『日本統一』山口祥行の最新作は『ぴっぱらん!!』。この映画、台詞がなくて楽だなって

25年前に父親を暗殺され、離ればなれになった百鬼三兄弟のそれぞれの生き様を描いたヒューマンバイオレンス映画『ぴっぱらん!!』。任侠ドラマシリーズ『日本統一』で知られる、ネオVシネ四天王のひとり、山口祥行が長男・百鬼峻を演じている。次男・要役で監督の崔哲浩、三男・湊役の福士誠治とのトリプル主演となる。

JAC仕込みの圧倒的なアクションで知られる山口だが、崔監督は「圧倒的なアクションに目が行きがちですが、日本で最も演技がうまい役者だと思っています」と演技を絶賛。本人も「10年くらい前からアクションより芝居をしたいと言ってきた」と冗談めかして話す。当然、周囲はそれを許さない。本作でも自身初の二人での階段落ちの場面が話題を集めている山口に、ニュースクランチがインタビューした。

▲山口祥行【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-INTERVIEW】

映画『ぴっぱらん!!』登場人物で一番謎めいた役

――映画『ぴっぱらん!!』の公開日(11月1日)が迫って来ましたが、現在の心境はどうですか。

山口 : どの映画でもお客さんの反応は気になるんですが、果たして皆さんに楽しんでもらえるのか、ドキドキです。なので、撮影が終わってからは、犬の散歩をしなきゃ、餌をあげなきゃと、作品のことを意識しないようにしています(笑)。犬と過ごす時間はリラックスできるんです。

――ヤクザの三兄弟の固い絆を描いた映画『ぴっぱらん!!』はトリプル主演作です。兄弟役で同じく主演の崔哲浩さんと福士誠治さんは、山口さんから見て、それぞれ、どういう存在ですか。

山口 : 崔はプロデュースしたり、脚本を書いたり、監督したり、僕にはできない仕事がやれる男です。ただ、あいつは相手への思いが強く、仲間の俳優を立てようとし過ぎるところがあるんです。

「せっかく脚本・監督・主演、プロデュースまでするなら、そういった周りへの気遣いは一旦取っ払って、自分がバンバン出るようにやってみれば?」とアドバイスして、そのせいかな、今回は過剰に出ていますね(笑)。

誠治の魅力は、俳優として隙がないところ。もう何をやっても器用。芝居も歌もうまいし、ダンスも踊れる。なにより、けん玉がすごい(笑)。すばらしい才能を持っているし、そこにいるだけでいい男だから。

――今回は、そんな二人の兄という役どころです。山口さん的な見どころは? どのような準備をしたのでしょうか。

山口 : 衣裳のフードです。こんなにフードをかぶっている役は、これまでやったことがありません(笑)。いや、本当のことを言うと、この作品で一番謎めいた役だから……言えることはなかなか限られるんですけど、見ている方には感情移入してほしいと思っています。

今回は役作りをし過ぎないようにしましたね。やるべきことは台本に書いてあるから、あとは現場に行って、役に対して自分の感情をつなげることを意識しています。長男として表に立たず、裏で家族を助けて回り、言葉に出さない寡黙な男で、雰囲気を醸し出せればと思って演じました。台詞がほとんどなくて、結構楽だなとも思いましたけど(笑)。

アクション稽古はしない、現場で作る

――アクションに関してはどうでしょう? どんな準備をするのでしょうか。いきなりはやらないですよね?

山口 : 作品によっては、アクション稽古みたいなものが前もってありますけど、俳優を30年以上やってきて、2回ぐらいしかしたことがないです(笑)。今回も「こんなふうにやろう」って、現場でリハーサルしたぐらい。

――この作品もアクション満載です。特に、格闘相手とともに滑り落ちる階段落ちの場面が注目されていますね。

山口 : あれも、前日にアクション監督の二家本(辰己)さんから電話があって、「相手の上に乗っかって、二人で階段を滑り降りてほしいんだけど、やっといて」と言われたんです。昔からお世話になっている先生なんですが、当日は現場に来ないんですよ(笑)。

ただ、二家本さんのアクションチームの人とも顔見知りで。「こんな感じでやるんだけど?」「いいですね」と、短いリハーサルだけで本番を撮りました。1回目は勢いがつき過ぎてしまってけど、2回ぐらいやったらできたのかな。

自分が転がって落ちるのは何回もあるんですけど、人の上に乗って階段を滑り落ちるのは初めてでしたが、百戦錬磨のスタントマンたちだから安心してできました。でも、年齢も年齢なんで、アクションは極力、若い人に任せたい。次回は津田寛治さん(アロハシャツの男役)にお任せしたいです(笑)。

▲小沢仁志“兄ィ”とのエピソードはたくさんある

――以前、映画『BAD CITY』で小沢仁志さんに取材した際、「ヤマがフリーで来る時間があって、殺されるかと思った」と話していました。

山口 : いやいや、逆です(笑)。おっかない人ですよ。あのときの兄ィ(小沢仁志の愛称)はちょっと異常でしたね。俺の顔を見るたび、「てめえを殺してやるからな」とずっと言っているんです。撮影最終日、ついに戦うことになった現場で、本来はアクションだから振りがあるのに、スイッチが入ったようで、あの人は誰の言うことも聞かない。

それどころか、マウントポジションを取って僕の顔面を叩いてくる場面で、本当に殴り殺そうとしてくるので思わず避けたら、兄ィは下のコンクリを思い切り叩いて、骨を折ってしまったんです。「てめぇ、避けやがったな」って。

兄ィ、本当はアクションの振りも上手なんです。それなのに、その撮影日の何日か前に坂口拓ちゃんと立ち回りをして、フリースタイルを覚えちゃった。そしたら「振りなんか無視だ。フリースタイルだ!」と言い出して、止めるのが大変でした。

所属事務所「トライストーン」の運動会に出場!?

