「どっちかに勝敗がつく。見とったらええやん」巨人との最終決戦前に阪神の岡田監督が言い残した言葉の意味…“サトテル”決勝アーチと岡留プロ初セーブ…横浜DeNAに競り勝った采配の裏

 阪神が21日(横浜スタジアム)の横浜DeNA戦に延長戦の末6-5で競り勝ち首位巨人が広島に逆転負けを喫したため再びゲーム差が「2」に縮まった。井上広大(23)の3ランなどで3回に奪った4点をひっくり返されるも、8回に同点に追いつき、延長10回に佐藤輝明(25)が特大の勝ち越しの15号ソロを放ち、その裏を岡留英貴(24)が3人で抑えてプロ初セーブを手にした。今日22日、明日23日と甲子園で、いよいよ巨人との最後の直接対決の2連戦だ。

 佐藤が苦手な内角ストレートを仕留めた「完璧な一発」

 右手に持ったバットを高々と横浜の空に突きあげた。ライトスタンドの上段へ消えていった特大の15号を佐藤は、確信を持ってその場で見届けた。
「完璧な一発が出たと思います」
 ダイヤモンドを回りながら大騒ぎの虎党に向かって右手をあげた。
「良い風が吹いていたんでね。1発を狙っていきました」
 5-5で迎えた延長10回一死走者なし。レフトからライトへ吹く強いハマカゼを感じていた佐藤は、つなぐのではなくホームランを狙っていたことを明かした。
 カウント2-1からウェンデルケンが内角へ投じた149キロのストレート。本来、佐藤の不得意とされるゾーン。だが、その前の8回の打席でも佐藤はウィックが内角高めに投じたストレートをライト線へ弾き返していた。
「その前の(ヒットを打つまでの)打席までは、全然、やったけどな。ゲッツーで流れが変わったと思ったよ。その前にちゃんと打っとったら(延長に入らず)もっと早く終わっとるよ」
 試合後に岡田監督は、正直にそう明かしたが、5回一死一、三塁で、外野フライを打っていれば、5-0となっていたところで佐藤は、最悪の「4-6-3」の併殺打。しかも、岡田監督の予想通りにその裏に5点を奪われて逆転を許している。
 ただ佐藤には調子もクソもない。それはこの2年間、佐藤と付き合ってきた岡田監督が一番わかっている。佐藤は、突然、豹変するミステリーなスラッガーなのだ。  
 ヒーローインタビューで内角ストレートを仕留めたことを聞かれて「ちょっと内容を忘れたんですけど、ホームランになって良かったです」と返していた。
 佐藤自身が、豹変の理由を理解していないのかもしれないが、この日、阪神打線は、先発左腕の濵口のチェンジアップを封じるため、全員が目付を高くし低めのボールを見極めることを徹底していた。3回には「6番・レフト」でスタメン抜擢した井上の3ランなどで4点をリードした。投手が交代しても、その意識が試合を通じて佐藤に残り、速いボールを打ち損じることなく衝撃の一発を生み出すことにつながったのかもしれない。
 岡田監督の温情が裏目にでかけた。
 先発の青柳は、審判が異常なまでに低めに甘かったことにも助けられ、宮崎を外してまで、左打者を7人並べてきた横浜DeNA打線に対して、走者を出しながらも4回まで無失点に抑えていた。だが勝利権利のかかった5回につかまった。
 森、代打林に続けて逆方向のレフト線へ二塁打を浴びて1点を失った。
「アウトコースばっかり投げるからやんか。何十回言うてんの。次また外やろ林に。なんでインコース投げへんねん」
 岡田監督はそうぼやいていたが、まだ3点差もあって続投させた。梶原、牧を打ち取り二死三塁となった。左打者の佐野を迎えたところで岡田監督の脳裏を左腕島本へのスイッチがよぎったが、あとアウトひとつで勝利投手。
「やっぱり佐野のところやな。温情が重なったな。佐野のところで(島本を)行っとったら代打(宮崎は)けえへんから。しゃあないわ。大体フォアボール絡んだら点になる。そういうとこやんか」

 

 

