『インサイド・ヘッド2』監督&製作者が語る“良い続編の条件”
ディズニー&ピクサーの映画最新作『インサイド・ヘッド2』がいよいよ明日8月1日(木)から公開になる。本作は、人間の頭の中の感情を描いた作品で、思春期を迎えた女の子ライリーのドラマと彼女の頭の中が描かれるが、物語を動かす最大のアクターは“頭の中”ではなく、彼女の“周囲”にある。
年齢を重ね、はじめて社会や周囲を強く意識するようになった彼女を最も揺さぶるものは何か? そして、彼女はどんな感情を見つけていくのか? 監督を務めたケルシー・マンと、プロデューサーのマーク・ニールセンに話を聞いた。
人間の頭の中はどうなっているんだろう? 私たちはなぜ喜んだり、悲しくなったりするのだろう? いつまでも覚えている記憶もあれば、すぐに忘れてしまう出来事があるのはなぜだろう? そんな人間の記憶や感情の不思議を、小さな女の子ライリーの頭の中を舞台に描いたのが傑作『インサイド・ヘッド』だ。『モンスターズ・インク』などを手がけたピート・ドクターが自身の娘を見て思いついたストーリーは多くの観客のハートを(そして頭の中を)魅了し、映画は大ヒットを記録した。
あれから9年。シリーズの生みの親ピート・ドクターは続編をまったく考えていなかったという。
「2019年の年末にピートから声をかけられたんです」とケルシー・マン監督は振り返る。
「彼は『僕は続編をつくる気はないけど、みんながインサイド・ヘッドの続編はありなんじゃないかと言うんだ。でも僕にはアイデアがない。君なら何かアイデアを持っているんじゃないかと思って』と言うんです。そこで2020年の1月からプロジェクトがスタートしました」
相棒になったのは、プロデューサーのマーク・ニールセンだ。
「幸運なことに私は前作でアソシエイト・プロデューサーとしてピートと一緒に仕事をしました。でも時が経ち、ピートは現在、ピクサーの“チーフ・クリエイティブ・オフィサー”として自分で監督するのではなく、才能のある監督たちに新しい映画をつくってもらう役目を担っています。そこでピートがケルシーを続編の監督に選んだのです。
私とケルシーはおっしゃる通り、相棒=パートナーだと思います。それぞれが違う強みを持ち寄るわけですね。本作では400人のメンバーで4年間で映画を完成させるチャレンジをしました。ピクサーはキャラクターをデザインした村山佳子さんのような才能あふれるトップクリエイターが揃っているので、彼らとチームを組んでビジョンを決めて一緒に仕事ができるんです。プロデューサーとしてこんなにうれしいことはありません」
プロジェクトが始まり、マン監督はチームを結成しアイデア出しを開始した。なお、この段階では続編を本当につくるかどうか決まっていなかったという。
「ピートは、僕たちが本当に面白いと思えるストーリーが見つからなければ無理に続編をつくる必要はないのでやめにしても大丈夫、と言っていました。彼は最高のコラボレーターですし、圧倒的な自由を僕にくれました。ですから、本作はオリジナルの作品をつくる気分で、自分のパーソナルな要素を取り入れて映画をつくろうとしたのです。
というのも、僕は最初に“映画の続編”の中で自分の好きなもの、映画としてうまくいってるものとそうでないもののリストを書き出してみたんです。そこでわかったのは、良い続編というのは、必ず新しいことをやっていたんです。オリジナルな魅力があり、新しいドアを開くものが良い続編だと。試しにスタジオのメンバーに“良い続編をつくる秘訣はありますか?”と聞いたら『その映画をオリジナル映画だと思えば思うほど良い続編になるよ』と言われました(笑)」(マン監督)
本作の主人公ライリーは思春期を迎え、頭の中に新しい感情たちが登場する。最悪の想像をして必要以上に未来に備える“シンパイ”や、周囲の人をうらやましいと思ってしまう“イイナー”など、幼い頃にはなかった感情たちがライリーの頭の中で嵐を巻き起こす。
さらにライリーは高校入学前にホッケーキャンプに出かけ、そこで親友たちが同じ学校に進学しないと知って動揺したり、憧れの選手たちの前でアタフタしたりと、自分の中に芽生える感情に翻弄されてしまう。つまり、彼女の頭の中は大混乱だ。ヨロコビら彼女を幼い頃から見守ってきた感情たちは、新しい感情のシンパイによって隔離されてしまい、そのことでライリーはさらに不安定になっていく。
「新しくて、前作とは違っていて、広がりがある」
この映画の最大のポイントは、物語の舞台が“頭の中”で、そこで起こる出来事がライリーの感情に影響をおよぼしているように思えるが、実はその逆で、ライリーの変化はいつも“外部”からもらたされることだ。
誰でも幼い頃は他人のことなんか眼中にない。自分ひとりで夢中で遊んでいると1日が過ぎていく。しかし、年齢を重ねると他人の目が気になる、友達が自分のことをどう思っているのか不安になる。大勢のいる場で失敗したらどうしよう? と思ってしまう。
「そうなんですよ。外の世界が内側の世界に影響を与えるんです」とマン監督は語る。
「人間は誰でもそうですし、特に10代になると外の世界の出来事が気になり、自意識が大きくなって、周囲とくらべたり、私のことをどう思っているんだろう? 私のことを好きなのか? 嫌いなのか? つまり、ライリーは自分が友達や仲間、周囲にフィットしているかが気になります。もちろん、彼女の内面の世界にある喜びや心配、恥ずかしさ、怒りも大事ですよね」
“頭の中”だけで話が進んで物語が完結すれば、どんな問題が起こったとしても、それは“ひとりで勝手に悩んで、ひとりで勝手に解決して明るくなった人”ということになってしまう。そんな人間が見つけた“自分自身を好きになる方法”など魅力的なはずがない。
しかし、本作に登場するライリーは、良い時も悪い時も友達や仲間や周囲と関わり合い、時に予想外の反応に傷ついたり、未熟さから相手に冷たくしてしまったりする。人はいつも誰かと関わっている。誰かの言葉や態度で揺さぶられたり、悲しくなったりする。その一方で、誰かの意外な言葉や行動に助けられたり、笑顔になったりもする。
人は頭の中だけで生きているわけじゃない。誰かと触れ合い、ものと触れ合い、陽の光にさえ心が動く。“頭の中”という不思議な世界が舞台のはずの本作が圧倒的に身近で、共感できて、最後には感動してしまう理由はここにある。
「この映画にはいろんな側面があるんです。大きく分けるとライリーの“頭の中”と“外の世界”ということになりますが、頭の中には司令部があって、司令部の外部にも世界があって、そこにいる感情たちが二手に分かれて、外の世界でも新たな展開があり……いくつもの要素が絡み合っているんです(笑)。だからこそ、この映画をつくる上で最も大事で、最も難しかったのは、それらのバランスをいかにとるか? ということでした」(マン監督)
本作はインサイド・ヘッド=頭の中を描いている。しかし“頭でっかち”な映画ではない。誰もが経験する/してきた出会いや、失敗、動揺、不安、喜び、気恥ずかしさ、感動がつまっていて、頭ではなく心が動く作品だ。そして、前作を愛した人だけでなく、本作から観る人も満足できる“新しい映画”になった。
「本作は前作とつながっている部分を描きながらも、新しくて、前作とは違っていて、広がりがある。物語として前作よりも成長しているものを目指しました!」(マン監督)
映画『インサイド・ヘッド2』
8月1日(木) 公開
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07/31 12:00
ぴあ