なぜ?公表1球団の“鉄のカーテンドラフト”で「本当に1位指名すべき」9人と「評価に疑問が残る」危険な上位候補とは?…ノムさん“片腕”元ヤクルト編成部長が直前診断

 いよいよ今日24日プロ野球ドラフト会議が開催される。“大学ビッグ5”の1位指名候補の関西大の金丸夢斗投手、明治大の宗山塁内野手に重複入札が予想され、愛工大の中村優斗投手、青学大の西川史礁外野手、大商大の渡部聖弥内・外野手にも注目が集まっている。1位指名すべき選手にランキングを付けるとどうなるのか。そして上位候補ながら「評価に疑問が残る」危険な候補は誰なのか。“名将”野村克也氏の“参謀”として知られ、ヤクルトでは編成部長、阪神ではスカウトも務めた松井優典氏(74)に忌憚のない意見を聞いた。

 

 ドラフト前夜に異変が起きた。1位指名選手を公表したチームは広島の明治大の宗山だけ。2022年は9球団、2023年は4球団と、年々1位指名選手を公表するチームは減少しているが、今年は、わずか1球団だ。
 元ヤクルト編成部長の松井氏は「駆け引きに加えて昨年のドラフトの反省があるのではないか」と見ている。
 昨年は大学生投手が「豊作」と呼ばれたドラフトで、12球団中8球団が大学生投手を指名したが、中日の草加勝(亜大)、阪神の下村海翔(青学大)がトミー・ジョン手術を受けるなど1年目に戦力にならない投手が続出。結果を残したのは10勝6敗、防御率2.17で新人王の最有力候補となった西武の武内夏暉(国学院大)、5勝8敗ながら、楽天のローテーを守った左腕の古謝樹(桐蔭横浜大)、そして尻切れトンボにはなったが、前半戦に勝利方程式に起用された巨人の西舘勇陽(中央大)の3人だけ。
 松井氏は「公表しないことで本当の狙いをカモフラージュできる。1本釣りの可能性も含めてより慎重に情報収集している証拠ではないか」と言う。
 そういう“鉄のカーテン”に隠されたドラフトにおける「本当に指名すべき」1位候補のランキングと「評価に疑問が残る」危険な上位候補を松井氏にリストアップしてもらった。
 松井氏がナンバーワン評価をしたのは、重複指名が予想される金丸、宗山ではなく、愛工大の中村だ。最速159キロの右腕で制球力も抜群。スライダー、フォークも切れる。3季連続でリーグ最多奪三振のタイトルを獲得し、3月には侍ジャパンに選ばれた。
「コンスタントに150キロを超えてくるストレートに加えてスライダーが凄い。縦と横の2種類を投げ分けていて自在に空振りが取れる。1m76でそれほど上背はないが、ガッチリとした頑丈な体型で、肩、肘の故障の不安がないタフさも魅力的だ」
 2番手は「2026年のWBCでは侍ジャパンのショートを守っているのでは?」というほどの評価がある明治大の宗山。広島、ソフトバンク、楽天、ロッテ、ヤクルトの4球団の1位指名が予想される。
 阪神OBの鳥谷敬と西武の源田壮亮を足して2で割ったようなショートで、大学2年の春に打率.429で首位打者。今春は死球を受けて肩甲骨骨折、さらに右手中指も骨折するアクシデントに見舞われたが、秋は11試合に出場して打率.391、2本塁打、11打点と復活。通算116安打は鳥谷を抜く東京六大学の歴代8位の記録となった。
「守備は即通用する。私が神宮で観戦した際には捕手からの難しいワンバウンド送球を軽快にワンハンドでさばき盗塁を仕掛けた走者をアウトにしていた。センスを感じた。ショートの基礎動作はパーフェクト。パンチ力は足りないが、逆方向にも打てる。早大時代の鳥谷以上の打撃センスを感じる」

 

 

