阪神のヤクルト連勝の裏に何があったのか…岡田監督が仕掛けた“戦略的四球”と前川右京の超美技&決勝犠飛…巨人追撃のカギとなる9月防御率1点台の投手陣

 阪神が16日、甲子園でのヤクルト戦に3-0で勝って連勝、貯金を今季最多の「11」に増やした。先発の大竹耕太郎(29)が6回を無失点に抑えて2年連続の2桁勝利となる10勝目をマークし、桐敷拓馬(25)、今季初の3連投となったハビー・ゲラ(28)、岩崎優(33)の完封リレーでつないだ。1回二死満塁のピンチにレフト前川右京(21)の超ファインプレーも飛び出して守り勝った。首位の巨人が中日に7-1で快勝して2ゲーム差は縮まらなかったが、谷間のない先発陣と強固な中継ぎ陣は、巨人を残り10試合となった“最後の直線”で追い抜くためのストロングポイントだ。

 「前川のプレーが大きかった」

 「前川のプレーが大きかった」
 試合後のテレビインタビューで岡田監督が真っ先に口にしたスーパープレーがすべてだった。
 雨天中止で中10日の間隔が空いた影響からか、初回の立ち上がりに力んだ大竹は、2つの四球を与えて二死満塁の大ピンチを背負い、増田のレフトを襲った大飛球が浜風に乗った。
「捕れていなかったら絶対に3点が入っていた」
 大竹でさえ大量失点を覚悟した打球をなんと背走した前川がフェンスに激突しながらスーパーキャッチ。グラブの先から飛び出しそうになったボールを必死に抑え込んで誇らしげに掲げた。
「嬉しかった。ちょっと大竹さんの時に迷惑をかけていたりしてたんで、ほんと捕りたかったので捕れてよかった」
 そう明かす前川と並んでお立ち台に立った大竹は、前川に何かお礼のプレゼントを贈りたいと約束した。
 岡田監督は、間一髪のビッグプレーは、前川が右手にグラブを持つ「左利き」のレフトだから切れていく打球にうまくタイミングを合わせられたと分析した。
 昨秋のキャンプで、連覇のためのプラスアルファの戦力として前川を指名した岡田監督は、守備位置について悩んでいた。打球処理と送球を考えると、左利きの外野手のベストポジションは、やはりライト。だが、前川は肩に故障歴がありスローイングに問題が残る。熟考の末に岡田監督は、レフト森下、ライト前川という布陣を採用しなかった。その指揮官の決断が、結果的に、この大事な9月の優勝争いの中でスーパープレーとして実を結んだのである。
 阪神に守り勝つ野球が戻ってきた。
 3回には一死一塁から村上の二塁へのゴロが大きくバウンドするイレギュラーとなったが、中野が素早く反応してジャンプして好捕。一塁走者を二塁で封殺した。相次ぐ好プレーに救われた大竹も力みが消え得意の緩急を使えるようになってきた。
 0-0の展開の中で阪神にもミスが出ていた。3回に大竹、近本の連打で作った無死一、二塁のチャンスに中野がバントに失敗、ヒッティングに切り替えたが、レフトフライに倒れて送ることができず、森下、大山も凡退した。さらに5回には無死一塁から大竹が送りバントを失敗した。
 その嫌なムードを断ち切ったのも前川だった。
 6回に“ライアン”小川から森下、大山が連打を奪い、代わった左腕の田口から佐藤もショート強襲のヒットで続き、無死満塁で、岡田監督は、左対左となる前川をそのまま打席に立たせた。
「全然代えるつもりもなかった。今日は初回から前川のゲームかなと思った。何とかしてくれると思っていた」
 岡田監督ならではの勝負勘。前川は2球目の真ん中高めに浮いた144キロのストレートを見逃さない。センターへの先制犠飛。さらに二死満塁から代打渡邉の打席で木澤の外角へのツーシームを中村が捕球できず後方へ逸らすというヤクルトのバッテリーミスにも助けられて2点目が入った。7回には一死二塁から「センターへ打て」と岡田監督から助言を受けていた森下が、貴重な3点目を中前タイムリーで叩きだした。

