同じ年齢でも、老けて見えるのはなぜ?柴田理恵が抗加齢医学の第一人者に聞く、健康長寿の秘訣「老化は病気の一種で治療も予防もできる」

柴田理恵さんと米井嘉一さん

タレントの柴田理恵さん(左)と抗加齢医学研究の第一人者である米井嘉一さん(右)(撮影:天日恵美子)
女優やタレントとして活躍し、ハツラツとした印象の柴田理恵さん。しかし、年齢とともに疲れを感じるようになってきたとか。抗加齢医学研究の第一人者である米井嘉一さんが、人が老化するメカニズムや、若々しい体を維持する秘訣を教えます(構成=山田真理 撮影=天日恵美子)

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【写真】抗加齢医学研究の第一人者である米井嘉一さん「もともと脂肪は人間の味方。遺伝子やタンパク質が酸化するのを防ぎ、細胞が傷つくのを防いでくれます」

糖化したタンパク質は機能が失われる

柴田 65歳にもなると、あちこちの衰えが気になります。今日は、先生にいろいろ教えていただくのを楽しみに来ました。

米井 老化は年齢のせいだから仕方がない、と思っておられるかもしれません。しかし最初にお伝えしたいのは、老化は病気の一種であり、治療も予防もできるということです。

柴田 え! 病気!?

米井 老化には、「正常な老化」と「病的な老化」があります。前者は、自然な加齢現象。ところがそこに食べすぎや飲みすぎ、運動不足、睡眠不足などマイナスの要素が加わると、病的な老化現象が表れてしまうのです。

柴田 ドキッ、すでに思い当たるフシが。(笑)

米井 病的な老化の危険因子は大きく分けて5つあります。(1)免疫ストレス、(2)心身ストレス、(3)生活習慣、(4)酸化ストレス、(5)糖化ストレス。

なかでも影響が大きいのが、酸化と糖化です。酸化とは、紫外線や有害物質を浴びることなどにより体がサビること。そして糖化は、糖分の摂りすぎによって体内がコゲる現象です。

柴田 体の中がコゲる?

米井 砂糖と卵と小麦粉を混ぜて焼くと、きつね色のホットケーキができますよね。それと同じ原理で、糖化は体内にある余分な糖質とタンパク質が結びつき、こんがり焼けた状態。この時に生まれたAGEs(糖化最終生成物)がさまざまな老化を促進してしまいます。

柴田 なんだか怖い話ですね。酸化と糖化、どちらも気をつけるべきなんでしょうか?

米井 人間は大昔から紫外線を浴びていたため、体内には「抗酸化システム」が発達し備わっています。しかし、糖化の原因である糖質を過剰に摂取するようになったのはわずか数十年前。

さらに、交通の便がよくなって運動量が激減し、糖質をエネルギーとして消費する機会が減りました。すると体内に余分な糖質が残ってしまうため、現代人は糖化しやすい状態なのです。

柴田 歴史が浅くて、体が対応しきれないんですね。だから糖化をより意識して対策する必要がある、と。

米井 その通り。糖化の問題点は、タンパク質の本来の機能を奪ってしまうことです。たとえば、骨を作るタンパク質が糖化すると骨粗しょう症に、目のレンズを形成するタンパク質が糖化して濁ると白内障になりやすくなります。

ほかにも動脈硬化、糖尿病、腎臓病、認知症などの発症リスクも上がることがわかってきました。皮膚のコラーゲンもタンパク質ですから、肌の黄ばみやシミ、シワ、たるみの原因にもなるんです。

柴田 うわあ、見た目にも影響があるんだ。同じ年齢でも、若く見える人と老けて見える人がいますよね。その違いはどこから来るのでしょうか。

米井 そこに、今日一番お伝えしたいポイントがあります。私たちの体は多くの部品からできていて、どの部分からどのように老化するかは人それぞれ。遺伝も多少は影響しますが、多くは長年の生活習慣の積み重ねによります。たとえば柴田さんは、筋トレはお好きですか?

柴田 どちらかと言うと、嫌いです。

米井 そういう人に「筋トレは老化予防に役立ちますよ」と言っても、実践してもらえません。筋トレが好きな人は「やっぱり健康にいいんだ」と思って続けますが、そのぶん、ほかの面がなおざりになる場合がある。

柴田 好きでやっている健康法が「いい」と言われたら、安心しちゃいますものね。

米井 それが老化度を左右するカギです。なおざりになった部分の老化が進むと、ほかの部分の機能も連鎖的に衰えてしまいます。

一方、健康長寿モデルとされる「百寿者」の方たちの健康状態を調べると、極端に衰えた部分がない。つまり、「老化のバランスがいい」。ですから、健康を維持する秘訣は、自分の「弱点」を知って早めに改善していくことなのです。

《覚えておきたいキーワード》

【酸化】
紫外線や排気ガス、残留農薬、食品添加物、喫煙、激しい運動、ストレスなどが原因で、体内に活性酸素が過剰に発生。正常な血管や細胞を傷つける

【糖化】
体内にあるタンパク質と食事で摂取した余分な糖が結合し、蓄積すること。最終的に、老化を促進するAGEs(糖化最終生成物)を生み出す

血糖値の上昇が生み出す悪循環

柴田 私の場合、弱点といったらお酒かなあ(笑)。昔はウイスキーやウォッカをストレートでキュッとあおっていました。

米井 実は、アルコールは老化に大きく影響するんですよ。日本人には、お酒を飲んでも顔に出ない「強い人」、まったく飲めない「弱い人」、顔が赤くなる「中くらいの人」がいます。柴田さんはどうですか?