 松井氏は3番手に関西大の左腕、金丸を置いた。阪神、巨人、中日の最低3球団の重複が予想される。最速154キロを誇り、侍ジャパンにも選ばれた金丸の評価を下げた理由は、5月に発症した腰の骨挫傷を考慮したものだ。
「三振が取れて四球も出さない。ソフトバンクの和田毅のように腕が隠れる。3年生の時の状態であれば、即プロで2桁勝てると見ていたが、4年になってトーンダウン。5月に怪我をしてから今秋は1試合も先発せず10試合すべて救援登板だった。全力で投げることができていない。ここをどう判断するか。去年のドラフトの例があるだけに各球団の調査力が試されるところ。外から見ているだけだが私が編成部長なら1位指名は回避する」
 後述するが、金丸も「評価に疑問が残る」危険な上位候補の一人だという。
 4番手評価は、青学大の西川と大商大の渡部の大型野手2人。西川は侍ジャパンにも選ばれた1m82、88Kgの右打ちの外野手で、去年、今年と春にリーグMVP。足を大きく上げてタイミングを取り、大学選手権も含めると大学通算8発でパンチ力とミート力の両方を兼ね備える。渡部も、通算9発に加えて、リーグ戦の最多安打記録に並ぶなど、力と技の両方を兼ね備えた外野手で、三塁もできる。広角に打て、おまけに足と肩もある。広陵高出身で宗山とは同期だ。
「ボールを待つタイミングと柔らかさは西川。渡部は少し硬いが、2人の共通点は逆方向へも広角に打てること。渡部は、足が速く肩も強い。三塁も守れるので、球団の事情に合わせて1位指名があると思う」
 6位からは、素材型の高校生のランキングに入るが、松井氏が、東海大相模の大型左腕、藤田琉生や報徳学園の今朝丸祐喜よりも上の評価を与えたのが、前橋商の1m92、95kgの大型右腕の清水大暉だ。最速149キロの角度があり球持ちのいいストレートが武器。2年夏に甲子園出場はあるが、1回持たず、以降出場機会がなかったため、中央では無名。
「長身にもかかわらず投球バランスがいい。阪神の才木浩人を彷彿とさせる。右打者の外角へ斜めに入っていく角度と左打者の膝元へのスライダーに天性を感じる。1位もありえる」
 7位に評価したのは、生光学園の右腕、川勝空人。1m81、84Kgで、最速は153キロの四国の剛腕。甲子園出場はなく、最後の夏は、徳島県大会の1回戦で6回から登板して、押し出し四球を与えてサヨナラ負けを喫した。
「馬力がある。素材型のように見えるが即戦力に近い。上から投げ下ろしフォームにワンテンポを置くような間があるため、そこで打者との距離をつめタイミングを狂わせる」

 

 

 そして1位指名も予想される東海大相模の藤田、報徳学園の今朝丸と続く。
「1m98ある藤田のような大型左腕はプロでは成功が難しいとされてきた。だが、藤田の身のこなしは、その大型左腕に貼られたレッテルを覆すと思う。甲子園では力で押す投球と変化球でかわす投球の器用な2面性も見せてくれた。今朝丸の評価を下げたのは、センバツから夏に向けて成長があまり見られなかった部分。それでもポテンシャルは疑いがない」
 一方上位指名の評価を受けている候補の中で「疑問が残る」と松井氏が評価を下げた候補もいる。即戦力投手では、法大の最速157キロ右腕の篠木健太郎だ。
「あくまでも個人的見解だと理解してもらいたいが、篠木は馬力はあるが、打者の反応を見ていると、それほど体感スピードを感じていないように思える。バラつきもあり、伸びシロについても厳しい」
 高校生では、阿南光をセンバツ8強へ導いた右腕の吉岡暖、広陵の最速148キロ右腕の高尾響の2人をリストから外した。
「ピッチングは上手いがスピードが足りないのが吉岡。大学、社会人での成長を待ちたい。高尾もセンバツから夏にかけて成長が見られず評価が難しい」
 野手に目を向けると、即戦力の大型三塁手として上位指名が予想される青学大の佐々木泰を消した。東都で通算12発。おまけに俊足強肩だが、松井氏は「パワーがあるが粗い。この秋は、打率3割を打ったが、今春、昨秋と1割台。確実性に乏しい。三塁手としての守りは上手いが、同じようなタイプの大商大の渡部に比べると躊躇する」と厳しい見解。
 高校生の野手では、U-18代表に選ばれた花咲徳栄のショートストップの石塚裕惺への評価を下げた。1m81、84Kgの大型ショートだが、「石塚は高いレベルでバランスは取れているが、バッティングの硬さが気になる。金属バット打法から抜け切れていない。また気が抜けたような雑なプレーが目についてしまう」と松井氏。
 異例の“鉄のカーテン”に隠された2024年のドラフトの開始は午後4時50分。そこにはどんなドラマが待っているのだろうか。

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