何が阪神と広島の明暗を分けたのか…岡田監督の嫌がることのできなかった“新井カープ”が犯したミス…トラは首位巨人に2ゲーム差で広島は泥沼6連敗

 阪神が14日、甲子園の広島戦で4-3のサヨナラ勝ちを収めた。先発の才木浩人(25)が先に3点を失ったが7回に四死球を絡めて代打原口文仁(32)のタイムリーで3-3の同点に追いつき、9回二死二、三塁から中野拓夢(28)がセンター前へサヨナラヒットを放った。首位の巨人がヤクルトに1-4で連敗したために2位の阪神とのゲーム差が「2」に縮まった。一方の広島は泥沼の6連敗。何が両チームの明暗を分けたのか。

 森から島内への交代機の明暗

 岡田監督の試合後の談話がすべてを物語っていた。
「今日はちょっと勝たせてもらったような展開だけど、ここはもう勝ち負けなんで」
 勝負の鉄則を守った阪神と守れなかった広島。勝敗のポイントはそこだ。
 7回だった。新井監督は、6回まで阪神打線を3安打無失点に抑えていた左腕の森に代打を送り、その裏から島内への継投策に入った。
 岡田監督は「ピッチャーを代えてくれたんでね。それでチャンスあったかもわからない」と、その継投に内心ニヤついた。
 森はまだ86球。チェンジアップを効果的に織り込んで強気に攻めてくる左腕のピッチングに阪神打線は手を焼いていた。9月に入って広島の中継ぎ陣には明らかに疲弊が見られ、しかも中継ぎの切り札のハーンが婚約者の出産に立ち会うために一時帰国、ブルペンの陣容が1枚足りなかった。
 “名将”野村克也氏は「相手の嫌がることをせよ」を采配の鉄則として「野村の教え」に綴ったが、新井監督はその鉄則に反した。
 先頭の森下が右肘への死球で出塁した。大事に至らなかったのが幸いの前日の死球に続く厳しい内角攻め。続く大山はボール球に手を出して投ゴロに倒れたが、島内の二塁への送球がそれた。名手の菊池が、前のめりに転びながら、なんとか二塁だけはアウトにしたが大山が一塁に残った。記録に残らない広島のミスで併殺を逃れた。岡田監督はベンチで笑っていた。
 続く佐藤が高めに浮いた島内の失投を引っ張ってつなぎ、代打前川が厳しいボールを見極めて四球を選んだ。島内は制球に苦労していた。
「四死球は得点に絡む」ーー。これもまた勝負の鉄則である。
 一死満塁で梅野を迎えたところで新井監督は、島内から左腕の森浦にスイッチした。各社の報道によると、試合後、新井監督が「私の継投ミス。ワンテンポ遅れた」と、森浦の投入は前川の所だったと悔やんだ場面だ。
 梅野は2球で追い込まれたが、執念の粘りを見せる。2-2から外角への手を出してもおかしくなかった難しいボールを見送り、フルカウントから勝負球のストレートをファウルで粘った。そして外角低めのストレートを見極めて押し出しの四球を選んだのである。この試合の“隠れMVP”だろう。
 9回のサヨナラの場面も一死から木浪が四球を選び、代打小野寺の死球で得点圏へ走者を進めたもの。この日、阪神が選んだ四死球は6個。実はチームの今季の四死球数は「317」で、2年続けてリーグ最多の数字をマークしている。
 阪神打線は昨季の“アレ”につなげた「ボールを見極める力」を、この重要な8、9月の戦いの中でしっかりと取り戻している。
 岡田監督は9月に入って「打線をつなぐ」という言葉をよく使うようになったが、そこには、四球というキーワードが見え隠れしているのだ。

 

 

