右肩上がりに増える<東洋医学>臨床研究報告。専門家「過大に効果を宣伝するものも…私達のまわりの現状は玉石混交」

(写真提供:Photo AC
近年そのメカニズムが次々と科学的に解明され、注目を集める「東洋医学」。2024年5月19日(日)放送のNHKスペシャルでも「東洋医学を〈科学〉する 〜鍼灸・漢方薬の新たな世界〜」と題し、研究の最前線が紹介されました。その番組制作に携わっていたのがNHKメディア総局でチーフ・ディレクターを務める山本高穂さんです。今回、山本さんが、島根大学医学部附属病院にて臨床研究センター長を務める大野智さんと刊行した著書『東洋医学はなぜ効くのか ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム』から一部を紹介します。「東洋医学を含む統合医療」分野の専門家である大野先生によれば、近年になって鍼灸や漢方薬は世界各国で研究が進められ、知見も加速度的に蓄積しているそうで――。

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【図】人を対象とした「東洋医学」の研究(臨床試験)報告数。右肩上がりに増えていることがわかる

科学的検証や解明が進む東洋医学

まず、医学領域の科学的検証におけるポイントについて触れておきましょう。

重要なポイントのひとつとされているものに再現性があります。

条件や手順が同様であれば同じ事象が繰り返し確認できるというものですが、東洋医学は、地域ごとに独自に発展してきた歴史的背景があり、例えば、鍼灸のツボ(専門的には経穴と言います)の位置や数が、中国、韓国、日本で微妙に異なり、条件を揃えることが難しいために、再現性が担保できないという問題点が指摘されていました。

しかし、1980年代からWHO(世界保健機関)の伝統医学プログラムなどを中心に議論が進められ、2006年にはWHO/WPRO(西太平洋地域事務局)主催による経穴部位国際標準化公式会議がつくば市で開催されました。

そして2008年に経穴部位の標準化が公表されたのです。

一方、生薬や製剤の国際標準化も同様に議論されていますが、漢方医学(日本漢方)と中医学、韓医学は、ルーツは同じでも現在では全く異なる医療体系となっており、結論が出るに至っていません。

人を対象とした研究の報告数が増加

このように、まだ課題はあるものの東洋医学の再現性を担保するための施術・療法の標準化が進められた結果、人を対象とした研究(臨床試験)の報告数は近年右肩上がりに増加してきています。

また別の背景として、中国が国家戦略として研究費を投じて研究を推進してきたこと、アメリカでNIH(国立衛生研究所)が生薬や鍼灸などの検証に対する研究費を増額したり、専門の国立機関(National Center for Complementary and Integrative Health)が設置されたりしてきたことも挙げられます。

そして、効果の有無を検証する臨床試験と並行して、東洋医学が効果を発揮するメカニズム解明の研究も進められてきています。これらの研究では、分子生物学的な手法を用いるもの、最新の脳科学、神経科学、免疫学の知見を応用するものなど、科学が進歩してきたからこそ明らかになってきた面もあります。

統合医療というアプローチ

ところで、日本では鍼灸師は国家資格、漢方薬の一部は医薬品といった具合に国の制度に組み込まれているものがある一方、東洋医学は人によって定義も異なることから、その名を使って過大に効果を宣伝するものが存在しています。つまり、身の回りでは玉石混交と言わざるを得ないような現状があるのです。

また、東洋医学のほか、私たちは健康食品、磁気療法、整体、温泉療法、アロマテラピーなど、多種多様な施術・療法を利用しています。

厚生労働省は、これらを統合医療と呼んでいます。初めて聞いたという人もいるかもしれません。

2012年から同省は検討会を開催して議論を重ね、統合医療を「近代西洋医学を前提として、これに相補(補完)・代替療法や伝統医学等を組み合わせて更にQOL(Quality of Life:生活の質)を向上させる医療であり、医師主導で行うものであって、場合により多職種が協働して行うもの」と説明しています。

近代西洋医学に組み合わせる療法の例を図のように整理しました。

【図】統合医療の分類

なお、図に挙げられている療法は、効果の有無を問わず、多くの国民に利用されているものという位置づけになります。「図に載っているから厚生労働省が効果にお墨付きを与えた」というわけではありませんので、ご注意ください。

そして、統合医療を適切な形で推進していくために、臨床研究の支援、正確な情報発信の必要性を提言しています。

鍼灸を行う施術所がコンビニ店舗数より多い日本

裏を返せば、統合医療の多くはいまだ科学的知見が十分ではないことを意味しています。

『東洋医学はなぜ効くのか ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム』(著:山本高穂、大野智/講談社ブルーバックス)

もちろんその程度は分野によって異なりますが、そのような中で鍼灸や漢方薬は、世界各国で研究が進められ、臨床的な効果やメカニズムの解明といった知見が加速度的に蓄積してきている、今注目の統合医療と言えます。

さらに、日本では鍼灸師が国家資格となっていること、漢方薬の一部が医薬品として認められていることは前述した通りです。また、それに関連して鍼灸や漢方医学の一部が健康保険の対象となっている世界的にも珍しい医療制度をとる国のひとつです。

鍼灸を行う施術所は7万を超えていて、コンビニの店舗数より多くなっています。

※本稿は、『東洋医学はなぜ効くのか ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム』(講談社)の一部を再編集したものです。

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