村上春樹「それほど脅威には感じていないと思いますね」AIをめぐるリスナーの質問に回答

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。2023年12月31日(日)の放送は「村上RADIO~いろんなお便りを読みながら大晦日~」をオンエア。
今回は、リスナーの皆さんからいただいたメールを読んで、村上さんがお答えしていく特別回。仕事にまつわる質問から、プライベートにまつわるものまで幅広い質問に答え、大晦日にぴったりな楽曲とともに紹介しました。
この記事では、「作家さんとしてAIについてどう思いますか?」という質問に答えたパートを紹介します。



<オープニング曲>
Donald Fagen「Madison Time」


今日はリスナーのみなさんからいただいたメールを読んで、そのあいだ、例によってあれこれ、興味深いと言えなくもない雑多な音楽をかけていきます。

この番組は原則的にリクエストをとっていませんし、メールの紹介もほとんどしていないのですが、にもかかわらず村上宛てに、また番組宛てにたくさんのお便りをいただいております。今年もこれで最終回になりますので、罪滅ぼしにというか、感謝の念を込めて、できるだけたくさんのお便りを紹介できればと思います。猫の手も借りたい季節なので、猫山さんにもメールの整理を手伝っていただきます。(ニャー)

◆The Jazz Crusaders「Thank You Falettinme Be Mice Elf Agin」

今日はできるだけたくさんのお便りを紹介できればと思います。

電脳遣いさん(22歳、男性、東京都)からのメールです。
<村上さんは昨今のAIについてどう思われますか。AIが絵を描いたり、文章を書くのが好きだと聞いて、ちょっと人間らしさを感じてしまいますが、作家さんとしては死活問題だと思いますので聞いてみたいです(僕がこう言った分野の仕事をしているので自責の念もあります)>

そうですか、コンピュータ関係の仕事をしておられるのですね。最近よくこの手の質問を受けます。作家はものを書くAIの進化を脅威に感じているのではないか。まあ、作家にもいろんなタイプがあると思うし、いろんな考え方があると思うのですが、でも僕自身に関して言えば、それほど脅威には感じていないと思いますね。

というのは、小説を書いている僕の頭って、考えてみればバグだらけなんです。そのバグをいっぱい含んだ、虫食いだらけの不完全きわまりない頭で、日々切々と作り話を書き連ねているわけです。人間の頭って、なんていうのかな、その程度のいい加減さでちょうどいいんです。その「いい加減さの頃合い」の見計らい方は、AIには体得できないことじゃないかな。もしそれだけの量のバグをAIに注入したら、きっとその場でどかんと爆発とかしちゃうだろうと思いますよ。だから小説家の行く末のことはあまり気にしないで、がんばって電脳関係のお仕事に励んでください。
ジャズ・クルセーダーズの全盛期の超かっこいい演奏を聴いてください。「Thank you(for letting me be myself again)」、僕を正気に戻してくれてありがとう。



番組では他にも、「どうやって的確で分かりやすい文章を書いていますか?」など仕事にまつわる質問から、「村上さんは何もやる気が起きないときはどうしますか?」「男女間のパートナーシップを良好に保つために、村上さんが心掛けていることは?」などプライベートにまつわる質問にも答えました。

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2023年12月31日放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 2023年1月8日(月)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。

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<番組概要>
番組名:村上RADIO~いろんなお便りを読みながら大晦日~
放送日時:12月31日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/

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