【東横ポニー BayWinds】こだわりのキャッチボールと「リアル野球盤練習」


今年7月に発足したばかりの中学硬式野球クラブ「東横ポニー BayWinds」(横浜市港北区)。前回はチーム立ち上げの経緯、指導ポリシーなどを紹介しましたが、後編ではこの日に行われていた練習の様子を紹介します。
人数は6人、練習場所は草刈りをして切り開いた河川敷。どんな練習が行われていたのでしょうか?



【5つのステップで行うキャッチボール】
東横ポニーがキャッチボールを大事にしていることは前回お伝えしましたが、実際にどんなキャッチボールが行われていたのか、詳しく紹介します。

「キャッチボールを見ればそのチームのレベルが大体分かる」という監督の廣川寿さんは、キャッチボールは「投げる」よりも「捕る」ことの方が重要だと言います。
「アメリカではキャッチボールのことを『Play Catch(捕って遊ぶ)』と言って、実は捕ることが主役の練習なんです。どんなに速いボールを投げても相手が捕れなければ意味がありません。『相手が捕り易いボールを投げる』ことが技術の向上にも繋がると思います。
捕る側が上手ければ、投げる方も良い球を投げるようになると思っています。ブルペンキャッチャーが良い音を立てて良いキャッチングをしてくれると投げるピッチャーも気持ちが乗ってくるのと同じ原理です」

投げる方は相手が捕り易いボールを投げ、捕る方はボールをキャッチするときにグローブを流さない。捕球した位置でバシッとグラブを止めて動かさない。
この基本を踏まえたうえで、東横ポニーでは5つのステップでキャッチボールを行っています。



<東横ポニーが実戦しているキャッチボール>
※以下、全て右投げの場合

(ステップ①)両足を平行に開いて投げる。
まずは短い距離でキャッチボールを行います。この時に意識するのは「投げる」時に頭の位置を動かさないこと。頭が縦に動く選手は腹筋が弱いなどの原因で「頭を振って球速を出そうとする」傾向があります。頭を縦に振る選手はコントロールも良くないので注意が必要です。頭が横に動く選手はボールをリリースするときに横回転がかかってしまうので、綺麗なバックスピンのかかったボールが投げられなくなってしまいます。

(ステップ②)足を前後に開いて投げる(体重移動なし)
距離は「ステップ①」よりも長くして、テイクバックのときに後ろ足の膝が前に出ないよう(踵側に体重をのせる)にして、右足の内転筋を絞るように股関節を使って投げる。
これは内転筋の力を上手く使って投げるための練習。身体の中で最も大きな筋肉が大腿四頭筋(だいたいしとうきん/大腿の前面にある筋肉)と大臀筋(だいでんきん/お尻の筋肉)であるため、この筋肉を上手に使えると、ボールに大きな力を伝える事ができる。最近の子はボールをリリースする時に軸足が浮いてしまう子が多いです。リリース時に軸足が浮くと肘を痛める原因になりやすいので、ステップ②の練習はとても重要です。

(ステップ③)足を前後に開いて投げる(体重移動あり)
「ステップ②」の形で投げたあと、しっかりと体重移動を行い、踏み出した足1本でしっかりと立つ。ここで投球後に「左足一本で立てること」はとても重要な意味があります。左右どちらかに体が流れたり、体重移動を受け止められずに膝が崩れてしまうような子は強く腕が振れないので、ボールのスピードも上がりません。

(ステップ④)片足で立って3ステップして投げる。
左足をあげて投球体勢に入ったらその場で3回軽く片足ジャンプ。軸足である右足に十分体重がかかるように「溜め」を作ってから、左足を踏み込んで投球した後に、左足一本立ちの体勢を作る。ジャンプして着地した時に「軸足の付け根で体重を受け止める」という感覚が重要です。膝で受け止めてしまう選手はボールを投げる際に骨盤の旋回速度が上がらないので手投げになってしまったり、膝が前に出ることでインステップスローになる傾向があります。

