福士誠治、ロバート・ロス役を演じる韓国発三人ミュージカル『ワイルド・グレイ』の魅力を語る
19世紀末のロンドン。美貌の青年をとりまく快楽と堕落を描き、社会に衝撃を与えた小説『ドリアン・グレイの肖像』を発表したオスカー・ワイルド。そのそばには、友人のロバート・ロスが彼を支え続けている。ある日オスカーは、小説の中のドリアン・グレイにそっくりな青年アルフレッド・ダグラスと出会い……。
2021年に韓国で開幕し2023年に早くも再演された注目の三人ミュージカルが日本初上陸。福士誠治×立石俊樹×後藤大、平間壮一×廣瀬友祐×福山康平という魅力的な三人の俳優がダブルチームで挑む。根本宗子が初のミュージカル演出を手がけるということも話題のこの作品に、ロバート・ロス役で出演する福士誠治に話を聞いた。
望むものが手に入らなかった人たちの物語
――日本初演のミュージカルです。福士さんがこの作品に挑戦してみようと思われたポイントは。
最近、韓国発の作品は勢いがありますよね。僕も『ルードヴィヒ ~Beethoven The Piano~』(22年)という作品で経験しましたが、作り方などにも新しい風を感じ、もう一度、韓国作品に挑戦してみたいなという思いと、三人ミュージカル……少人数でやる作品だというところに魅力を感じました。僕、朗読劇では経験ありますが、三人芝居は初めてなんですよ。
――物語にはどんな印象を抱いていますか? 作家オスカー・ワイルドを中心とした男たちの物語ですが。
粗訳を読んだ感想ですが、オスカー・ワイルドという人の魅力に惹かれた人たち、そして望むものが手に入らなかった人たちの物語だな……と感じています。僕の演じるロスも、ワイルドにもっと近くにいてほしいと心では願っても彼を手に入れることはできない。ダグラスもそう。ワイルド自身も、彼が望む芸術や美はもっと高みにあって、そこまで行き着くことはできなかった気がする。誰もがそんな切なさと孤独を持っているような話です。
――オスカー・ワイルドといえば、耽美、退廃的、といったイメージがありますが、この『ワイルド・グレイ』もそういう側面はありそうでしょうか。
そんな印象はあります。花火のように、短いからこそ儚くまばゆい。……僕の中ではオスカー・ワイルドは“スター”だな、と思います。生きるエネルギーを小説や芸術に集約した人。マイケル・ジャクソンみたいな感じかな? やっていることのすごさというより、その人自身の魅力にどうしようもなく惹かれる、というような。
――では、福士さんが演じるロバート・ロスに関しては、どんな印象を持っていますか?
彼も実在した人物で、もともとはオスカー・ワイルドと恋仲でもあった。でもダグラスという人物が登場し、ワイルドが自分から離れていく瞬間があったと思うんです。それを感じながらも、彼の近くにいることを決めた、というところが、現時点では彼の人物像として大きなポイントになってくるのかなと考えています。彼の愛が自分に向いていない時点で、きっぱり離れてもいいじゃないですか。でもその後も仕事を手伝ったりしてそばにいることを選んだ。秘めた孤独もあるだろうし、自分の思いを我慢しているところもあると思う。でも、流されてその場にいたのではなく、“離れられない自分”を自覚してそこにいるんだろうと僕は思っています。
――面白そうな役ですね。
そう思います。激しい感情ではなく、地味に、静かに、心の中で渦巻く感情を持っている。ダグラスとは違う形の、僕の愛情表現はこれなんだという愛を見つけた……見つけざるを得なかったのかな。ベストではないけれどベター、それ以上を望まなければそばにはいられる、“振られない位置”を選んだ。でも憤りや悲しみはずっと持って生き続けなきゃいけない人だなとは思います。……稽古が始まって「あれ、ロス全然違ったな? 何も考えてないだけだな?」となったらごめんなさい(笑)。
ロスのような“支える”ポジションは好き
――ちなみにこの三人の男たち……ロス、ワイルド、ダグラスの中で、福士さんにロバート・ロス役が来たのは、ご自身では納得ですか?
