「何度も起きてしまう」「長く寝たのに疲れが取れない」その悩み、意外な方法で解決するかも…睡眠学会専門医が解説

(写真:stock.adobe.com)
「何度も目が覚める」「しっかり寝たはずなのに疲れが取れない」このような睡眠に関する悩みを持つ方は多いのでは? その原因、実は<呼吸>なのかもしれません。睡眠学会専門医の高島雅之先生は「このような悩みを解決するには睡眠中に<深い呼吸>をすることが重要」とおっしゃいます。安眠だけでなく、さまざまな体の不調を遠ざけるという理想的な睡眠中の呼吸についてお話いただきました。

* * * * * * *

寝る前の<コップ1杯の水>は多すぎだった?専門家「50代の半数以上が夜間頻尿を経験。もしそれを解消したいなら…」

成人の5人に1人が慢性的な不眠

厚生労働省が令和4年(2022)に行った「国民健康・栄養調査」によると、「睡眠の状況」に関して、調査時の1か月間、睡眠で休養が十分にとれていない者の割合は20.6%で、つまり日本人の成人の5人に1人が慢性的な不眠だとされています。

不眠の原因は人によりさまざまですが、<呼吸>が深く関係しています。そしてその呼吸は、「自律神経」と密接な関係にあります。

呼吸をしたり、食べ物を消化したり、心臓、血管が休みなく働いたりしているのは、すべて自律神経の働きによるもの。

この自律神経は「交感神経」と「副交感神経」に分けられます。

交感神経は血管収縮と末端の血流悪化を招いて心拍を増やし、消化機能を弱め、興奮させる作用があり、日中に優位になります。

一方で副交感神経は血管拡張と末端の血流を増やし、心拍を抑えて消化機能を高め、心身をリラックスさせる作用があり、夜間優位になる必要があります。

睡眠中の呼吸が浅いと、交感神経が優位に働いて体が活発な状態になるため不眠傾向に。逆に呼吸が深いと、副交感神経が優位に働いてリラックスした状態になるため安眠しやすくなるのです。

現代社会と交感神経

通常であれば、日中は交感神経が、睡眠中は副交感神経が優位に働きます。

しかし現代では、日常生活において日中だけでなく、一日中ストレスや緊張にさらされることが多いことから、夜になっても交感神経が優位の状態が続き、呼吸が浅く不眠になりやすい傾向があります。

また、中高年になると若い頃に比べてよく眠れなくなる人が増えてきますが、これは副交感神経機能と呼吸機能の衰えによるもの。

特に副交感神経機能は、60代では20代の1/4レベルまで低下するといわれています。

つまりストレス社会と高齢化社会を一因として、多くの人が慢性的な不眠に悩まされるようになっているのです。

「浅い呼吸」が様々な体の不調を引き起こす

自律神経は睡眠のほか、免疫やホルモンバランスにも大きな影響を与えています。

自律神経のバランスが崩れると、アトピー、リウマチ、膠原病などの自己免疫疾患や、頭痛、ほてり、動悸、肩こり、腰痛、不安感、イライラなど、さまざまな症状を引き起こす原因となります。

また、日本成人病予防協会も公式サイトで、「常に浅い呼吸を続けていると、副交感神経の代わりに交感神経ばかりが働くようになり、体のあちこちに支障があらわれる」と警告。浅い呼吸が招く病気として次のようなものを挙げています。

・自律神経失調症

・呼吸関連の筋肉の凝り

・背骨のゆがみ

・胃などの内臓・肋骨の下垂

・肝機能の低下

・便秘、呼吸器系疾患など

(「日本成人病予防協会」https://www.japa.org/tips/kkj_1007/)

