シリーズの生みの親が解説! 『インサイド・ヘッド2』が“ワクワクする理由”
ディズニー&ピクサーの最新作『インサイド・ヘッド2』が日本での公開をスタートした。ピクサーといえば『トイ・ストーリー』や『モンスターズ・インク』など傑作を次々に発表する世界屈指のスタジオで、前作『インサイド・ヘッド』の監督も務めたピート・ドクターが現在、スタジオの創作のトップ=チーフ・クリエイティブ・オフィサーを務めている。
彼は本作では“会社のお偉いさん”として指示をしたり、名義だけを貸したりするのではなく、監督を務めたケルシー・マンらと「一緒に歩みながら作品づくりに参加した」という。ドクターに話を聞いた。
ピクサーの長い歴史には決して欠かすことのできない創作者たちが何人かいるが、ピート・ドクターもそのひとりだ。彼は『トイ・ストーリー』ではストーリーとキャラクター開発に携わり、『モンスターズ・インク』『カールじいさんの空飛ぶ家』を監督。成長して変化していく自身の娘を見て“彼女の頭の中では一体、何が起こっているんだろう?”と思ったことから監督作『インサイド・ヘッド』が誕生した。
その後、彼は人間の生きる意味や人生の素晴らしさを描いた『ソウルフル・ワールド』を発表。『インサイド・ヘッド』で得た気づきや、想いをさらに深化させた傑作だ。
「確かにふたつの作品は似たところがありますね。『インサイド・ヘッド』は内側について描いた物語で、『ソウルフル・ワールド』はもっと外側に意識をむけて“より大きな人生の目的”だったり、“人生のあとに来るものは何か?”について描きました。いまこうして改めて振り返ると、“生きることの意味”みたいなテーマを掘り下げるアニメーション映画をつくれたことが奇跡だったと思いますね(笑)。こういう仕事をしていると、小さな子供たちや家族みんなで楽しめる作品を求められることが多いけど、あの映画では実存主義的なテーマを扱ったわけだから」
彼の監督作ではないが『インサイド・ヘッド2』もまた『インサイド・ヘッド』『ソウルフル・ワールド』の延長線上にある。
「人生のそれぞれの段階で重要な問題は変わってくると思うんです。『ソウルフル・ワールド』のような“生きることの意味”を考える映画は若い頃にはつくろうとすら考えなかったと思うんです(笑)。若い頃は自分の人生だとか存在について考えることもなかったし、当時は好きな人が自分のことを好きでいてくれるかな? みたいなことを考えていた(笑)
『インサイド・ヘッド2』の主人公ライリーの年代は思春期で、自分が社会だったり周囲にうまくフィットしているのか? 自分が間違った行動をしていないか? 適切なことを言えているのか? が何よりも重要な時期だと思うんです」
この年代の感情を描く作品をつくるために、彼は長年にわたってピクサーのストーリー部門で活躍してきたケルシー・マンに声をかけた。
「僕は自分で続編をつくるつもりはなかったのですが、もし続編をつくるとしたら、楽しくてユーモアのある映画でなければならないことはわかっていました。ケルシーの仕事をずっと見てきましたが、彼はユーモアのセンスがあって、努力をおしまない人なので、彼が監督にピッタリだと思ったんです。そこで彼に『もし続編のアイデアがあれば出してほしいけど、無理につくる必要はないので、成立しなければそれはそれで良いと思う』と声をかけました。
すると彼が“シンパイ”というアイデアを出してくれた。このキャラクターがいることで、あの年代の誰もが感じる不安とか、自分は適切ではないんじゃないかという気持ちが感じられる。あの瞬間、彼を監督に選んで本当に良かったと思いました」
思春期を迎えた女の子ライリーは人生の新たな岐路に立っている。無邪気に過ごした幼少期を過ぎ、彼女の頭の中には新しい感情が芽生えつつある。最悪の未来を想像して過剰に防衛してしまう“シンパイ”や、周囲がうらやましいと思ってしまう“イイナー”、退屈で無気力な気持ちが支配する”ダリィ”など、彼女の頭の中は新たな感情でいっぱい。さらに高校入学を前にライリーは親友とすれ違い、将来への不安、新たな環境への戸惑いなど問題が山積みになる。つまり、彼女の“内側”も“外側”も嵐が吹き荒れるのだ。
「このような物語を語る最大の喜びは、抽象的な感情や感覚を、物理的なものとして表現できることにあるんです。物語をつくり、キャラクターとして描けば、抽象的なものにカメラを向けて、キャラクターのやりとりとして描くことができる。
『インサイド・ヘッド』シリーズも、口で説明しようとするとすごく複雑に思えるけど、物語にして“相手に見せられる状態”にすると、スルッと理解できてしまう。だから小さな子どもたちも劇中で描かれる信念だったり、将来への不安や心配について知識や経験がなくても、ビジュアルとストーリーで“見られる”状態になっているから共感してもらえると思います」
ピクサー作品を作る上で“最も大事な力”とは?
