自分の気持ちを保つために意識したのは、とにかく仕事をガンガンこなすことです。もうそれしかないように思えたから。
でも、仕事を引き受ける前に「和田さんならどう考えるかな?」と自問して、「レミ、こういう仕事はやらないほうがいいんじゃないの?」と言われそうなことには手を出さなかった。
逆にね、新しいことでも自分に合っていそうなこと、好きになれそうなことにはどんどん挑戦しました。和田さんなら「レミ、やってみたら」と絶対背中を押してくれるはずだから。仕事に限らず、何かを決めるときは今も、和田さんの声を聞くようにしています。
それから、部屋が広く見えるようにキッチンやリビングに鏡があるんですが、ふと顔が見えると、不愉快なときは口がへの字になっているの。
そんなとき、鏡に向かってスマイルスマイル。自分から先に笑いかけると、鏡の中の私もちゃんと笑顔を返してくれて、気がつけば心の中もスマイルスマイル。笑えないときでも、笑顔を作れば気持ちはついてくる。鏡を置くだけでいいんだから簡単でしょ。
そして、何よりも私の気持ちを前向きにしてくれたもの、それは料理でした。たとえば、絵画なら目で見て、音楽なら耳で聴いて幸せを感じるけれど、料理は目からも耳からも鼻からも舌からも幸せを感じることができる。これって料理だけの特別な魅力だと思うの。
心を込めて作られたものは絶対おいしいし、食卓を囲めばみんなの笑顔もごちそうになっちゃう。「おいしい」と言って食べてもらえたら、もっとおいしいものを作ろうという気持ちになる。相乗効果で幸せはどんどん広がっていく。
私はいつもサインを頼まれると、色紙に「キッチンから幸せ発信!」って書いています。まさにキッチンこそ幸せを生み出す場所。料理って本当にすばらしいわよね。
私の料理作りのモットーは、「時間をかけない」「お金をかけない」「もったいないことをしない」の3つ。大根の皮のフェットチーネやフライパンひとつで作る吸いとりパスタ、包まない餃子などのアイデアはここから生まれました。
この3つに加えて近頃力を入れているのが、「誰も見たことがない」。鯛を串で縦に立たせて口にお花を突っ込んだ「おったて鯛」は、見ても楽しい、食べてもおいしい。結婚式やお正月のおめでたい席に、ホントにおすすめなの。
周りが何と言おうと、私はぜーんぜん気にならない。人に迷惑をかけるわけじゃないし、料理は自由で何をやってもいいのよ。好きなことを楽しんでいる人は、きっと周りの人も楽しくすると思う。
和田さんとは、毎朝おいしいお茶を淹れて乾杯しています。「お父さん、お茶ですよ」と写真の口元にお茶を持っていくと、和田さんの顔が喜ぶの。今の季節は、お日さまが葉っぱの緑を照らすととってもきれい。
一緒に眺めていると、鳥のさえずりも聞こえてきて、もうそれだけで「ああ、今日も幸せ」と思えます。幸せってどこにでも転がっていて、それを感じとれるかどうかなんじゃないかしら。
気持ちを上向きにしてくれる人とグッと距離を詰める
09/23 11:00
婦人公論.jp