糖尿病、高血圧などの生活習慣病や認知症との関連も指摘<睡眠の質>。上質な睡眠のために行くべきは「歯医者」だった?歯科医「閉経後にリスクが高まる症状も…」

(写真:stock.adobe.com)
今年、厚生労働省が発表した「健康づくりのために睡眠ガイド2023」では、成人と高齢者は睡眠の量だけでなく質、起床時に「体が休まった」と感じる「睡眠休養感」も大切だと指摘されています。この睡眠休養感が低くなる原因の1つが、睡眠時無呼吸症候群などに代表される「睡眠障害」です。一方で、医療法人社団アスクラピア統括院長の永田浩司先生によると、そうした睡眠障害を歯科で早期発見、治療する「睡眠歯科」が今注目されているそうです。睡眠の質を上げるために、歯医者さんでできることとは一体? 永田先生に解説していただきました。

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健康のためには質の良い睡眠が不可欠に

睡眠には疲労回復だけでなく、免疫力を高めて病気を防ぐ、脳内の老廃物を取り除く、ホルモンバランスを調整するといった役割があります。

不眠や睡眠不足が続くと糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病にかかりやすくなることやうつ病のリスクが高まることが分かっています。特に近年はアルツハイマー型認知症との関連が指摘されていることからも、良質な睡眠の重要性が改めて注目されているのです。

このように睡眠の重要性が広く知られるようになる一方で、日本では睡眠の悩みを抱えている人が増えています。

その一方で、睡眠の質を高める上で今注目されているのが、「歯科」との連携です。

睡眠に関連する医療の中でも歯科に特化したものは「睡眠歯科」とよばれていて、特にアメリカでは研究や臨床が進んでいます。日本では患者さんの認知度は高いとは言えないものの、歯科医療業界では非常に注目されている分野です。

睡眠歯科で扱われるものとは

睡眠歯科で扱うのは、主に睡眠時無呼吸症候群やいびき、ブラキシズム。いびきは寝始めにかく程度なら心配ありませんが、大きないびきは呼吸が浅くなる低呼吸の可能性があります。

さらに大きないびきの間に呼吸が止まる無呼吸の状態が何度もあるのが、睡眠時無呼吸症候群です。

これにより低呼吸と無呼吸によって脳が覚醒状態になり、十分な睡眠を取ることができないため、日中に強い眠気を感じてしまい、生活に支障が出る恐れがあります。

睡眠時無呼吸症候群には、気道が塞がって起こる閉塞性、脳の呼吸中枢に原因がある中枢性があり、睡眠歯科の対象となるのは、患者の大半を占める閉塞性睡眠時無呼吸症候群です。

ブラキシズムは口腔内悪習癖ともよばれ、上下の歯をギシギシとこすり合わせるグラインディング(いわゆる歯ぎしり)や、無意識に歯を強く食いしばったり噛み締めたりするクレンチング、歯をカチカチと合わせるタッピングに分けられます。

これは日中目覚めている時でも起こりますが、睡眠歯科の対象は寝ている間に起こる睡眠時ブラキシズムです。

ブラキシズムの多くは浅い睡眠のときに起こることが分かっています。睡眠時は目覚めている時の何倍もの咬合力が出るため、歯への負担は相当なものになります。

また、睡眠時無呼吸症候群とブラキシズムには相関関係があることが分かっています。睡眠時無呼吸症候群の改善によってブラキシズムを減らすことができ、ブラキシズムの減少によって、睡眠時無呼吸症候群の発生を抑制できます。

顎や舌、噛み合わせと睡眠の関係は深い

睡眠時無呼吸症候群は気道が塞がって起こるとお話しましたが、これは舌の後退、沈下などによって気道が狭くなり、空気が肺に届かなくなることによって引き起こされます。顎が小さいことや舌が大きいことなどが影響することも多いです。

一方、睡眠時ブラキシズムは元々の癖やストレスのほか、噛み合わせの悪さが原因と考えられています。

残念ながら睡眠時ブラキシズムを治す方法はありません。

睡眠時に使用するマウスピース(ナイトガード)が対策になると思われがちですが、むしろ口の中に噛む対象のものがあることで歯ぎしりの頻度が増えるといわれています。マウスピースはあくまでも歯のすり減りを防ぐためのものです。