とは言え、それを実際に物語にして、キャラクターにして描くのは至難のワザ。ピクサー作品は完成した映画を観ると「ああ、わかる! こんな感情、自分にもある」と思うが、作り手はそれをどうやって表現するのか、ヒントすらない状態から創作をはじめるのだ。
“幼い子どもを前に右往左往してしまう親の混乱と、言葉にできないほどの子への愛情”を表現するために、どうするか? 彼らは完全白紙の状態からアイデアを出しては捨て、出しては捨て……をくり返して、赤ちゃんの悲鳴を集めている会社で働くモンスターの物語にたどり着き、『モンスターズ・インク』が生まれた。最初に答えがあるわけではない。
「その通りだと思います! 最初から僕たちが“この感情ってこういうことだよね”って出してしまうと、すごい説教くさい映画になってしまうと思うんです(笑)。だから、僕が手がけた映画はすべて何かしらのミステリーから始まるんですね。最初からすべてがわかっているわけではなくて、あそこに陸がある気がするので、船で行ってみよう、みたいなやり方で発見しながら映画をつくっていく。そんな僕たち作り手の感覚や感情が観客のみなさんに伝わることで、ワクワクする映画になるんだと思います」
映画づくりは、答えを形にする作業ではなく“答えを探す”旅。監督ではなく、ピクサー全体を束ねる立場になった現在も、ピート・ドクターのマインドは変わらないようだ。
「本作では創作のフェーズによって関わり方が変化しました。まず最初は監督のケルシーと一緒に“ストーリーテラー”として同じ理解にたどり着くようにします。そこが達成できたら、僕は場所を空けて、あとはケルシーのチームに委ねるんです。
彼らは数ヶ月に一度、物語を持ってきてくれるので僕は“観客の代理”として物語に向き合って、この部分は混乱するな、とか、ここでこんな感情になってほしいのに、そうならないのはなぜだろう? と彼らに返すわけです。そこには僕だけじゃなくてストーリー部門のスタッフもいて、なぜこのストーリーがうまく成立していないのか、みんなで分析していくんです。でも、僕から“こうしなさい”と言うことはありません。
それから、この作品だけの特別な事情で言うと、昨年の秋に俳優組合、脚本家組合のストライキがあって、作品を期日までに完成させなければならない、というプレッシャーがすごく高まった時期がありました。そこでこの作品に限って、僕が久しぶりにアニメーターたちと一緒に仕事をしたり、映画の後半3分の1のクリエイションに関わることになりました。それは喜び以外のなにものでもなかったですね。
とは言え、本作の監督はケルシー・マンです。僕は彼のことを尊敬しているから、あくまでも一緒に歩みながら作品づくりに参加した、ということです」
ピート・ドクターや監督、ピクサーの面々は本作でも“完全に白紙”の状態から創作を開始した。思春期の子の頭の中はどうなっているのだろう? 自分が他人と違うとして、それはどこで決まるのだろう? 数々の疑問と発見、そこで生まれた感情の動きが物語に盛り込まれ、何度も何度も失敗したり、書き直したりしながら『インサイド・ヘッド2』の物語が完成した。
ピクサーの旅は続く。彼らが諦めずに何度も物語を書き直し続ける限り、私たちは映画館で忘れられない時間を過ごすことになるだろう。ドクターは笑顔でこう語る。
「僕たちに必要なのは、才能ではなく、何があっても最後までやり抜こうとする力です」
映画『インサイド・ヘッド2』
公開中
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08/02 12:00
ぴあ