(ステップ⑤)歩きながら投げる
投げる方向に対して正対して足を揃えて立ち、右、左、右と歩いて投げる。最後の右足は投げる相手に対して90度の角度に入れる。投げたあとは「ステップ④」の左足一本立ちの体勢を作る。これは「軸足の踏み込み角度」を作る練習。右足の角度が不十分だと送球時に左肩の開きが早くなったり、体重移動が不十分になってしまうため。

最後は距離を50メートル程度に伸ばして、ステップ1〜5でやってきたことを意識してキャッチボールを行います。
これをたっぷり50分かけて行っていました。




【選手も楽しみにしている「リアル野球盤練習」】
縦80メートル、横25メートルほどの練習環境。これではさすがにフリーバッティングを行うことはできません。しかし、この環境でも思いっきりバッティングができるメニューを廣川さんが考え出していました。それが「リアル野球盤練習」です。
選手6人が二手に分かれ、そこにコーチが1名ずつ参加して4人対4人、試合形式(7イニング制)で行われます。
5、6メートルの距離からピッチャーが下から投げたボールをバッターが打つのですが、普通のバッティング練習と異なるのは、打っているボールが400グラムのサンドボールであること。ボールが重いため、中学生が思いっきり打っても打球はなかなか飛びません。これならこの限られた環境でも思いっきりバッティング練習を行うことができます。

守る方では、ピッチャーの左右数メートルのところにバッティングネットが置かれており、これをノーバウンドで越えないとバッターはアウトになります(越えればヒット)。ネット後方には野手が配置されていますが打球処理は行いません。野手後方数メートルの位置にはカラーマーカーが置かれ、これを越えればホームランとなります(バッターからの距離は20メートルほど)。ちなみに打球がネットに当たった場合は即チェンジになります。
推奨打撃は「バックスクリーンにホームランのイメージ」(廣川さん)。
ネットに向かって打つティーバッティングではネットの中心をめがけて低い打球を打たざるを得ませんが、「リアル野球盤練習」では左右のフェアゾーンが狭く、おまけに左右のネットにも引っかからないように打たなければならず、必然的にセンターバックスクリーンを狙って打つことになります。またボールが重たいためインパクトの瞬間に力を入れる感覚も養われるというメリットもあります。



「みんなこの練習を楽しみにしています」(廣川さん)というだけあって、選手達も一打一打に喜んだり、悔しがったり、練習というよりもゲームの感覚で大いに盛り上がっていました。
「遊んでいるようにも見える練習ですが、『緩い球を強く打つ』は簡単そうに見えて実は難しいです。『軸足の溜め』『上半身と下半身の捻転』『バットをインサイドアウトで振る』など、全ての要素が揃った時に『緩いボールを強く打つ』ができます。金属バットでバッティンマシンの球を打ち返すのは慣れれば誰でもできます。微妙な緩急差を感じ取りながら強い打球を打つことを、遊びながら学んでもらっています。」

また、廣川さんはこのようにも語ってくれました。
「チーム結成以来、一番成果が出ているのが『打撃』です。足の力を使ったキャッチボールと数種類のティー打撃、それとゲーム感覚で臨めるメニュー。打撃は1つのメソッドで選手を型にはめるのではなく、『型を作る反復練習』『自分の型で打てるタイミングを養う練習』『型を崩された時の対応の練習』など、いろんな練習をすることが大事だと思います。うちはティー打撃だけでも5、6種類やります。選手は『得意な練習』『苦手な練習』それぞれあります。好きなことだけやって喜んでいるのではなく、苦手なことにも逃げずに真剣に取り組んでくれるので成果が出ているのだと思います。」

環境を言い訳にせず、創意工夫で「今できることを真剣に取り組む」東横ポニーの選手達。6人でスタートしたばかりのチームがこれからどんな歩みを見せてくれるのか。注目してみたいと思います。(取材・写真:永松欣也)

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