 さらに一死満塁から満塁打率.571を誇る木浪のセンターへ抜けかけたゴロは菊池の決死のダイビングキャッチで止められた。万事休すーの併殺に終わる大ピンチだったが、そのグラブトスを二塁ベースカバーに入った矢野が併殺を焦ってつかみそこねてボールがグラブからこぼれたのだ。佐藤が生還してオールセーフ。
 矢野は、前日も同じようなセカンドのカバーで捕球ミスを犯していた。新井監督は、黒原をイニング跨ぎさせるためのダブルスイッチもあって、8回に矢野をベンチへ下げた。
 セ・リーグでタイトル獲得経験のある評論家の1人は、「矢野のミスの原因はハンドリングではなく足が動いていないこと。全力プレーを続けてきた矢野は、ここにきて疲労が下半身に見える。優勝争いのプレッシャーもあるだろう。矢野のプレーが象徴だが、中継ぎも含めて、チーム全体を襲っている疲弊が、広島の9月の急落の原因だと思う」と分析した。
 広島は6連敗で9月に入って2勝10敗。優勝戦線から脱落しかけている。
 そして1点差に詰め寄り岡田監督が「昨日の最後にも使おうと考えていた。原口で行くことは決めていた」と語る、14試合ぶり出場の“とっておき”の代打原口がレフト前へ同点タイムリー。
 この回に一気にゲームをひっくり返すことはできなかったが、もう流れは阪神に傾いていた。広島の自滅とも言えるが、阪神が自滅が誘ったとも言える。
 岡田監督は、広島打線の巡りを考えて8回岩崎、9回ゲラの並びで継投リレーした。2人は走者を出しながらも無失点に抑えてサヨナラのお膳立てをした。7回を締めた冨田も含めて中継ぎの安定が虎の強みである。
「そらピンチもあるけど、とにかく0点に抑えることが、この時期は一番。粘り強く投げた」と岡田監督も言う。
 9回二死二、三塁から中野がキャリア2度目となるサヨナラヒットをセンター前へ弾き返し、歓喜のウォーターシャワーでびしょ濡れとなった。
「自分にプレッシャーをかければ必ず良い結果が出ると思っていたのでしっかりと自分にプレッシャーをかけた。ランナーが三塁にいたので、ヒットで良いという気持ちで楽に打つことができたので、その分、良い結果につながった」
 1人乗り遅れていた中野が、ここ5試合で、打率.381と急上昇。8月の月間MVPを獲得した近本との1、2番コンビが機能し始めたのも、阪神のラストスパートに向けての好材料である。

 

 

 お立ち台で中野はこう続けた。
「今日は去年優勝を決めた日でもあるので、なんとしても負けられないという試合だったので勝ててよかった」
 昨年9月14日の甲子園での巨人戦で阪神は18年ぶりのリーグ優勝を果たして岡田監督が宙に舞った。連覇を狙った今年は大混戦。だがこれは岡田監督が開幕前から想定していた展開である。
 ナイターゲームで巨人がヤクルトに連敗したことで、ついに首位巨人とのゲーム差は「2」に縮まった。今日15日の甲子園でのヤクルト戦に阪神が勝ち、東京ドームで巨人が中日に敗れればゲーム差が「1」となり、消滅していた自力Vが復活する。9月に入って阪神は8勝3敗で巨人は6勝5敗。勢いは明らかに虎にある。
 残り12試合。ひとつも負けられないゲームが続くが、22、23日の甲子園での最後のTG戦が、優勝の行方を決する天王山となるのかもしれない。
 それでも岡田監督は「ちょっとふがいない。あそここはバッテリーミス」と、6回二死三塁から、小園への初球に不用意な外角高めのストレートから入って三遊間にタイムリーを打たれた才木―梅野のバッテリーに苦言を呈した。今季口を酸っぱくして注意してきた「初球の入りのミス」をまだ修正できていないバッテリーに“お灸”をすえた。それもここからの12試合がそういう記録に残らないミスが命取りになることを熟知している智将だからこその“怒り”である。
 一方で「反省しないといけない点はいっぱいあるけど、そういうのをなくしていければもうちょっと楽にいける」との手応えもある。
 牙を磨きあげた阪神が勝負の9月に「最強」となってきた。

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