「投手出身の監督はダメだ。覚悟してやりなさい」球界大御所が阪神新監督の藤川球児氏に辛口エール…成功のカギは“参謀”選びにあり!

 阪神は14日、岡田彰布監督(66)の後任監督としてOBで現在球団本部付スペシャルアシスタント(SA)を務めている藤川球児氏(44)の就任を発表した。2020年を最後に現役を引退した藤川氏は、コーチ経験がないまま、4年間の充電期間を経て黄金期に入りつつあるチームのバトンを受け継ぐことになった。巨人OBでヤクルト、西武で監督として日本一となっている球界大御所の広岡達朗氏は「投手出身の監督はダメだ。覚悟してやりなさい」と苦言を呈する一方で「成功するためには経験豊富な参謀をつけることが重要」と組閣人事の重要性を訴えた。

 ヘッドコーチは置かない方向

 “火の玉”藤川氏が監督として帰ってくる。岡田監督の退任を受けた後任監督として藤川氏の就任が発表された。説明するまでもなく、藤川氏は阪神でそのほとんどをストッパーとして合計19年間プレー。狙っていても打てないホップする“火の玉”ストレートを武器に通算243セーブをマークし、2度のセーブ王、ホールド王を獲得した。また2012年オフに海外FA権を行使してカブス、レンジャーズでプレー。阪神に復帰する前には、独立リーグの四国アイランドリーグplus・高知ファイティングドッグスでも登板した。 
 球団は2022年を限りに退任した矢野燿大監督の後任には、阪急阪神ホールディングスの総帥である角和夫CEOが監督人事に介入してくるまでは、当初、平田勝男氏を監督を据え、同時に次期監督含みで藤川氏を入閣させるプランを練っていた。それほど藤川氏の情熱、阪神愛、そして野球理論を高く評価していた。
 だが、球界大御所の広岡氏は、藤川氏の起用に“物言い”をつけた。
「投手出身の監督はハッキリ言ってダメだ。例外はあるが、ほとんど成功していない。フィールド全体を見渡し野球を知っている捕手、内野手出身の監督が望ましい。そしてコーチ経験がないのも問題。格言にもあるが、名選手が名監督になるとは限らない。いかに勉強しているかが重要で、そのためにはコーチ、2軍監督などの経験が必要なのだ。メジャーを見てみなさい。多くの監督がマイナーで指導者としての経験を経て順序立って1軍で指揮を執っている」
 阪神での投手出身監督は、2002年、2003年に監督を務めた星野仙一氏以来となるが、生え抜きの監督となると、1988年、1989年の村山実氏以来35年ぶりの誕生となる。村山氏は1年目が最下位、2年目も5位と低迷して2年で解任されたが、星野氏は2年目に優勝した。また他球団を見ると、ヤクルトの高津臣吾監督が2021年、2022年と連覇を果たしているし、広岡氏が手腕を評価している工藤公康氏も、ソフトバンクでリーグ優勝3回、日本一5回の実績を残すなど、投手出身監督の成功例がないわけではないが、ロッテのGMも務めた広岡氏は、持論として「投手出身監督」にダメ出しをする。
 またコーチ経験がないまま監督に就任するのは、金本知憲氏以来。金本氏が、就任3年目に最下位に沈んで事実上、解任された際には、コーチ経験の有無が問題視された。金本氏の次に監督就任した矢野監督も2軍監督出身で、今季のセ、パのペナントレースを制した巨人の阿部慎之助監督、ソフトバンクの小久保裕紀監督も共に2軍監督の経験を経ており、ある意味、2軍監督で帝王学を学ぶのが、球界のトレンドではあるが、阪神は、ある意味“賭け”に出た。
 藤川氏は、引退後、NHKなどで評論活動を行っていた。投手心理をくみとった理論的な解説の評判はすこぶるいい。今季は阪神に関しても、NHKの中継で佐藤の2軍落ちについて「なぜそうしたのかわからない」と岡田監督の采配を公然と批判。また西勇輝に対しても、その姿勢に苦言を呈するなど、歯に衣着せぬ意見を展開させていた。

 

 

 だが、広岡氏は「いくら評論や解説がよくても指導者としていいかは別だ。現場は違う。だからこそコーチ経験が必要なのだ」と、バッサリだ。
「相当の覚悟をしてやりなさい」
 そう藤川氏に檄を飛ばした。
 ただ“ある条件”を満たせば、藤川氏が成功する可能性があるという。
「大切なのは参謀として経験豊富なコーチを藤川につけることだ。巨人の藤田は牧野茂というヘッドコーチをつけて成功した。彼はガンとした信念を持った指揮官だった。勉強もしていた。藤川が経験豊富なコーチをヘッドとして招き、彼自身が、監督をしながら勉強を怠らず、性格的に指導に情熱と根気があり、ぶれない信念のある人物であるのならば、そもそも投手力のあるチームなのだから、うまくいく可能性はある」
 “名参謀をつけよ!”との緊急提言だ。
 広岡氏が指摘したように、巨人では投手出身の藤田元司監督が、牧野茂ヘッド、王貞治助監督という「トロイカ体制」で臨み、就任1年目となる1981年にリーグ優勝、日本一を手にしている。
 また星野氏も、中日、阪神の時代を通じて島野育夫氏という名参謀とタッグを組み、投手交代以外のほとんどの作戦を任せていた。藤川氏にも捕手、あるいは、内野手出身でコーチ経験豊富なそういう“名参謀”をつければ戦えると広岡氏は指摘するのだ。
 広岡氏はさらに具体的に「岡田を支えていた平田がいいのでは?」と平田ヘッドコーチの続投を提案した。だが、現在水面下で進んでいる組閣では、平田氏には2軍監督復帰を要請して、ヘッド格を置かず、阪神でも監督を務めた“名将”野村克也氏の息子として、その“ID野球”のDNAを受け継ぐ、野村克則2軍バッテリコーチ、岡田体制で三塁コーチを務めた藤本敦士内野守備走塁コーチらの“総合コーチ体制”で藤川氏をサポートすることが有力となっている。
 楽天、ヤクルト、巨人でもコーチ経験のある野村氏は2020年には楽天の三木肇監督のもとで1軍作戦コーチも1年間務め、藤本氏は、岡田野球を継承できる人物。状況に応じた内外野の守備隊形なども進言できる。ある意味、巨人の藤田監督時代に似た“トロイカ体制”。だが、広岡氏が提言するような理想的参謀を見つけられなかったことへの不安は残る。
 藤川氏は近日中に就任会見を行う予定。リーグ優勝&日本一を成し遂げた岡田監督の後任監督とし、果たして、どんな第1声を発し、どんな組閣を発表するのだろうか。(文責・駒沢悟/スポーツライター)

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