柴田 私は赤くもならないので、強いタイプだと思います。

米井 なるほど。では、アルコールが体内に入ると、アセトアルデヒドという毒性の強い物質ができることはご存じですか。

柴田 ひどい二日酔いの原因にもなる、にっくきヤツですね。

米井 はい。アセトアルデヒド以外にもアルデヒドはたくさん種類があるのですが、これが老化を進める《大敵》です。アルデヒドはタンパク質に非常に強く反応して結びつき、老化を促進するAGEsを体内でどんどん増やしてしまいます。

柴田 老化に関係しているとは知りませんでした。顔が赤くなる人はアルデヒドを分解しにくいぶん、注意が必要ですね。

米井 食後に血糖値が急激に上がり糖化が進みやすくなる「血糖スパイク」も、アルデヒドが原因。さらに、血糖スパイクをきっかけに多種多様なアルデヒドが大量に生み出されるため、非常にやっかいなんです。

柴田 悪循環ですね。

米井 はい。最近の研究では、血糖スパイクによって脂肪からもアルデヒドが作られることがわかってきました。

柴田 内臓脂肪も皮下脂肪も気になるお年頃です。やはり脂肪は減らすべきなんでしょうか。

米井 もともと脂肪は人間の味方。遺伝子やタンパク質が酸化するのを防ぎ、細胞が傷つくのを防いでくれます。体脂肪率が30%未満であればダイエットは必要なく、日々の生活で血糖スパイクが起こらないように気をつければいいでしょう。

噛めば噛むほど腸内細菌が増える?

柴田 血糖値の上昇を防ぐためには、どんな生活習慣を身につけるといいのですか。

米井 腸内環境が整う食事を意識するといいですね。理由は、腸内細菌の種類が多いほど血糖値をコントロールできて、糖化を抑制できるからです。

柴田 私は旅公演やドラマなどの撮影が続くと、ホテルの食事やお弁当がどうしても多くなります。すぐ便秘になるので、「食物繊維が足りないのかな」と思って、朝食のバイキングではサラダやおひたしを多めに食べるようにしているのですが。

米井 外食やお弁当は食材が偏りがちなので、それが不調の原因になっているかもしれません。腸内環境を整えるには多様な種類の腸内細菌がいたほうがいいのですが、菌ごとに好みのエサが違うんです。海藻が好きだったり、トマトが好きだったり。ですから、食材の種類をできるだけ増やすことが重要なんです。

柴田 「老化予防にこの食材がいい」と聞いてそればかり食べるのは、むしろ逆効果なんですね。

米井 その通り。食事でもう一つ避けたいのは、よく噛まないこと。大学の研究室で学生たちが1日3食の食事で噛む回数を調べたのですが、少ない人は約1000回、多い人は4000回という差が出ました。

柴田 4倍も違うんですか!

米井 同時に腸内細菌の状態を調べたところ、1000回だった人が4000回に噛む回数を増やすと、菌の種類が2倍に増えることがわかったんです。そのメカニズムは今後詳しく研究していきますが、よく噛んで食べ物がしっかり消化されると、菌もエサとして食べやすくなるのだろうと考えています。

柴田 腸内細菌は、私たちの力強いパートナー。「エサだよ、しっかりお食べ」と思いながら噛むといいかもしれませんね。

米井 よく噛まないで食べると、悪玉菌を増やす危険もあるんです。特に肉などのタンパク質が未消化のまま腸に運ばれると、腐敗菌と呼ばれる悪玉菌のエサになり、異常発酵が進んでしまう。そこで生まれた腐敗物質は、全身の老化にも影響します。

柴田 うわあ、それは避けたい。今日からちゃんと意識します。

米井 柴田さんは料理がお好きとのことですが、普段の食事はどのような内容ですか。

柴田 仕事柄、生活が不規則になりがちなので、朝食だけはしっかり食べたいと思って。ご飯とお味噌汁に、切り干し大根やジャコをのせた大根おろしなど小さいおかずを数種類並べます。あとは目玉焼きや焼き魚。

昼食はお腹が空いた2時半ごろに、小さなおにぎりを食べます。夕飯はお酒と一緒におつまみ系の小さなおかずをたくさん。満腹にならないとお酒が止まらなくなるので(笑)、そうめんをちょこっと茹でたりして。

米井 非常にいいですね。最近は炭水化物を控えてタンパク質を増やすことをよしとする風潮がありますが、摂りすぎも摂らなすぎも老化を進めます。理想は、タンパク質2:脂質2:炭水化物6の割合(カロリーで計算)。

柴田さんはそのバランスが取れていますし、糖化の原因になる高脂質の食品も少ない。また、朝食をしっかり食べているため、昼食後の血糖値上昇も抑えられているはずです。

柴田 おお、よかった!

米井 理想を言えば、玄米を取り入れるとさらにいいですね。食物繊維が多く糖分の吸収が穏やかなため、血糖スパイクも防いでくれますよ。

柴田 玄米は6年ほど続けていたのですが、やっぱり白米の美味しさに勝てなくて(笑)。ただ、炭水化物の摂りすぎにならないように、ご飯は炊いた状態で110g、夫は160g、そうめんなら茹でる前の状態で30gをはかりで量ってから食べています。

米井 ご自分で調節していらっしゃるのですね。素晴らしいです。その調子で続けてください。

柴田 ありがとうございます!

後編につづく

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