柴田理恵「88歳の母は要介4の状態から1まで回復。健康に必要なのは生きる目的だと実感」抗加齢医学研究の第一人者・米井嘉一に聞く、健康な体を維持する秘訣
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【写真】柴田理恵さん「生きる目的って健康に必要なんだなと、母を見て思うんです」
脂肪が多い脳の糖化を防ぐには
米井 そのほかの生活習慣で、気になることはありますか。
柴田 運動習慣でしょうか。舞台の間はかなり体を動かしますし、入念なストレッチも行います。だけどそれが終わると、全然やらない(笑)。あ、でも犬の散歩は毎朝しています。夏の間は5時半に起きて、1時間ほど歩かされてから朝ご飯の支度を始めるルーティンです。
米井 朝の散歩は運動になるだけでなく、老化予防の面でも大変おすすめです。人間の体内時計は約25時間周期なので、油断すると24時間周期の地球時間からずれていってしまいます。
その調整に有効なのが、起きてすぐ太陽の光を浴びること。目が光を感じると、睡眠を司るホルモン・メラトニンの分泌がピタッと止まります。それから約14時間後に再び分泌し始め、自然な眠気を誘う。つまり朝の散歩には、体内時計のリズムを整える効果があるのです。
柴田 へえ! 犬が「起きろ起きろ」ってせかすのをうるさいと思っていたけれど、感謝しなきゃ。(笑)
米井 そして、散歩でほどよく空っぽになった胃に食べ物が入ることで分泌されるのが、成長ホルモンです。ケガの修復や肌の体謝を促す役割があります。
柴田 肌にもいいんだ! 年齢的に、もう成長ホルモンは出ないと思っていました。(笑)
米井 名前で誤解されがちですが、大人も分泌しますよ。メラトニンや成長ホルモンによる刺激で体内時計と地球時間を合わせておくと、ほかのホルモンや自律神経のバランスも整いますし、消化吸収能力や脂質代謝も上がって高血糖になりにくい。いいことずくめなんです。
柴田 早起きすると夜も早く眠くなるので、仕事がなければ22時には布団に入っちゃいます。
米井 それで5時半に起きるなら、睡眠時間は7時間半ですね。睡眠のサイクルは約90分で、これを5回繰り返す睡眠が最も死亡率を低くすると言われます。
年齢を重ねると「長く眠れない」という人も多いですが、4サイクル=6時間は確保していただきたい。また、長く寝すぎるのも体や脳の活動量が減って機能の低下を招きますから、その点でも柴田さんは合格です。
柴田 嬉しい! 先生にもう一つ伺いたいのが、脳の老化です。最近、人の顔が思い出せないなど物忘れが気になって。
米井 アルツハイマー型認知症は、脳細胞にアミロイドβというタンパク質が溜まることが原因とされてきました。さらに私が進めている研究で、アミロイドβがアルデヒドの影響で糖化すると、排出が滞って塊になり、周囲の脳細胞を死滅させてしまうことがわかったんです。
柴田 やっぱりアルデヒドが悪いヤツなんだ。
米井 臓器の中でも特に脂肪を多く含むのが、脳なんです。そのため、脂肪由来のアルデヒドの生成を防ぐことが重要。先ほどお伝えしたメラトニンには抗酸化作用があって、睡眠時に働いてアルデヒドが作られるのを防いだり、アルデヒドの塊をほぐしてくれたりするんですよ。
柴田 睡眠の質が脳の健康を左右するんですね。食事の面では、魚の脂がいいとも聞きますが。
米井 青魚に含まれるEPAやDHA、アマニ油やエゴマ油に含まれるα-リノレン酸など「オメガ3脂肪酸」の健康効果は、確かにあります。ただ、食事から摂る脂質が増えすぎると、その脂肪が酸化・糖化(ほかのアルデヒドと反応)してアルデヒドが作られてしまう危険があるので、注意が必要です。
柴田 わが家では毎朝エゴマ油を小さじ1杯摂っていますが、大丈夫かしら。
米井 柴田さんの場合、毎日の食事で摂る脂質が適量なので、問題ないと思いますよ。
柴田 よかった。脂身の多いお肉や揚げ物を食べたうえに「体にいい油も」と考えると、摂りすぎになるんですね。何事もバランスが大事だと肝に銘じます。
生きる意欲が体にもたらすもの
米井 ところで、柴田さんのお母様は、要介護4の状態から要介護1まで「奇跡の回復」をされたとお聞きしました。
柴田 もともと母は長く教師として働き、定年後もお茶の先生などをしながら富山で元気に暮らしていました。それが88歳の時に腎盂炎で入院して。意識が朦朧とし、要介護4に認定されるほど体調が悪くなってしまったんです。
米井 それは心配でしたね。
柴田 はい。でも治療のおかげで、1週間後に病院へ行ったときには、私のことがわかるくらい元気になりました。それで「お母さん、いま何がしたい?」と聞いたら、さすが私の母親ですね、「家に帰って酒が飲みたい」と(笑)。
それが10月だったので、お正月に自宅でおせちを食べてお酒を飲むのを目標に、リハビリを頑張ってくれました。
米井 柴田さんのお母様は、リハビリを早く始めたのがよかったんですね。もちろん病気やケガの治療に安静は必要ですが、時には健康に悪影響を与えることもあります。寝たきり状態が長く続くと、筋肉が弱って歩けなくなることも多いですから。
柴田 実はリハビリ中、トイレに行こうとして腰椎を圧迫骨折したんですよ。でも、私が「またリハビリすれば歩けるよ」と励ますと、「うん、わかった。酒飲みたいからな」って(笑)。そして年末年始には、自宅で富山のお酒を一緒に飲めたんです。
米井 今のお話は、今日のテーマとも通じるところがありますね。「病は気から」と言いますが、なにより大事なのは生きる意欲。これは医学的にも証明されています。最初にお話ししたように老化も病気ですから、「気」があれば予防できるんです。
柴田 それ、わかる気がします。母はその後もちょくちょく体調を崩していますが、勤務先だった中学校の建て替えが完了したと伝えると、「見に行きたい」と言って突然元気に(笑)。生きる目的って健康に必要なんだなと、母を見て思うんです。
私も健康長寿を目指して、先生から教えていただいた習慣を実践しますね。今日は、ためになるお話をありがとうございました。
米井 こちらこそ、柴田さんの若々しさの秘密を知れてよかったです。どうぞこれからもお元気でご活躍ください。
11/18 12:30
婦人公論.jp