横浜DeNAに連敗した悩める阪神に観客席から「バカたれ!」のヤジ…遠のく広島&巨人の背中と迫る横浜DeNAの影…奇跡の逆転Vの可能性は残っているのか?

 阪神が28日、横浜スタジアムでの横浜DeNA戦に2-3で敗れて連敗した。昨季の“MVP”村上頌樹(26)が痛恨の9敗目。5番に抜擢された井上広大(23)の記念すべきプロ1号も実らなかった。ゲーム差無しで争う1位の広島、2位の巨人がそれぞれ勝ったためゲーム差は「5」に広がり、4位の横浜DeNAには「1.5」と詰め寄られた。残り24試合。奇跡の逆転Vへ向けて極めて厳しい状況に追い込まれた。

 「オレ一人カリカリ怒っているだけやんか。何もないわ」

 岡田監督はハマスタでの定番の囲み取材場所に足を向けずにスタスタと移動バスへと歩き始めた。報道陣が追いすがる。筆者はついていかなかったが、聞かれた質問には、ポツポツと真摯に答えたという。
「オレ一人カリカリ怒っているだけやんか。何もないわ」
 その一言に敗戦のすべてが集約されていた。
 村上の「ハマスタ不敗神話」が崩れた。昨年から横浜スタジアムでは4試合に登板して、勝ち星は1勝のみだが、防御率は1.98で負けなしだった。データ的には2点以内に抑えるはずだった。
 2-2で迎えた6回だった。序盤はストレートを軸に組み立て、中盤はそこに変化球を交えて緩急をつけた。配球の変化で4回には三者連続三振。山本には65キロの“天井カーブ”でストライクも取った。5回も三者凡退。リズムに乗りつつあった。
 だが、6回一死から3回にも勝ち越しのタイムリー二塁打を浴びていたオースティンに逆方向のライトポール際に手痛い勝ち越しの22号を打たれた。初球は坂本がアウトローに構えていたがインハイにストレートが抜けた。2球目も坂本は同じくアウトローに構えていた。コントールミスでアウトコースの高めの浮いた149キロのストレートを契約最終年で、日本球界での生き残りアピールに必死のオースティンは見逃してくれなかった。
「真っ直ぐ(の選択は)はない」
 岡田監督はそう苦言を呈した。
 走者はいない。一発だけに気をつけなければならない場面。坂本は、初球の抜けたストレートを受けてその球の選択にコントロールミスが起こる可能性が高いことを察知しておかねばならなかった。アウトコースのボールゾーンの変化球を軸に攻めるべきでバッテリーは細心の注意に欠いた。
 前日も石井が林と筒香にストレート勝負を仕掛けて痛い目にあった。試合前に岡田監督は、外野で石井と桐敷と話をしていた。おそらく配球についての考え方を伝えたのだろう。今季は力勝負に執着する配球ミスによる失点で競り合いを落とすケースが目立つ。坂本を2軍落としたのも、配球のパターンが読まれていることが原因だった。その悩める配球問題は、未だに解決せず、横浜DeNAのエース東との投手戦の明暗を分けることになった。
 3回には一死一塁から今季2個しか盗塁を成功していない蝦名に盗塁を許した。得点圏に進み、佐野の同点タイムリー二塁打につなげられている。昨日も2つの盗塁を献上した。今季の横浜DeNAはリーグトップタイの53盗塁をマークするなど走塁に力を入れている。警戒してしかるべきだが、いずれも送球はクロスプレーにもならなかった。バッテリーには細心の警戒心が欠けていた。
 打線は立ち上がりに予期せぬチャンスを手にした。二死から森下のセンターへの飛球が、薄暮の照明と重なり、蝦名が完全に見失い、佐野もカバーできずに二塁打となった。佐藤に代わり4番に復帰した大山がライト前タイムリーで先制点を奪い、さらに井上の三塁線の打球の処理を宮崎が誤り、これも二塁打となって、二、三塁とチャンスを広げて難攻不落の東を攻略しかけた。
 だが、続く佐藤がボールの変化球を振って三振でブレーキ。2回には、宮崎の強烈なゴロをさばいたところまではよかったが、送球が大きく上にそれて今季20個目のエラー。観客席からは「バカたれ!」という叱責の声が飛んでいた。
 佐藤は、この日は、4打数2三振でいいところは何もなかった。8月に入ってから力みの消えたバッティングに開眼。打率が急上昇していたが、ここ4試合でヒットは、わずか1本。またボール球に手を出し始めた。岡田監督は、4番を外した理由を「ずって打ってへんからや」との嘆き節で説明していた。

 

 2回にも、村上、近本の連打でチャンスを作ったが、中野が三振。ただここまで東に42球を投げさせた。攻略の糸口をつかみかけてはいたが、その後立ち直りを許した。6回一死から井上が外角高めのストレートをドンピシャのタイミングで引っ張って、同点のプロ1号をマーク。
 オースティンの一発で勝ち越された7回には一死から代打小野寺、近本の連打で、一、二塁の反撃機を作った。しかし、ここでも、また中野、森下が凡退。シンカーへの意識が頭から離れない。東には7回まで投げ切られた。
 復調してきた近本に中野がまだ歩調を合わせることができない。打率も.228と上がってこない。逆方向を意識し過ぎてバットが最短距離で出なくなっている。
 1、2番の出塁率という“虎の牙”が隠れたままだ。
 ウェンデルケン、森原にリレーされた8回、9回は、1人も走者を出せないままゲームセット。森原は不安要素を抱えた“ガラス”のストッパーだが、岡田監督が、繰り出した糸原、島田、渡邉の3人の代打陣は何もできなかった。
 巨人OBで西武、ヤクルトでは日本一監督となっている球界大御所の広岡達朗氏は「今の阪神は岡田の思いだけが空回りして、選手から“勝つんだ!”という気概のようなものが伝わってこない」というコメントを発信していた。誰一人あきらめている選手はいないが、こういう終わり方をするとファンの目にもそう映ってしまう。
 ゲーム差無しで争う広島と巨人がそれぞれ接戦をモノにしたため阪神とのゲーム差は「5」に広がった。岡田監督が、30日からの巨人戦を前に逆転優勝するための「最低ライン」として設定していたゲーム差「3」はクリアできなくなり、3つ巴だった優勝争いが、広島と巨人のマッチレースに変わりつつある。
 「勝ち切る覚悟」というスローガンを決めた4位の横浜DeNAとのゲーム差は「1.5」。もう戦いをCS出場権争いにシフトしなければならなくなってきた。横浜DeNAとの残り試合が最も多く7試合もある。
 もう奇跡の逆転Vは不可能なのか。優勝ラインを低く見積もって78勝としても残り24試合を20勝4敗という驚異的なペースで消化しなければならない。
 31試合を残している広島は18勝13敗でいい。巨人は残り27試合を16勝11敗のペースとなる。そうシュミレーションすると現実は厳しいが、残り24試合のうち本拠地の甲子園で15試合を戦えることは大きなアドバンテージだ。あくまでも他力本願になるが、9月の大失速は「プロ野球あるある」でもある。
 ここまで広島は大瀬良、森下、床田の3本柱が安定しているが、中継ぎも含めて、いつその投手陣がへばってもおかしくない。巨人も今季は6月に6連敗を経験している。投打の歯車が狂えば、大型連敗を喫する可能性がないわけではない。
 しかし、その前に阪神は連勝の可能なチーム状態に緊急整備しなければならない。ミスの撲滅と打線の奮起。すべては紙一重の作業である。そこを埋めるのは、全員の集中力と考える力。岡田監督一人だけを空回りさせてはならない。

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