「わけがわからん。なんのために岡田は阪神を優勝させたんだ」阪神の岡田監督の“続投要請無き“退任決定に球界大御所が疑問を呈する「再登板せよ」のエールも

 阪神の岡田彰布監督(66)が6日、甲子園で行われた練習前にコーチ、選手に2年契約が満了する今季限りで退任することを伝え、粟井一夫球団社長が、今季限りの退任しフロント入りすることを正式に発表した。次期監督は藤川球児氏(44)の就任が決定的。巨人OBで、ヤクルト、西武で監督、ロッテでGMを務めた広岡達朗氏は、続投要請のないままの退任に「わけがわからん」と疑問を呈し、「もう一度再登板せよ」と労いのエールを送った。

 「だから阪神は人が育たない」

 “義”を重んじる岡田監督らしい行動だった。阪神は12日から甲子園で始まる横浜DeNAとのクライマックスシリーズファーストステージへ向けての練習を6日にスタートさせたが、岡田監督がコーチ、選手に今季限りで退任する意向を伝えた。メディアに話をする前にチームに伝えるとの信念からの行動だ。各社の報道によるとその後、3日の時点で「しかるべき時がくるまでコメントは控える」としていた粟井球団社長が、正式に岡田監督の退任及びフロント入りを発表した。
 2年契約の満了による退任だが、続投要請はしなかった。就任1年目の2023年に18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶりの日本一を果たし、今季も5、6月に低迷したチームを立て直して、最後まで巨人との優勝を争いを演じ、阪神の監督として歴代最多の552勝を誇る岡田監督に続投を要請しなかったことは、客観的に見て異様に映る。
 球界大御所の広岡氏も、岡田監督の退任に疑問を呈した。
「なんのために岡田は阪神を優勝させたんだ。2年続けて立派な成績を残したんだ。たった2年で退任とは、わけがわからん。阪急と阪神の会社の中での主導権争いなのか。何が起きたか知らんが、昔から阪神は、どうやってチームを強くするのかという野球の本質から離れたところでこんなことばかりしている。だから阪神は人が育たないんだ」
 強烈な批判を展開した。
「岡田以上に経験があって、野球を勉強し、野球を知っている監督がいるのか。まだ66歳だろう。体力面を理由に辞める年齢じゃない。阿部だって采配ではとても老練な岡田にかなわない。私は反対だったが、佐藤、森下、大山らを2軍に落として、大事な8、9月に調子を上げさせるというシーズンを通じてのマネジメントも見事にやった。前回の優勝時(2005年)とは、また一味違う指揮で、オリックスで苦労した(3年連続Bクラス)経験が生きていた。セパ両リーグを見渡しても、監督として岡田が抜きんでている。戦力を整えれば、岡田なら来年また勝てる。それをなんで続投させないのか」 
 水面下で退任が決まったのは、2位が確定した9月29日。杉山健博オーナー、粟井社長、岡田監督の3者会談が甲子園で行われ、球団サイドは、2年契約の満了を告げ、続投は要請しなかった。
 今年11月に67歳となる岡田監督の体力面への配慮もあるが、一番の大きな理由は、“阪急アレルギー”。2年前に矢野燿大監督の退任に伴い、阪神は、当初、当時2軍監督で現在1軍ヘッドコーチの平田勝男氏を監督に据え、その次を見据えて藤川氏を入閣させるという2人セットでの再建プランを固めていた。
 2006年に経営統合されて以来、監督人事は、阪急阪神ホールディングスの取締役会で決済される案件のため、最終決定権を持つ阪急サイドに具申したが、角和夫CEOが「それでは勝てない」と“待った”をかけた。

 

 

 トップダウンで岡田監督が次期監督として推薦されて阪神も受け入れた。阪急が主導権を握って強行された監督人事は、優勝&日本一という形で実を結んだ。しかし、角CEOは、今夏頃から「私たちが口を出すのはこの2年まで。次の監督人事は阪神電鉄と球団が決めること」という姿勢を明らかにするようになった。
 岡田監督の契約は2年。3年目以降の監督人事を阪神に一任したのだ。
 主導権を取り戻した阪神は「阪急さんに押し付けられた人」である岡田監督の契約満了に伴い、その契約の更新は行わず、「意中の人」だった藤川氏の監督抜擢を決めた。広岡氏が指摘したように「勝てる監督は誰だ」という議論など、どこかに放り出して社内の主導権争いという極めて政治的な理由での監督交代である。
 岡田監督は「長くやるつもりはない」と就任時に語っていたが、次期監督候補の育成には手をつけられなかった。
「理想は、岡田に次の監督を育ててもらうことだっただろう。あくまでも契約満了を盾にとるのなら、平田ヘッドに監督を任せ、その間に次の監督に指導者としての経験を積ませればよかった。次の監督候補は、藤川らしいが、指導者経験もなく、しかも私が監督としての適性に欠くと考える元投手。若い藤川が次の指導者を育てることは無理だ。また数年後に同じようなことが起きるぞ」
 阪神は、故・久万俊二郎オーナーの時代に、中村勝広、そして岡田監督にも2軍監督を経験させるなど監督候補に英才教育を施してきた。矢野監督も2軍監督から昇格した。今季優勝した巨人の阿部慎之助監督、ソフトバンクの小久保裕紀監督、そして、6日の楽天との最終戦後に電撃辞任したオリックスの中嶋聡監督も2軍監督を経て監督に就任している。2連覇を果たしているヤクルトの高津臣吾監督、横浜DeNAの三浦大輔監督も同じく2軍監督経験者だ。その監督就任プロセスが、球界のトレンドになっているが、今回、阪神はその手順を踏まなかった。次期監督就任が決定的となっている藤川氏にコーチ経験はない。
 岡田監督は、今後フロント入りして、藤川体制を支えていくことになるが、広岡氏は、早大野球部の後輩に、こんなエールを送る。
「岡田にはもう一度3度目の監督として再登板をしてもらいたい。70歳の監督なんて珍しくない。まだまだ体力的にできるだろう。私を見てみろ。もう92歳だが、達者だ。もし岡田が再登板すれば、ある意味、球界にとっても阪神にとっても革命的な出来事になる。革命を起こせ!と言いたい」
 日本のプロ野球で、過去の最年長監督は阪神でも監督を務めた野村克也氏の74歳。70歳で楽天監督に就任して4年間指揮をとった。また岡田監督のオリックス時代の恩師でもある仰木彬氏、中日の高木守道氏も70歳を超えて監督を務めている。
(文責・駒沢悟/スポーツライター)

ジャンルで探す