 

 

 岡田監督は、左打者が続く7回に桐敷、8回には、今季初どころか米国時代を通じて初という3連投をゲラに命じて、その新外国人は村上、オスナ、代打宮本を三者凡退に打ち取った。ゲラは「過去にも経験がなくて、人生初の3連投だったんですが、自分でそれが成し遂げられたことが嬉しい。ひとつの自信になるし何よりもチームが勝てたことが嬉しい」と自信を深めた。
 そして9回は岩崎の必勝パターンで完封リレー。
 岡田監督は「(先発が)6回までいってくれると(中継ぎが)1人休める展開にもなるし、こないだの富田とか他のピッチャーも凄く良い仕事をしているんで、何とか6回、7回ぐらいで追い越しとけばというのはある。リリーフ陣の頑張りが凄くある」と鉄壁の中継ぎ陣を賞賛した。
 この2試合でサンタナ、村上、オスナのヤクルトの危険なクリーンナップに1本のヒットも許さなかった。特に首位打者のサンタナを「一発より四球」の“戦略的な四球”で封じこめたことが大きい。前日のゲームでは、8回二死二塁のピンチでサンタナ、村上と続く場面で、桐敷―梅野のバッテリーに「2人でひとつのアウトでいい」と指示。カウントが悪くなるとサンタナと無理に勝負はせずに歩かせて村上をセンターフライに打ち取った。この日も大竹は、サンタナに3つの四球を与えたが、制球ミスではなく「一発を回避した」“戦略的な四球”だった。
 5回には二死からサンタナ、村上に連続四球を与えたが、オスナを完全にタイミングを外したチェンジアップで空振りの三振に打ち取り得点は許さなかった。
 岡田監督は、バッテリーに「頭を使った配球」を口うるさく説いてきた。初球の入りで痛い目にあったという反省もあるが、前試合、前打席からのつながりや、打線の並び、ゲームの流れなど、対戦を点ではなく線で考え、そして最終的に「得点を与えなければいい」との配球術である。
 キャンプに出遅れた大竹だが、2年連続の2桁勝利となる10勝をマークして3点台だった防御率も2点台に下がった。阪神は9月に入って10勝3敗とチーム状態は急上昇しているが、10勝のうち9勝に先発に勝ち星がついている。
 12勝3敗、防御率1.69のエース才木を軸に、高橋(2勝)、村上、大竹(2勝)、ビーズリー(2勝)、西勇、青柳の7人である。とにかく先発に谷間がない。巨人のように菅野や戸郷を中4日登板させるような無理もせず、しかも、11試合連続無失点中の桐敷、石井、ゲラ、岩崎の勝利方程式は鉄壁で、9月のチーム防御率は、リーグに唯一の1点台である。

 

 

 阪神OBの1人は「投手力の差がここからの巨人とのデッドヒートの優勝争いのカギを握るのはないか?」との見方をしている。
「勝負モードに切り替えた巨人は、すでに戸郷、菅野を中4日で回すなど先発に無理をさせている。山崎伊がファームに落ち、中継ぎに回っていた赤星が先発するなど先発に余裕がない。一方の阪神は最後までローテーを守ることができるほど十分な布陣をキープできている。中継ぎ、抑えを比べても、抑えの大勢は安定しているが、中継ぎは阪神の方が上。阪神が残り10試合、巨人が残り12試合。巨人が有利であることは確かだが、ラストスパートの明暗を分けるのは、意外と打線の勢いではなく、この投手力の違いの部分かもしれない」
 阪神は18日にバンテリンでの中日戦、20、21日にハマスタでの横浜DeNA戦を経て、22、23日に甲子園で巨人との直接対決を迎える。
 岡田監督が言う。
「ちょっと間隔が空いたりするけど、目の前の試合をとにかく勝っていくだけ」
 その1勝、1勝の積み重ねの先にミラクルが待っている。

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