岩谷翔吾、親友・横浜流星と二人三脚で叶えた作家デビュー「ただただ流星と一緒に面白いことがしたかったんです」

「ただワクワクすることを突きつめていっただけなんです」

作家デビューを前に、THE RAMPAGE の岩谷翔吾はリラックスした様子でそう語った。

自身初となる書き下ろし小説『選択』(幻冬舎刊)。原案者として4年にわたる創作の日々を伴走したのが、俳優の横浜流星だ。

高校の同級生であり、10年来の親友である2人がタッグを組んで生まれたこの小説を、岩谷は「僕と流星の子どもみたいなもの」と目を細める。俳優とアーティスト。異例の二人三脚で生まれたデビュー作には、どんな想いが込められているのだろうか。

流星と二人三脚で書き上げた作品です

――以前から読書好きを公言されていた岩谷さん。本を好きになったきっかけはなんだったんですか。

親の影響で小さい頃から本は読んでいたんですけど、実はそこまで自分の中で近いものでもなければ遠いものではなく、という存在だったんですよ。がっつりハマりはじめたのは、THE RAMPAGEになってから。メンバーの川村壱馬が『ルビンの壺が割れた』という小説を勧めてくれて。それが面白くて、そこから小説の面白さにのめり込んでいくようになりました。

――ご自身でも書いてみたいと思うようになったのは、どういう心の変化があったんでしょう。

大きな転機はコロナですね。コロナでライブが世の中からなくなって、表現する場を失ったことによって自分の存在意義というものと改めて向き合わされました。そのときにブログの延長みたいな感覚で自叙伝を書いてみようと思いついて。最初は小説を書こうという意識ではなかったんですよ。そこから作家の三浦しをんさんとご縁がつながりまして。今だと怖くてできないんですけど、自分の書いたものをしをんさんに読んでもらったんです。

――え! あの三浦しをんさんにですか。

本当、無知だからできることですよね(笑)。ただの素人の文章の羅列だったんですけど、普段から一流の文体しか目にしていないしをんさんにとってはそれが新鮮だったのかもしれません。めちゃくちゃ面白がってくださって、そこからやりとりが始まりました。この『選択』も4年前のまだプロットの段階からしをんさんに読んでいただいていて。地の文を書く際の三人称の書き方とか、小説を書くうえで基本的なことを丁寧に教えていただきました。

――なんと贅沢なレッスンでしょう(笑)。

本当ですよね(笑)。しをんさんからありがたい言葉をたくさんいただいて、『選択』を書いてる最中も迷ったらしをんさんの言葉をよく読み返していました。

――この『選択』は、お友達である横浜流星さんが着想に関わっているそうでますね。

最初は同級生のノリというか、遊び感覚だったんです。今や流星は来年の大河ドラマの主演俳優。彼が国民的俳優に駆け上がるまでの数年間を、僕もずっとそばで見てきました。そこには、いろんな葛藤もあったと思うんですね。だからこそ、「今、どういう役をやりたいの?」とフラットに聞いたら、流星がこの『選択』の背骨となる部分の話をしはじめて。それがめっちゃ面白くて、「じゃあ書いてみる?」って、本当に軽いノリからのスタートでした。

――主人公の亮は、劣悪な家庭環境に生まれ育ち、ある選択から特殊詐欺グループの一員へと身を堕としていきます。読んでいて、自然と横浜さんの姿が想起されたのですが、やはり岩谷さんとしても横浜さんをイメージされていたんですか。

そうですね。亮については、書いているときからずっと流星の声で脳内再生されていました。流星自身も役者としてこの作品を捉えていて、演技プランまでしっかり頭の中で出来上がっていたんです。まだ僕が書いていないシーンも、先に流星が「まずここで腕を掴んで、次に振り返ったときに、こういう台詞を言って…」とかなり具体的に目の前で再現してくれて。流星がその場で演じたものを僕が文章にしていったという感じで。特に台詞に関しては流星が半分以上書いたと言っても過言じゃないくらいです。

――きっと横浜さんの中でしっくり来る台詞回しみたいなものがあったんでしょうね。

たぶん彼の中ではっきりとイメージが見えていたんだと思います。最初は亮だけだったんですけど、そのうち亮の親友である匡平だったり、恋人の美雨も「ここはこういう台詞回しで」「ここはこういう所作で」と実際に流星がやってくれて。二人三脚でつくった、という表現がバッチリ当てはまる作品になりました。