 岡田監督は、実は、情の人だが「温情」という言葉は大嫌いだ。「采配に情などない」と公言して、これまで「温情」という言葉を使ったことがなかった。
 よほどその采配に悔いが残ったのだろう。
 青柳は警戒しすぎて1球もストライクが入らず佐野に四球を与えた。続く“阪神の天敵”オースティンは、ここまでの2打席を完璧に抑えていた。しかし、ボールが2つ先行した後にストライクゾーンに入れたスライダーをレフト前へ引っ張られた。岡田監督は、ここで島本に替えたが、一手遅れ、代打の宮崎に逆転の3ランを許してしまう。岡田監督は「代打宮崎がくるぞ」と予想していたが、温情采配で狂った歯車を止めることできなかった。
 しかし巨人が広島に逆転負けを喫したという一報が阪神打線に火をつける。ちょうど1点を追う阪神の8回の攻撃前のタイミングで、マツダスタジアムで3点をリードしていた巨人が、4-5で逆転負けしていた。
 横浜DeNAの4番手ウィックから大山、佐藤が連打。途中出場の前日4打数4安打の前川が四球を選び無死満塁とプレッシャーをかけてミスを誘う。
 代打渡邉の打席で横浜DeNAは二遊間には併殺を狙わせる同点やむなしの中間守備隊形をとった。しかし渡邉の二塁を襲った打球が、強烈だったため、牧は本塁が間に合うと判断してバックホームした。試合後、三浦監督も「あの判断は間違っていない」と支持した。だが、ホームゲッツーを狙いステップを踏まず慌てて投げた送球が大きく一塁側へそれた。大山が同点ホームを踏んだ。もしストライク送球であれば、4-2-3の併殺打だっただろう。さらに無死満塁と続くチャンスに木浪が4-2-3と渡る併殺打に倒れ、代打梅野も粘りながら右飛に倒れた。
 ビジターゲームで勝ち越せなければ後手を踏む。嫌な空気を変えたのが、鉄壁のブルペン陣だった。8回のゲラ、そして記念すべき通算500試合登板となった9回の岩崎が完璧だった。一人の走者も出さず佐藤の決勝アーチへの舞台を整えたのである。その裏、ブルペンには岡留、浜地、冨田、ビーズリーの4人が残っていた。3番の佐野から始まる10回裏を岡田監督は岡留に任せた。
 左腕の富田に佐野と対戦させ、オースティン、宮崎と続くところで岡留に交替する「一人一殺」の継投も考えたという。しかし、老練な“知将”の勝負勘は「そんなんやっててまた塁に(走者を)出してな。(他の中継ぎに)負担がかかるから最初からいけと。もう(左の佐野に打たれても)構わへんからそんなもん別に」と、セーブ経験のない3年目の変則右腕にクローザーを託すことを選択させた。

 

 

 岡留は、佐野を左飛に打ち取り、阪神戦では7本塁打を浴びているオースティンには徹底して低めにボールを集め、最後は外角スライダーで空振りの三振。そして逆転の3ランで調子に乗っている宮崎も内角をストレートで攻めた後に外角スライダーで三塁ゴロに打ち取り、プロ初セーブである。岡田監督は、しびれる局面で、また一人若い投手に貴重な自信を植え付けた。
 岡田監督は、試合前のバッテリーミーティングで「先頭打者をとにかく抑えろ」と厳命した。
「それだけ言うた。昨日も8回のうち5回が先頭打者や。今日でもそうやろ。2ストライクからな。変に外にストライク。ボールを投げとったらええのに」
 5回に青柳が先頭の森に打たれた二塁打、6回に桐敷が伊藤に打たれた中前打、7回に石井が牧に打たれた中前打。3度あった先頭打者出塁は、いずれも0-2と追い込んでから。残り7試合。小さな隙が命取りになることを知っている岡田監督は、チームの問題点を引き締めることを忘れていなかった。
 今日22日から巨人との最後の2連戦を甲子園で戦う。巨人が広島に逆転負けしたため2ゲーム差で大一番を迎えることができる。
「途中で(広島が)逆転したとかそんなこと言うてたから余計にやろうな」
 連勝しても引き分け数の差で首位には並べないが、ゲーム差は無しとなり、勝ち数ではひとつ上回ることになる。
「2試合するんや。向こうも勝つ気なんやから。両方(のチームが)勝たれへんねんから。どっちかに勝敗つく。見とったらええやん」
 大阪への移動用のワイシャツとズボンに着替えて、テントの中で立ったまま記者の“囲み取材に応じた岡田監督は、そう不敵に笑った。
 巨人の他球団との試合は、コントロールできないことではあるが、2ゲーム差で追いかけるところまで、チームを作りあげてきた自負がある。この言葉は、その自信の裏返しだ。ミラクル逆転連覇の行方を決める“2番勝負”の第1戦の先発に送り込むのは、エースの才木、対する巨人は、ハーラートップ14勝の菅野。1点を争う投手戦が予想される。
 ヒーローの佐藤がファンにこう呼びかけた。
「皆さんと同じで僕たちも誰1人あきらめていないんで。最後までご声援をよろしくお願いします」
 ミスを犯した方が負ける。より集中力のあるチーム、すなわち、より優勝への思いの強いチームに甲子園の勝利の女神は笑いかけるだろう。
(文責・RONSPO編集部)

ジャンルで探す