村上春樹 20歳のリスナーの質問に答えて、「つまらないもの、役に立たないものも、ときには意外に人を助けてくれます」

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。2023年12月31日(日)の放送は「村上RADIO~いろんなお便りを読みながら大晦日~」をオンエア。
今回は、リスナーの皆さんからいただいたメールを読んで、村上さんがお答えしていく特別回。仕事にまつわる質問から、プライベートにまつわるものまで幅広い質問に答え、大晦日にぴったりな楽曲とともに紹介しました。
この記事では、「村上さんは何かする気が起きない時に、とりあえずすることはありますか」という質問に答えたパートの模様を紹介します。



◆James Taylor「Auld Lang Syne」

フランツ アルヴィエさん(20歳、男性、兵庫県)
<普段自分が聴いている範囲外の音楽を知ることができるので毎月楽しく聴いています。大学に行く気が起きず、神戸三宮駅からなんとなくいつものカフェのほうへ歩いていると、すれ違う人々は目的地に向かって真っ直ぐ歩いていました。目的を持っている人は、持っていない人と比べて歩くリズムとペースが違います。今朝は人の流れに馴染めない自分に嫌悪感と疎外感を感じましたが、ラジオを聴いてその日は楽しく過ごせました。村上さんは何かする気が起きない時に、とりあえずすることはありますか>

うーん、あなたの気持ち、とてもよくわかります。僕も20歳の頃は、それとほぼ同じような生活を送っていました。人の流れに馴染めず、何かをしようという気がなかなか起きないんです。大学にも行かず、まあ当時はストライキなんかがあって、大学に行こうと思っても大学が閉まっていたりしたんですが、3本立ての映画館に通ったり、ジャズ喫茶で何時間もねばったりして、アンニュイに日々を過ごしていました。

そういう日々を今になって回想して思うのですが、行く気が起きなくても、やはり大学には日々がんばって行かれたほうがいいと思います。大学の講義はつまらないものが少なくないですし、「こんなもの何の役に立つんだ?」って言いたくなるようなものもたしかにあります。それはよくわかります。でもそれはそれとして、毎日の生活にリズムをつけることって大事です。いったんリズムが身につけば、物事はたぶん少しずつ良い方向に流れていきます。
つまらないもの、役に立たないものも、ときには意外に人を助けてくれます。試してみてください。
大学を3回も留年した僕がこんなことを言うのも、なんだか気が引けるんですけど。

さっきかけたケイト・テイラーのお兄さん、ジェームズ・テイラーが「蛍の光」を歌います。年末感が漂います。



番組では他にも、「作家さんとしてAIについてどう思いますか?」「どうやって的確で分かりやすい文章を書いていますか?」など仕事にまつわる質問から、「男女間のパートナーシップを良好に保つために、村上さんが心掛けていることは?」などプライベートにまつわる質問にも答えました。

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2023年12月31日放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 2024年1月8日(月・祝)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。

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<番組概要>
番組名:村上RADIO~いろんなお便りを読みながら大晦日~
放送日時:12月31日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/

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