「上位3人遊撃手指名の巨人は最下位評価」元ヤクルト編成部長がドラフト成否を独自採点…「90点以上は楽天と中日。日ハム、ソフトは未来型で西武とヤクルトは戦術成功。阪神はユニーク挑戦」
プロ野球のドラフト会議が24日行われ、支配下69人育成54人の計123人が指名された。注目の明治大の宗山塁は、広島、ソフトバンク、日ハム、楽天、西武の5球団が競合して楽天が交渉権を獲得、関大の金丸夢斗には巨人、阪神、横浜DeNA、中日の4球団が競合して中日が交渉権を引き当てた。ドラフトの成否の答えは5年後、10年後に出るものだが、ヤクルトで編成部長、阪神でもスカウトを務め、ヤクルト、阪神、楽天ではコーチとして故・野村克也氏を支えた”元参謀”として知られる松井優典氏(74)に独自視点で各球団のドラフトを採点してもらった。
広島が宗山の1位指名を公表しただけの“鉄のカーテンドラフト”。いざ蓋をあけてみると、大学ビッグ5のうち、宗山に5球団、金丸に4球団、青学大の西川史礁にオリックスとロッテの2球団が競合し、1本釣りに成功したのはヤクルトの愛工大の最速160キロ右腕の中村優斗だけだった。宗山は楽天、金丸は中日、西川はロッテ、そして外れ1位でもソフトバンクと日ハムが福岡大大濠の“二刀流”柴田獅子で競合して、新庄監督がクジを引き当て、花咲徳栄の大型遊撃手の石塚裕惺にも巨人と西武が競合して巨人が交渉権を獲得した。
松井氏は「金丸は5月に腰を怪我したため競合が減ると思っていたが、各球団が調査をかけて大丈夫だという判断だったのだろう。宗山に関しては源田壮亮のいる西武は、西川にいくと思っていただけに意外だった。広島だけしか1位を公表しなかった駆け引きの結果、例年以上に各球団の戦術、戦略が見え隠れしたドラフトになった。巨人を除き、全体的に平均点以上だった」と総括した。
松井氏は12球団の成否採点の大前提として「大学ビッグ5を指名できた5つのチームはそれだけで80点の合格ラインを越えたと評価していい」とした上で、一番の成功球団として宗山の交渉権を得た楽天をリストアップした。
採点は92点。
「即戦力型に特化した。プロ9年目にしてショートで1本立ちした村林一輝をどこへコンバートするのかという問題はあるが、宗山という軸になる選手が取れたことに加え、5位で早大の“長距離砲”外野手の吉納翼を指名できたのが大きい。ポスト島内宏明をイメージしたのだろう。2位の環太平洋大の徳山一翔が左腕、3位の独立リーグ徳島インディゴソックスの中込陽翔が巨人の大勢に似た変則サイド、4位の日鉄ステンレスの江原雅裕が右腕と多彩な構成で即戦力投手を指名でき、Bクラスのチームが、来季その上を狙うための補強はできたように思えた」
続く評価は中日の90点。金丸を射止め、2位で西濃運輸の左腕の吉田聖弥、4位で日本生命の捕手の石伊雄太、5位、6位で素材型の高校生投手2人を獲得した。
「井上新監督がいい仕事をした。ポスティングの小笠原の穴は金丸で埋まる。秋に先発できずすべて救援登板で全力投球ができていない点が気になるが、最後の登板にスカウトを送ったのは中日だけだったと聞く。昨季は草加勝(亜大)がキャンプ前に手術となったのでよほどの調査をしたと思う。3年時の力なら2桁は勝てる。さらに2位の吉田も最速152キロのストレートにチェンジアップを操れ、外れ1位で消えてもおかしくなかった投手。石伊は守備型の捕手だが、攻撃型の捕手に宇佐見がいるのでそこが狙いだったのだろう。ここ数年、大学、社会人の内野手に偏ったドラフトが続いていたが、下位で素材型の投手を指名してバランスもとれた」
1位で宗山を外し、外れ1位でも、柴田で競合した日ハムとソフトバンクには「長期的な視点でチーム構成を考えた未来思考の意図あるドラフト」と評価して、揃って平均点以上の85点の好評価を与えた。
「日ハムは大谷翔平を輩出したチームらしく二刀流の可能性がある柴田を新庄監督が引き、2位で甲子園で注目を浴びた1m98の大型左腕、藤田琉生(東海大相模)、4位で1m94の大型右腕の清水大暉(前橋商)と超A級の高校生投手を3人も指名できた。ソフトバンクが“外れ外れ”1位指名した村上泰斗(神戸弘陵)も最速153キロの将来期待の好素材。4位、5位で宇野真仁朗(早実)、石見颯真(愛工大明電)というポテンシャルのある高校生のショートを指名し、育成はなんと13人。4軍まで持ち、リーグ優勝した球団の余裕のようなものを感じた」
「チーム事情に沿った戦略型の成功」と評価したのは、ヤクルトと西武の2球団。両球団は共に83点とした。
今季は先発陣が崩壊し、2桁勝利投手が1人も出ずにチーム防御率3.64で5位に沈んだヤクルトは、課題の投手補強の目玉で最速160キロの中村の1本釣りに成功した。
「“今”で判断すれば金丸より中村が上だと私は見ている。スポーツ紙の当日予想で中村1位を予想していた社はどこもなかった。情報管理もうまくやり戦略的に1本釣りできたのは評価できる。さらに再来年に村上宗隆がメジャーに行くことを見据えて、超高校級のスイングスピードに加えてミート力もある左の外野手、モイセエフ・ニキータ(豊川)を2位指名した。ただ補強ポイントが投手だったにもかかわらず、中村と3位のセガサミーの荘司宏太の2人の指名で終わったことには疑問が残る。その部分を差し引くと、大成功とは言えない」