この自律神経を自分でコントロールできる一番の方法が「深い呼吸」です。日本医師会のHPによると、腹式呼吸が人間にとって理想的な呼吸だとされています。

そこでは、腹式呼吸のやり方として以下の4つのポイントを挙げています。

1.吸うときは鼻からゆっくり、おへその下に空気を溜めていくイメージで

2.吐くときは口からゆっくり、からだの中の悪いものをすべて出し切るイメージで

3.吸うときの倍くらいの時間をかけるつもりで吐く

4.1日10~20回を目安に、無理なく続ける

(「日本医師会」https://www.med.or.jp/komichi/holiday/sports_02_pop.html)

腹式呼吸は、横隔膜を下に押し下げることで胸郭を広げ、普段はあまり使われていない肺の下部にまで空気を送り込むため、酸素が体の隅々にまで行き渡ります。

それにより血行がよくなり、筋肉の緊張もほぐれて気分が落ち着きます。また、横隔膜が動くことで腹部の内臓が刺激され、活発に働くようになります。

睡眠中に「深い呼吸」をするには…

以上のように、健康に大きな影響を与える呼吸と睡眠。

人生の3分の1は睡眠時間と言われている以上、睡眠中の呼吸がとても大切になります。その意味で、睡眠中の呼吸をなるべく深く、ゆっくりとしたリズムにすることが、健康を維持するための鍵となるわけです。

とはいえ、起きている間とは異なり、睡眠中の呼吸は意識的に変えることができません。そのためか、重要性がこれまでは見逃されがちでした。

では、どうしたら睡眠中に深い呼吸をすることができるようになるのでしょうか? 

そこには、寝具が深く関わってきます。睡眠時の呼吸を妨げず、むしろスムーズにしてくれる寝具を選ぶ。それによって眠りの質が大きく向上し、冒頭の「何度も目が覚める」「しっかり寝たはずなのに疲れが取れない」といった悩みが解決する可能性もあるのです。

まず枕について。

市販の枕の中には、首を過度に前方に押し出すことで、気道が狭くなり、呼吸を苦しくしてしまうものがあります。それだと口呼吸になりやすく、睡眠中の口呼吸は自然と浅く速くなります。

また、頭の角度が悪いと舌根沈下(舌の根元が後方に落ち込んで気道を塞いでしまうこと)を起こし、無呼吸を起こしやすくなってしまいます。そのため、質の良い睡眠を得ることができなくなってしまうわけです。

マットレスにも注意が必要です。

呼吸は、横隔膜や肋間筋、斜角筋が胸郭を動かすことで、肺の換気を行ないます。立っている時は背中に圧力がかかっていませんが、寝ている時は、自分の体重分の体圧がマットレスからかかることにより、胸郭運動が弱まります。また、横隔膜の動きも立位時に比べて制限されてしまうため、呼吸が浅くなる傾向にあります。

寝具選びのポイント

昭和の時代に主流であった綿布団は、お尻や背中にかかる体圧は大きいものの、肩や腰のあたりは綿の特性上、押し返す力が弱いため、呼吸を弱める力は限定的でした。

しかし、近年増えている反発力のあるウレタン素材のマットレスなどでは、体圧が小さめな首や肩、腰付近でもウレタンの押しかえる力が過度に働くと、呼吸筋や骨格が圧迫されてしまうことがあります。その結果、呼吸を浅くしてしまう可能性も生じます。

ですので、枕は気道を圧迫しないものを、マットレスは背中に体圧がかかりにくいものを選ぶのがよいと思います。それにより睡眠中に「深い呼吸」ができるようになり、睡眠の質を高める効果が期待できます。

起きている時も寝ている時も深い呼吸を意識する。それによって自律神経のバランスが整い、特に夜は副交感神経が高まることから、体がリラックスして眠りやすくなります。

(写真:stock.adobe.com)

さらに、深い呼吸は血液中の二酸化炭素濃度を適度に上げ、血管が拡張し、血液循環が促進されます。

これにより細胞への酸素供給が効率化され、ミトコンドリアでのエネルギー産生が活発になり、結果として自然治癒力が向上すると考えられています。

以上の理由から、「深い呼吸」は睡眠の質の向上だけでなく、全身の代謝を活発にし、健康維持に貢献する可能性があると言えるでしょう。

ジャンルで探す