……かな? 自分はオスカー・ワイルドのような圧倒的なカリスマ性があります!とは言えないし(笑)。ダグラスみたいな情熱的な愛も体現してみたいけれど、まあ、ロスが一番近い気がします。演じる上でもロスのような“支える”というポジションは好きですし、何かを秘めて生きているという役柄は惹かれます。彼のような生き方も、心の中に持っていたい。もちろん、どのキャラクターの要素も少しずつは自分にもあると思いますけれどね。
――共演は、オスカー・ワイルドに立石俊樹さん、アルフレッド・ダグラスに後藤大さん。
立石さんはまだお会いしていないのですが、背が高くカッコよく、儚さもあり、オスカー・ワイルドにぴったりですよね。後藤さんとはドラマの現場でご一緒しましたが、とてもいい子だったので共演が楽しみです。立石さんと後藤さんは11月にも先に共演しているんですよね、僕は仲間外れ……。まず「ご飯に行こう!」とお誘いし、若者たちの胃袋を掴んでから仲良くなろうと思います(笑)。
――とてもドラマチックな物語ですが、かなり史実に沿った話なんですね。福士さんは史実ベースの作品に出演される際、色々な資料にあたって挑むタイプですか? それとも現場主義ですか?
歴史を調べて「これは史実とは違う」などはあまりやらないです。基本は台本。その脚本の世界観の中での嘘もありますしね。ただ、今回だと「19世紀のイギリスでの男性同士の恋愛はどのくらいの罪だったのだろう」といったことは調べると思う。最近はありがたくもそういった作品に携わることも多く、彼らの生き辛さなどはきちんと知っておかないといけないと感じますので。それを現代の感覚に寄せるのか、どこまでリアルを追求するかは根本さんの演出に従いつつ、稽古の中でライン引きをしていく必要があると思います。
――今回の上演はダブルキャスト制ですが、もう一方のチームのことは気になりますか?
正直、まったく気にならないです。稽古も、一緒にやるのか別々なのかまだわかりませんが、別々でやるのなら、根本さんが「お互いに見て」とおっしゃらなければもう一方の稽古を見にいくこともないと思う。演じる人間が違えば、同じ脚本、同じ演出でも、絶対に捉え方は違ってくる。だから気になりません。
――こういう質問をすると「自分が影響されるのが怖いから見ない」とおっしゃる俳優さんもいますが、福士さんは口ぶりから、本当に「気にならないから見ない」というスタンスが伝わってきました。
アハハ! そう言った方がよかったでしょうか、何も考えてないだけなんですよ(笑)。きっと平間さんたちも素敵なチームになるのだろうなと思っていますので、稽古を見たとしても「すっげえ~」と感動するだけだと思います。
自分の人生にも思いを馳せる作品になりそう
――最後に改めて、本作の魅力をお願いします。
演奏が、ピアノとチェロとバイオリンの編成だというのも楽しみ。好きな音になりそうです。物語は、ハッピーエンドではありません。どうしても孤独だし、最後に「違う生き方をすればよかった」「自分の望んだものは何だったんだろう」という気持ちも抱きしめることになる。でも生きていく上で寂しさや苦悩は常にありますよね。特に僕は今41歳ですが、僕らの世代では少しずつ人の死というものが大きくのしかかってくる。そんな自分の人生についても思いを馳せるものがある作品になるんじゃないかなと思うので、ぜひ楽しみにしていてください。
取材・文:平野祥恵 撮影:You Ishii
<公演情報>
ミュージカル『ワイルド・グレイ』
脚本:イ・ジヒョン
音楽:イ・ボムジェ
翻訳:石川樹里
演出・上演台本:根本宗子
訳詞:保科由里子
出演(チーム固定のWキャスト):
ロバート・ロス役:福士誠治
オスカー・ワイルド役:立石俊樹
アルフレッド・ダグラス役:後藤大
ロバート・ロス役:平間壮一
オスカー・ワイルド役:廣瀬友祐
アルフレッド・ダグラス役:福山康平
【東京公演】
2025年1月8日(水)~26日(日)
会場:新国立劇場 小劇場
【愛知(名古屋)公演】
2025年2月8日(土)
会場:ウインクあいち 大ホール
【大阪公演】
2025年2月14日(金)~16日(日)
会場:森ノ宮ピロティホール
【高崎公演】
2025年2月22日(土)
会場:高崎芸術劇場 スタジオシアター
11/15 17:00
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