ルイ・ヴィトン本社の広報部長は、なぜいつも同じようなワンピースを着ていたのか。「オシャレな人」になるために考えるべきこと

(写真はイメージです。提供◎photoAC)
厚生労働省が発表した「第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」によると、生きがいや生活満足度について、日本では「多少感じている」人の割合が43.8%で最も高く、次いで「大変感じている」人が23.6%。一方、アメリカとスウェーデンでは、「大変感じている」(アメリカ57.4%、スウェーデン33.1%)の割合が最も高かった。ストレスを感じないために、自分らしく過ごすには方法とは。『パリジェンヌはすっぴんがお好き』を著した藤原淳さんいわく、パリジェンヌの生き様を知ると肩の力が抜け、「ありのままの自分でいいんだ!」と納得できるという。ルイ・ヴィトン本社に17年間勤務し、PRトップをつとめた藤原さんが教える、自分なりの生き方を貫くヒントとは

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【書影】どうすれば自分なりの生き方を貫くことが出来るのかを提案する『パリジェンヌはすっぴんがお好き』

ルイ・ヴィトン本社の広報部長

広報部長のマダムはスラリとした体型です。真っ白になった髪の毛は染めることなく、ボーイッシュな体型にピッタリのショートヘアに刈り上げています。その銀髪が洗練されていながら、どことなくキュートでもあり、独特の魅力を放っています。

広報という職業柄、イベントやパーティー、食事会などの公の席には、必ず自社ブランドの服を身に纏わなければなりません。

そんな時、彼女は担当の部下が勧める最新のスーツやドレスを退け、いつも同じような細身の黒いワンピースを好んで着ていました。ファッション・ショーにも登場し、流行の先取りをするようなドレスには目もくれません。

そのような一点物を着こなすことができる体型をしているだけに、私はいつも、

(勿体ないなあ……)

と残念な気持ちで広報部長を遠巻きに見つめていました。

なぜ、彼女はいつも同じようなワンピースを選んでいたのでしょう。その謎は、ファッション・ショーの舞台裏でインタビューのお手伝いをしている時に解けました。

デザイナーの意外なファッション

ルイ・ヴィトンのように、元々トランク店だった老舗ブランドがなぜ、スター級のファッション・デザイナーを雇い、巨額の投資をしてファッションの世界に足を踏み入れたか、不思議に思ったことはありませんか。

それはひとえに、時代を先取りするためです。古き良きものに新しい要素を加えることによって、どの時代でも最先端をいくデザイン性を備えた新商品を提供し、消費者の購買意欲をくすぐるためです。

そんな使命を一手に引き受けるのがファッション・デザイナーです。彼らは常に既成概念を問い、時には壊し、新しいモノや考え方を世の中に送り出していくことを求められます。一般人がファッション・ショーを見ると、奇抜に思えたり、キレキレに映るデザインがあるのもこのためです。

ではファッション・デザイナー本人がキレキレの恰好をしているかといえば、そうではありません。驚いたことに、案外地味な服装をしています。

ルイ・ヴィトンのレディース・デザイナーのニコラ・ジェスキエールは黒のズボンに黒の革ジャンが定番ルックです。ディオールのメンズ、そしてフェンディのレディースを担当している気鋭のデザイナー、キム・ジョーンズも、まるで制服のようにいつも同じような恰好をしています。なぜなのでしょう。

答えはある日、私と同じ疑問を持つファッション記者が、当時ルイ・ヴィトンのメンズを担当していたキム・ジョーンズにインタビューをした際、明らかになりました。「なぜいつも同じような服装をしているのか」という質問に対し、キムはこう答えたのです。

「自分が心地よいと思える服装が一番なんだよ。自分を見失うと創造力は湧いてこない」

側で聞いていた私はびっくりしてしまいました。ファッションのプロ中のプロ、流行を作り出す張本人が、自分のためには「心地よい」服を選ぶと言うのです。それはややこしいドレスを避け、「これが一番よ」、といつも同じような黒のワンピースを選ぶ広報部長のマダムにも通じるところがありました。

(写真提供◎photoAC)

究極の境地

その割り切り感は、自分を知り尽くしている人が行き着く境地です。もっと言えば、自分を知り尽くしている人しか行き着くことのできない、究極の境地です。

私はそれまで、流行をうまく取り入れ、いろいろなルックスを着こなしている人が「オシャレな人」だと思っていました。どうやら、根本から間違っていたようです。

本当にオシャレな人は流行には見向きもせず、「自分にとって何が一番心地よいか」というスタンスで服を選んでいるのです。ましてや、「周りに合わせる」などという発想は論外。未熟さを思い知らされた私ですが、ちょっとほっとしている自分がそこにいました。

(なんだ、そんなことでいいのか!)

肩の力が抜けたのです。周りに溶け込む必要はない。張り合う必要もない。自分にとって心地よいモノってなんだろう。これだけ考えればいいのです。

心地よさを優先させた服を選ぶ

自分の肌に合う色。自分の心が和む模様。手に取ってみてほっとする、あるいはワクワクする素材。着てみてしっくり来るモノ、反対に抵抗感があるモノ。それは自分にしかわからないことです。誰も教えてくれないことです。

流行に惑わされることなく、周りの意見に流されず、自分の心に耳を傾けてみてください。自分の本能と感覚を大事にしてください。そして「これ」というモノが見つかった時は、多少季節外れだろうが、場違いだろうが、それを着てみてください。

人からダサいと言われようが、「おかしい」と言われようが、それを貫いてみてください。人の意見より自分の心地よさを優先させてください。

「自分らしいスタイル」というものはすぐには見つかりません。私の試行錯誤はまだまだ続くのでした。けれども自分を主体にして洋服やアクセサリーを選ぶようになってからは、不思議なほど気がラクになりました。同僚の恰好を真似ることもなくなりました。

自分なりの生き方。それは何よりもまず、自分の感性を磨くことから始まります。

※本稿は、『パリジェンヌはすっぴんがお好き』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

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