――小沢さんから伺った話と全部逆です…(笑)。とはいえ、動ける山口さん相手ならではのエピソードですね。どんなトレーニングをしているんですか?

山口 : 痩せないように、そして怪我の防止にもなるように鍛えているだけです。走ったりはしていません。バーベルを上げているぐらいですね。本宮泰風さん、兄ィから「体の線が細いから太くしろ」と言われていて、それは絶対なので。

言われていなかったら、僕は普通に痩せていると思います(笑)。普段の僕は、ただの愛犬家ですし、生まれ変わったら俳優はやらないと思います。俳優って華やかな感じで見られていると思いますけど、実際には肉体労働者ですから。

――生まれ変わったら、何になりたいですか?

山口 : 研究者になりたい。生まれ変わったら勉強して、デスクワークをやりたいです(笑)。勝矢が俺のことを「明るいオタク」と言うんですけど、工作など細かいことが好きで、プラモデルを作るのもうまいんですよ。

▲生まれ変わったら勉強してデスクワークの仕事をしたい

――身体能力の高いイメージが強いので意外です。来年3月に開催される、所属事務所トライストーン・エンタテイメントの運動会(『Tristone Fan Fes2025 ~UNDOKAI~』)には出場するんですか?

山口 : これは強制ですから(笑)。50歳を超える俳優に「運動会に出ろ」だなんて、父兄じゃないんですから。うちの会社は20代が多いので「お前らが頑張ってくれよ」と思うんですけど……。

小栗(旬)社長から「走りましょう」と言われて、「20mだったらいいよ」と答えたんですけどね。だって50m、100mなんて走れないし。「それなら、ヤマさん。どの競技だったらいいんですか?」と聞かれたから、「アーチェリー」と答えました。これなら一番動かなくていいし、外れても笑いが取れると思ったから(笑)。

――身体能力がもったいないです。

山口 : いや、僕、身体能力はそんなに高くないと思います。JACの養成所では劣等生でしたし。当時は僕だけ中学生で、周りは高校生以上の実力のある大人たちだったから、練習についていくのが精いっぱいでした。

成長期が終わっても、ある程度動けるようになっていたのは、やっぱりJACで得た基礎が効いているのだと思います。それでも10年くらい前から、「もうアクションはそろそろ若い人に」と言ってるんですけどね……。まだまだ全然やらされています(笑)。

――小沢さんという先輩がいるので、まだまだやめられないですよね。

山口 : あの人は怪物ですから、やめないですよ。60歳過ぎて、さらに火がついています。

本宮泰風プロデュースの『日本統一』はライフワーク

――小沢さんは「50歳を過ぎて自由になった」と話していましたが、山口さんは50歳を超えて自分の変化を感じるところはありますか?

山口 : 僕は40代から、ずっと座って芝居をしたいと思っています。年齢も年齢なので、夢とか希望より棺桶のほうが近いですし(笑)。ただ、現場には携わっていたいんです。撮影現場は本当に楽しいし、自分には俳優しかできません。監督やプロデュース業は「どうしても、やりたい!」と思える作品と出会えたら考えるかもしれないけど、今のところ予定はありません。

むしろ、本宮泰風プロデュースの『日本統一』をライフワークと言っていいぐらい楽しんでいますし、一緒にいる時間が長いので、もはや親戚たちとやっているような感覚があります。本宮には100本までやってほしいと思ってます。

俳優兼プロデュースで100本やった人は日本にはいないと思うので、その記録を作れば、なかなか破られないと思っているんです。泰風には名を残してほしい。まあ、僕らがいなくなっても若いヤツらが継いで、代替わりして『日本統一』はやっていけると思います。

――任せられる若手はいますか?

山口 : 楽しみな人はいっぱいいるけれど、やっぱり、川﨑健太と北代高士には特に頑張ってほしいなと思います。北代も頼もしくなってきたけど、まだまだ次世代。健太は若くて才能豊かだし、これからが楽しみですね。

――100本を超えたお祝いも楽しみですね。

山口 : それが……50本を超えたとき、何もなかったんですよ。1日に台本にして、25~40ページくらい撮るので、常に時間に追われているからか、何本までいったか意外と現場では気がつかないものなんです。

でも、たまに打ち上げはやっていて、そのときは無礼講で下克上になるので、僕は上のほうだから下に怒られて(笑)。監督やスタッフも随分と歳を取りましたが、『日本統一』はみんな慣れているから、撮るのが早いんです。テスト1回で本番。スケジュール通りに進んで、夜遅くまで撮影することもありません。

――山口さんはどうして、そんなに現場が好きなんですか?

山口 : 現場はすごく楽しいです。歳を取れば取るほど、楽しくなってきました。若い頃のほうがOKをもらっても“本当にOKだったのかな……”と不安で、「本当に大丈夫でした?」と聞いたこともありました。今は逆に「OK」と言われたら、“OKだぜ!”って簡単に思える(笑)。

若い頃のような不安はないですし、趣味に近いのかもしれません。あとはやっぱり、昔から映画を見るのが好きだったので、そこに携わっていられることが幸せなんだと思います。

(取材:髙山 亜紀)


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