年金月5万円72歳の紫苑 10坪で築50年以上、窓から見えるのは隣の家の壁…。私がそんな狭くて古い家を「買ってよかった」と思えるワケ【2023編集部セレクション】
*****母子家庭で、二人の子どもを育てながらフリーランスで仕事をしてきた72歳のひとりシニア・紫苑さん。そのため年金の額は月に5万円ですが、お金を遣わなくても安心して暮らすための工夫の数々をブログに記すと話題となり、楽しい毎日の様子は新聞やテレビなどでも紹介されるようになりました。その紫苑さんの節約術を日々の暮らしとともに紹介していくのが当連載。今回のテーマは「古い家のメリット」です。
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この家にしてよかった?
築50年以上、10坪程度の小さな我が家。
この家を買ったのは、少ない年金を自覚し「いま住んでいる公団の家賃では、いずれ家計が破綻する。とりあえず屋根と壁さえあれば…」との判断から。
なけなしの貯金をはたいて買った、という事情は過去の連載にも記しました。
とにかく狭いうえ、窓から見えるのは隣の家の壁ばかり。買った当時はその息苦しさから、なんだか落ち込むこともしばしば。
しかし、そこから8年近く経って自分なりに整えるうち、だんだん愛着が出てきました。まさに『星の王子さま』に出てくる「費やした時間だけ大切になる薔薇」、というわけです。
ただ、そんな情緒的な愛着とは別の意味で、最近「この家にしてよかった」と思うことが多くなりました。今回はそれについて書こうと思います。
「メンテが大変では?」に対する大工さんの答え
「築50年以上」と知って、「古い家ではメンテが大変でしょう。たくさんお金がかかるでしょうに、どうするの?」と言われることがしばしば。
実際、これについては私も心配で、手すりのリフォームや床下収納を作ってくれる都度、その大工さんに相談していました。
するとどうでしょう。
「この家は在来工法だから、それほど心配はないよ」。
などと、みなさん声を揃えておっしゃる。
大工さんに聞いた限り、「在来工法」とは柱と梁で枠を作り、後で壁を配置するといった工法で、比較的自由度が高く、建物の修復や再生もしやすい建て方のようです。
それに対し、最近の家はというと「ツーバイフォー」という工法が多く採用されているとのことでした。こちらは仕様が決まっている木材を使うもので、安く早くできるけれど、自由度が低くリフォームもしにくい、といった短所があるそうです。
すぐに温度が下がる!
「在来工法」に「ツーバイフォー」、どちらもそれぞれ長所・短所があるようですが、最近、私が「在来工法の家でよかったのかな」と感じたのは、猛暑でのこと。
前に住んでいた公団、つまりマンションは、夏になると、部屋が暑くなり、リビングでのエアコンは必需品でした。
この猛暑、もちろん今の家でもエアコンは必需品ではありますが、設定は29から30度程度で十分に快適に過ごせますし、特に大きな違いが夜に出てきます。
ご存じの通り、マンションは比較的気密性が高いため、一度温度が上がると熱が逃げにくいといった特徴を持っています。それは長所でもありますが、夏だと一度こもった熱は、夜になってもなかなか下がりません。
公団でも寝室にエアコンを設置していなかった部屋に寝る際は、暑さで寝苦しかった記憶があります。
対してこの中古の一軒家はどうか?
引き戸窓が多く、風通しがいい上に、昼間はサウナのように暑くなる二階の寝室も、夜になると温度はすぐに下がります。窓も多いから、風通しもよく気持ちがいいのです。エアコンを使う機会も減り、その分、かかる電気代もお得なのは言うまでもありません。
古い家も、悪いところばかりではない
なお大工さんいわく「ツーバイフォー」で建てられるような最近の家では、気密性がかなり高いそう。それだとマンション同様、なかなか熱が逃げにくいのかもしれません。
また新しい建材が使われることも多いそうですが、新しい素材には、再利用できないものも含まれるそうで、そうなるといずれ産業破棄物に。「あまりそういう家が増えると、何十年後かが心配」とは良心的な大工さんのつぶやきです。
そういえば、息子が帰省がてら、久しぶりに我が家に泊まっていきました。
そのとき息子が「なぜかこの家は落ち着く」と言っていたのは、私の対応が良いせい・・・ではもちろんなく、この家の過ごしやすさを肌で感じとっていたのかもしれません。
私自身、新築よりも安く買える可能性が高い古い家も、悪いところばかりではないのかな、と住んでみて感じています。
兼好法師は「家は夏を旨とすべし」と『徒然草』に書いていますが、猛暑の今こそあらためて考えてみていい言葉なのかもしれません。
11/05 10:00
婦人公論.jp