睡眠時ブラキシズムを軽減するためにできることは、眠りに入る環境づくりです。落ち着いて眠れるように部屋を暗くする、寝る前のスマホや飲酒などを避け、リラックスした状態で入眠できるようにすることが大切です。

睡眠と歯科と聞くと意外な組み合わせだと感じるかもしれませんが、睡眠時無呼吸症候群やブラキシズムは口腔内との関係が深いことから、歯科で早期発見、早期治療することが期待されているのです。

睡眠時無呼吸症候群の治療とは

睡眠時無呼吸症候群の治療としてよく知られているものに、CPAP(持続陽圧呼吸療法)があります。

これは鼻マスクや口マスクなどで気道に空気を送り込み、気道を広げて睡眠中の無呼吸を防ぐもの。CPAPは中等症〜重症のケースに行うことが多いですが、患者さんには負担が大きい治療です。

そこで、いびきや軽症の睡眠時無呼吸症候群の治療として注目されているのが、MAD(下顎前方牽引装置)です。

こちらは就寝中、マウスピースを上下顎に装着し、下顎を前方に出した状態を維持することによって舌全体を前方に移動させ、睡眠中の気道を確保できるようにするものです。CPAPと併用することもあります。

そして、このマウスピースを装着できるか口腔内の検査を行い、作製するのが歯科の仕事となるのです。

但し、重度の歯周病や虫歯、顎関節症があったり、歯の破損や欠損があったりする場合は、治療が行えないことがあります。

また、マウスピースは保険適用ですが、これは他の医科で睡眠時無呼吸症候群と診断され、歯科を受診した場合になります。いきなり歯科を受診すると、自費診療になってしまうため、その点は注意が必要です。

閉経によってリスクが高まることも…

そもそも日本人は鼻が低く、首が細いので骨格的に気道が狭くなりやすいことや平均睡眠時間の短さからも、睡眠時無呼吸症候群のリスクが高いといわれています。しかし、睡眠時無呼吸症候群の患者さんのうち、5人に1人は自覚がないそうです。

特に女性の場合、閉経によってリスクが高まり、閉経後の女性の10人に1人が治療の必要な状態だったことが分かっています。

自覚がある場合はもちろんですが、以下のチェック項目で該当項目が複数あるようでしたら、まずは睡眠外来や耳鼻咽喉科、呼吸器内科などで相談してみることをおすすめします。

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【睡眠時無呼吸症候群 セルフチェック項目】

(1)しょっちゅういびきをかく、いびきをかいているとスリープパートナーに指摘される

(2)睡眠中に呼吸が止まっていることがあると、スリープパートナーに指摘される

(3)就寝中に息苦しさを感じて目が覚める

(4)睡眠時間は長いのに眠気を感じる、疲れが取れない

(5)肥満気味である(肥満は大きなリスクとなりますが、肥満でない人が発症することもあります)

(6)高血圧

ブラキシズムについてセルフチェック

また、睡眠時無呼吸症候群、ブラキシズムともに遺伝の影響があることが分かっています。

そして、ブラキシズムも歯がすり減ってしまうだけでなく、歯の詰めもの、被せもの、入れ歯やインプラントなどの破損につながることもあるので、歯科での相談をおすすめします。

歯ぎしりは歯周病や顎関節症にも影響することが分かっています。自覚がない場合は以下でチェックをしてみてください。

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【ブラキシズム セルフチェック項目】

(1)歯ぎしりをしている、歯が鳴っているとスリープパートナーに指摘される

(2)歯が欠けている、ヒビがある、すり減っている

(3)頬の内側や舌に歯の跡が残っている

(4)口を閉じた状態の時、上下の歯がくっついている

(5)日中、集中している時に歯を食いしばっていることがある

(6)朝起きた時に顎が疲れていたり、口の周囲がこわばったりしている

(7)肩こりや頭痛がある

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最後に睡眠という点で歯科医としてお伝えしたいのは、睡眠時は歯周病や虫歯のリスクが最も高まる時間帯だということです。

これは就寝すると唾液の分泌量が半分程度に減ってしまうためで、唾液の自浄作用によって日中は一定数に保たれていた細菌が繁殖しやすくなってしまうのです。

このことからも、1日のうちに完璧な歯磨きをするとしたら、断然、就寝前だというのが私の考えです。

就寝前の飲食は睡眠の妨げになることも分かっていますから、早めに飲食を終わらせ、オーラルケアに時間を取り、リラックスした状態で眠りにつきたいものです。

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