――読ませていただいて、非常に情景描写が細かく鮮やかだなと思ったのですが、エチュードをもとにした執筆だったことが、その背景にあるのかもしれませんね。

基本的にいつも流星の家で話していたんですけど、流星が即興でやる演技を脳内録画する感覚でした(笑)。時には部屋の間取りを書き起こして、亮や美雨の動きを絵にしたのを家に持って帰って、それを見ながら書くということもありましたね。

亮と匡平という名前は流星がつけました

――横浜さんの原案によってスタートした作品ですが、岩谷さん自身は社会のどん底で這いつくばるように生きる亮や、彼の行き着く裏社会に共感はあったんでしょうか。

自分の中で、小説家デビュー作でアーティストとかパフォーマーの話を書くのは避けたかったんですよ。自分のいるフィールドを題材にすると、書けて当たり前みたいな見られ方をされかねない。だったら、自分が住んでる世界とまったく違う世界を書いてやろうという反骨心が、原動力の一つになりました。

だから、亮の性格と近しいところは正直僕にはあんまりないですね。でも、僕の中で流星という明確なモデルがいたので。執筆するときは、流星のポスターをパソコンの前に貼って、行きづまって頭を抱えたときは、流星の顔を見て、流星ならこう動くかなという感じで書き進めていきました。

――そうなると、亮と対照的な存在として配置されている匡平が岩谷さんなのかしらと邪推してしまいますが……。

いや、匡平は僕ではないですね。僕と流星の中でも共通のイメージとしてある役者さんをモデルにしてはいるんですけど。先入観なく楽しんでいただきたいので、それが誰かは秘密です(笑)。

――気になりますね(笑)。

実は流星から亮と匡平の他にもう一人登場人物をつくろうという話も出ていたんですよ。その名前が翔吾なんですけど。

――そのまんま!(笑)

だから僕もそれは絶対無理って言いました(笑)。でも、流星はかなり本気だったみたいです。「なんでやらないんだよ」ってずっと言ってましたから(笑)。

――気になるのが、この亮と匡平というネーミングです。

名前は流星がつけました。亮も匡平もこれまで流星が演じてきた役の名前で。亮は、『流浪の月』をはじめ、これまで流星が何度も演じてきた役の名前。匡平は、流星が世の中の人に知ってもらうきっかけになった『初めて恋をした日に読む話』の役名です。どちらも流星にとって、すごく思い入れの深い役。ここはもう流星の強い想いで決まったところですね。

流星の家のテーブルにずっと『選択』の原稿があった

――水たまりの中に落ちた桜の花びらが自然と亮と重なるように描写されていたり、情景描写を通じて登場人物の心情が語られているところが非常に小説として優れているなと感じました。

ありがとうございます。地の文に関してはめちゃくちゃ苦労しました。最初はデビュー作ということで、エッジの効いた比喩表現にこだわりたくて、たった数行を1日かけて考えるみたいなこともあったんです。でもあるとき、流星から「荒削りでいいんじゃない?」と言われて。

僕も流星もまだ27、8歳。若い感性だから描けるスピード感を大事にしていこうと。きっと大人の方が読んだら、「ここはもっと丁寧に心理描写をして」と感じるところもあると思うんです。でもそこはあえて荒削りのまま行きたかった。

今やTikTokですら30秒というだけで長くてスクロールされる時代。そんな時代を生きる僕たちのスピード感はこれだった。ページ数も本当はもっとあったんですけど、かなり削ったんですよ。でもおかげで、今の若者はこれですと信念を持って言えるものができました。

――横浜さんとは相当推敲を重ねたんじゃないですか。

ラリーでいうと100回ぐらいはやったんじゃないかな。毎回長文のメッセージが送られてきて。あと、誤字脱字も全部指摘してくれて、スクショで送られてくるんです。

――なんと有能な……!(笑)

本当ですよね(笑)。僕も何回も読み返すんですけど、それでも見落としてしまう誤字脱字というのがあって、それを流星は全部指摘してくれる。忙しいはずなのに、一体どうやって時間を割いてるんだろうって。流星の家に行くと、いつもテーブルにそのときやっている作品の台本があって。その横に『選択』の原稿がありました。本当に高い熱量で向き合い続けてくれて、それが何よりもうれしかったです。

――書き上げたとき、横浜さんはどんな言葉をくれましたか。

それが書き上げたという実感がなくて。たぶん今も送ったら、流星から修正が来ると思うんですよ(笑)。たまたまデッドラインが来ただけというか。ラリーは本がこうして発売することになった今もずっと続いてる感じがします。