また今季最下位に沈み西口文也2軍監督を新監督に昇格させた西武は、12球団最低のチーム打率.212に終わった打線強化が急務だった。1位で宗山を外し、外れ1位でも巨人と競合して高校生のショートではナンバーワンの石塚を逃したが、“外れ外れ1位”で金沢高のショートの齋藤大翔を指名し、2位で大学ビッグ5の一人である大商大の長距離砲で三塁もできる渡部聖弥の指名に成功した。大学、社会人の野手も2人抑えた。
「ウエーバートップの西武は2位で渡部を取れると読んでポスト源田を見据えアスリート型の齋藤を先に指名したのだろう。1位クラスの野手を2人指名できたのは大きい。また育成で大阪桐蔭のラマル・ギービン・ラタナヤケを抑えた。第2の万波中正のように育つかに注目したい」
オリックスとの競合に勝ち、大学ビッグ5の一人の西川を引き当てたものの大成功と評価できなかったのは82点のロッテ。
「足りなかった外野手の穴を西川で埋めることができたのは評価できるが、ずっと内野手を育てられないことが課題とされていたところに、また社会人のショートを2人も獲得したのが疑問。ドラフト戦略の焦点が見えなかった」
逆にその西川を逃して、富士大の1m80、83kgの大型外野手の麦谷祐介を指名したオリックスの採点をロッテより上の83点とした。
「西川を外したが麦谷を取れたのは大きい。彼は盗塁も通算44個するなど、強打、俊足、強肩の外野手。さらに2位指名の日体大の大型右腕、寺西成騎はバランスはよく大荒れしない。最速153キロで縦スラが制球できる即戦力。またここ数年、成功している戦略だが、今年も5位でENEOSの東山玲士、6位でNTT東日本の片山楽生と下位で2人の社会人投手を取った。社会人の下位指名はタブーだったが、事前の交渉とそれなりの条件を提示するのだろう。この戦略も評価したい」
「それぞれの球団の思惑が見えて平均点以上だった」と、横並びで75点の評価をしたのが、阪神、広島、横浜DeNAの3球団だ。
阪神は金丸を逃したが、外れ1位でNTT西日本の最速149キロ左腕の伊原陵人、2位で報徳学園の大型右腕の今朝丸裕喜を指名した。
「伊原は、1m70と上背はないが、腕が隠れて出てきてリリースポイントが前にあり、打者が打ち辛い、大商大出身の即戦力左腕。2位も地元の甲子園スターの今朝丸。センバツから夏にかけての伸び悩みが気になる投手だが、球界を代表するストッパーだった藤川新監督がどう育てるか見もの。また独立リーグから育成も含め5人指名した。育成1位の徳島の工藤泰成は最速159キロの急成長の剛腕。近年、徳島など一部の独立リーグのチームは立派な施設を揃えデータを使った指導法も確立している。そこに目をつけた阪神の取り組みはユニークだろう」
宗山の1位指名を公表した広島は外れ1位で青学大の通算12発を打った三塁手、佐々木泰を指名した。
「広島は渡部ではなく、佐々木を指名した。守備の上手さは佐々木だが粗さがある。スカウトの見る目が試される。外国人の失敗もあり末包に続く和製大砲が欲しいのだろう。評価したいのは、2位の富士大の左腕、佐藤柳之介。阪神の伊藤将司に瓜二つの変則フォームでタイミングが取り辛い」
1本釣り戦略で知られる横浜DeNAも金丸に参戦した。補強ポイントはメジャー移籍した今永昇太の穴を埋めきれなかった先発投手。外れで三菱重工westの竹田祐、2位で評価の高かった法大の右腕、篠木健太郎、6位でも国学院大の1m80、80kgの大型右腕、坂口翔颯を指名した。
「横浜DeNAは即戦力投手を3人獲得したことで成功だろう。竹田は明治大では指名漏れしたが、球速、制球力とアップした。6位の坂口は総合力では大学、社会人でトップクラス。平均点に留めたのは、2位の篠木は最速157キロは出るが、打者の反応を見る限り、体感はそれほどでもなくバラつきがある点」
そして「最下位の評価」は、巨人で平均点に届かぬ65点。石塚を西武との外れ1位の競合で引き当て、2位で九州産業大の俊足巧打のショートである浦田俊輔、3位でも上武大の左の長打力を秘めた大型ショートの荒巻悠を指名した。
「ポスト坂本勇人を意識しているのだろうが、上位3人をショートでまとめたのは、あまりにも偏り過ぎている。高校生の石塚、スピードタイプの浦田、長打タイプの荒巻と、特徴の違う選手を集めたが、菅野智之がメジャー挑戦するのだから、即戦力の投手を絡めておくべきだった」
最後に松井氏は2024年のドラフトをこうまとめた。
「下位チームがドラフトに成功したことで来季が面白くなる。そして大事なのは、ドラフトの後。本人がどう努力して、チームがどう育成するか。本当の成否がわかるのは、5年後、10年後でしょう」
(文責・RONSPO編集部)
10/25 06:33
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