なぜ阪神は横浜DeNAエース東の「32試合連続QS神話」をストップできたのか…連続バスターの岡田マジックと“初球打ち”駆け引き

 阪神が10日、甲子園で横浜DeNAに7-2で快勝し、4位の横浜DeNAとのゲーム差を3に広げ、首位の巨人を2.5でピタリと追尾した。先発の東克樹(28)は32試合連続のQSを続けていた8月の月間MVP獲得の難敵だったが、セーフティースクイズに2者連続のバスターなどの“岡田マジック”を駆使し、森下翔太(24)の14号決勝ソロなどで攻略。6回途中までに4得点を奪い記録をストップさせた。奇跡の逆転Vへ。チームが機能し始めてきた。

 森下が決勝14号&レーザービーム

 

 “無双”のサウスポー東の攻略は横浜DeNAの「記録に残らないミス」から始まった。2回に先頭の大山の詰まった打球はライト前を襲ったが、神里がスライディングキャッチを試みなかったため、グラブに当てながらもキャッチすることができず二塁打になった。捕ればファインプレー。だが、打球処理のドタバタで二塁打にした隙を阪神は逃さない。
 続く佐藤の初球のスライダーを狙い打ちした二ゴロが進塁打となった。「6番・レフト」で起用されていた井上のライトを襲う打球を神里が、今度はスライディングキャッチで好捕した。その捕球体勢を考えると、タッチアップを仕掛けても面白かったが、三塁走者の大山はスタートを自重した。序盤の流れを奪い合う重要な局面で、梅野はこう考えていたという。
「狙い球を絞って初球を必ず打とうと思って集中していた」
 外の変化球を捉えた打球は、左中間を真っ二つ。先制の二塁打となった。実は、ここまで1、2回で19球を投じた東は2球しかストレートを使っていなかった。
 阪神をマークする評論家の1人は「積極的な打撃姿勢にベンチの攻略の意図が見えた」という。
「ストレートを消せるのであれば、変化球はスライダー、チェンジアップ、ツーシーム、カットの4種類しかない。これは右打者であれば、球種ではなく外か内かで狙い球を絞れる。梅野のコメントが明かすように打者の狙いが明確だった」
 続く3回も、得点にはつながらず凡退はしたが、近本、森下がそれぞれ初球を狙い打ちしていた。
 2-2の同点で迎えた5回には一死から森下がカウント2-2で外のボールゾーンからストライクゾーンに入ってくるスライダーを「凄く変化球がバットにのった感覚」でレフトスタンドへ勝ち越しの14号ソロ。3回に初球を狙って、打ち取られたスライダー系の球種を頭に置いて配球を読んでいたという。
 インサイドワークの駆け引きで東を攻略したのだ。
 そしてその東のリズムを狂わせたのが、岡田監督の仕掛けだった。1点を追う4回一死一、三塁で青柳に初球にセーフティースクイズのサイン。青柳は冷静にボールを転がした。打球を処理した東のグラブトスでホームはクロスプレーとなったが、井上の“神の左手”が先にホームベースを触っていた。三浦監督がリクエストを求めたが判定は覆らなかった。東の初動も内野の動きもまったくの無警戒だった。
「久しぶりじゃないですか。成功したのは」
 岡田監督が、そう振り返ったが、相手の隙を突く作戦は一発で決めなければ意味がない。今季の阪神はなかなかそれが決まらず“岡田マジック”が空回りすることが少なくなかったが、勝負の9月に入ってやっとチームに集中力が生まれてきたのだ。
 こうなると百戦錬磨の岡田采配の本領発揮である。

 

 

 3-2で迎えた6回にはなんと連続バスターの奇策に打って出た。先頭の梅野が、また配球を絞った“初球打ち”で出塁。続く木浪がバントを2球失敗して2-2と追い込まれると、岡田監督は、サインをバスターに切り替えた。木浪がボールをしっかりと上から叩いてライト前へ。無死一、二塁となると、岡田監督は、それこそ「100%バント」の場面で、守備から途中出場の島田にも2球目にバスターのサインを出した。島田は、逆方向に打球を叩きつけ、バントシフトでセカンドのカバーに動こうとしていた京田の逆をついて三遊間を破った。
 そして満塁となって近本vs東の8月の月間MVP対決である。
 近本は2球目の甘く入ってきたスライダーを見逃さない。強烈な打球は、前進守備を取っていた横浜DeNAの一、二塁間を抜けていった。
 三浦監督が自らマウンドまで行き交代を告げる。今季12勝2敗で防御率1.74の東がノックアウトである。代わった中川も中野の投手強襲のゴロをグラブを伸ばして捕ろうとして弾き、さらに1失点。これも東の自責点となり、昨年から、32試合連続で6回、自責点3以内のクオリティースタートを続けてきたハマのエースの神話をストップさせた。
 岡田監督が言う。
「ここまできたら相手が何勝しているピッチャーとか、そんなの関係ない。(東も今季)3回投げて、みんなも分かっている。大事なゲームというのも分かっている。ここまでヒットが続くとは思わなかったけど、なんとか後ろにつなぐという意識が良かったんじゃないか」
 3点差としたが強力な横浜DeNA打線を考えると、まだセーフティーリードではなかった。その反撃ムードを断ち切ったのが森下のビッグプレーだった。
 7回からマウンドを任された3番手の石井がオースティン、牧に連打を浴びて無死二、三塁とされたが、宮崎のほぼライトの定位置へ飛んだ打球を森下がホームへワンバウンドでバックホーム。梅野が「あそこまで良いボールが来ると思っていない中での素晴らしい送球」と感動するほどのストライク送球でタッチアップからヘッドスライディングを敢行したオースティンを刺したのだ。

 

 

「フライが上がった瞬間に“ホームに絶対還ってくる”と思ったので、とりあえず大山さんの胸をめがけて全力で放った」
 森下の説明通り、後ろから大きく走り込んで反動をつけた送球でもなかった。カットマンの大山にできるだけ速く正確に返そうと心掛けたクイックスローがそのまま“レーザービーム”となったのである。岡田監督が就任と同時に徹底したのが、外野手のカットマンまでの正確で速い中継プレー。その“究極形”だったのだろう。
 岡田監督も「(あのプレーは)大きかった」と絶賛。
 梅野も「この勝ちは、あのスローで決まったぐらいの流れ。自分自身も感動する位のレベルのみんなの必死な姿がこうやって勝ちにつながるんだなと感じた」と森下を持ち上げた。
 この日は、6度先頭打者を出したが、4度のダブルプレーでピンチを脱した。投打の歯車もうまく回り始めてきた。横浜DeNAとは、まだ6試合を残す。残り15試合でミラクルを起こすためには、横浜DeNAとの戦いが重要なポイントになってくる。  
 その中で相手のエース東を攻略し、“ハマキラー”の青柳に4月19日の中日戦以来となる今季2勝目をつけた意味は大きい。そして甲子園での横浜DeNA、広島、ヤクルトと続く“勝負の7連戦”の初戦を取った。
 森下がお立ち台でファンに約束した。
「やっぱり勝つしかない。甲子園でホームの球場で7連戦できるという強みを前面に出して7連勝したいなと思います」
 今日の先発は今季負けが先行している村上とジャクソンのマッチアップ。負けられない戦いの中で阪神が昨年“アレ”を成し遂げたチームに戻りつつある。

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