――じゃあ次のラリーも始まってそうな。

次のラリーは、この『選択』をどう広げていくかですね。

――つまりそれは映像化に向けてということでしょうか。

小説だけにこだわらず、この物語をいろんな人を巻き込んでワクワクさせるプロジェクトにしていきたいなという気持ちはあります。なので、ここからできることをどんどん進めていきたいです。

流星の背中を押すつもりで書いた

――この作品の面白いころが、人生は選択の連続であるという一方で、主人公である亮は貧困ゆえ選択肢自体にそもそも限りがあった。そこに、この格差社会の残酷さというか皮肉を感じます。

確かに亮は選択肢がなかったところから始まって、あることをきっかけに今度は逆に選択肢が増えすぎたことで路頭に迷っていく。そして、自分の選択ミスによってまた選択肢を失っていきます。でも、たとえどんな道を辿ることになっても、僕は自分の選択を信じてほしいなという気持ちがあって。自分の選択を信じられるのは自分だけ。だからせめて自分だけは自分の選んだ道を大切にしてほしいし、それは他でもない流星に向けて背中を押すつもりで書いたメッセージでもあります。

――ラストの亮を待ち構える世界は決して生易しいものではありませんが、不思議と読後は希望が残ります。

亮がやったことだけを切り取ると、きっとSNSで叩かれるようなことだと思います。でもこの小説を読み切ってくれた方なら、亮のことをただ悪い人間とは思わないと思う。これって今の社会の縮図ですよね。悪意のある切り取りによって断片的に見たものだけを信じて人を決めつけたり、変な噂がはびこる。そんな世の中で本当にいいんだろうかと。特に僕も芸能界という、得るものもあれば失うものも大きい場所に身を置く者として自分を削りながら生きているので、少しでも世の中が良くなればいいなという祈りを、微力ではありますが作品には込めさせてもらいました。

――この『選択』を執筆していた時間は、岩谷さんにとってどんなものになりましたか。

書いてるときは、これを世に出したいとか、これで売れたいみたいな気持ちはまったくなく。ただただ流星と一緒に面白いことをしたいという、ワクワクの延長線上にいた感覚だったんですね。決してビジネスでやっていたわけではなく、自然な流れでやっていたことがこうして形になった。だから、この『選択』は僕と流星の子どもみたいなものなんです。

――この『選択』を書き上げたことは、岩谷さんのこれからにも影響を与えそうですか。

作家デビューは、岩谷翔吾というアーティストにとっての第2章の始まりだと思っています。ここから岩谷翔吾というブランドをどうプロモーションしていくかは、僕自身も楽しみではあります。

この間、ほくちゃんと旅行に行きました

――ちなみに、完成した『選択』をメンバーのみなさんはお読みになりましたか。

出来上がったのが本当に先日なので、何人かにしか送っていないんですけど、メンバーの山本彰吾は「マジすごかった」と長文で感想をくれました。あと(EXILE、FANTASTICSのメンバーである)佐藤大樹が相関図を書いてくれて、それをプリントアウトしてマーカーまでいろいろ引いてあって。こういうふうに読者に届くんだって面白かったし、うれしかったです。

――個々の活動もどんどん多彩になっていくTHE RAMPAGEですが、改めてメンバーと一緒にいてここが自分の帰る場所だなとホッとする瞬間はありますか。

日々その連続ですね。僕たち、めっちゃ仲良いんですよ。それも上っ面の仲の良さじゃなくて、みんなもう大人になって、本当の意味で手を取り合える、誰かが沈みそうなときは誰かが手を差し伸べられる強いグループになったなと感じます。

――最後に、メンバーとの最近の楽しかったエピソードを聞かせてください!

この間、ほくちゃん(吉野北人)と息抜きで旅行に行きました。海の方に行って、2人で同じ部屋に泊まったんですけど、「どっちが先にお風呂入る?」とか「明日何時に起きる?」とか、そういうなんでもないやりとりが楽しくて。

結成10周年ではあるけど、逆に言うとまだ10周年。ここから5年10年とTHE RAMPAGEは突き進んでいきます。今やプロレスラーもいるぐらい(笑)、それぞれの活動に振り幅があるのがTHE RAMPAGEの武器。そんなアベンジャーズ集団の一員に僕もなれればという想いが、この『選択』にも込められています。書籍という世界からTHE RAMPAGEの火を広げていけるよう、『選択』と共に駆け抜けていきたいです!

『選択』10月10日(木)発売

https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344042827/

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取材・文/横川良明 撮影/映美 スタイリスト/吉田ケイスケ ヘアメイク/Aki(KIND)

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