村上春樹「いろんな面倒を満遍なく背負い込むのが僕らの人生。最後までできるだけユーモアを忘れないようにがんばりましょう」

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。11月26日(日)の放送は「村上RADIO~秋の夜長はジャズ・クラリネットで~」をオンエア。村上DJが所有しているアナログ・レコードをメインに、スイング時代から現代まで、優れたクラリネット演奏の楽曲をかけていきました。
この記事では、後半1曲と「クロージング曲」「今日の言葉」を紹介します。



◆Lester Young「I've Got A Date With A Dream」
レスター・ヤングはテナーサックスの巨匠と言われていますが、この人のクラリネットも実に良いんです。ただそれほどしょっちゅう吹くわけではなく、ときどき思い出したみたいに引っ張り出して吹いています。
僕がとりわけ好きなのは、ビリー・ホリデイと共演したこの曲です。「I've Got A Date With A Dream(私は夢とデートをした)」。
1938年のSP録音なので、録音時間は3分に限られています。でもこの2分46秒の中に音楽が見事に凝縮されています。いわゆる「3分間芸術」ですね。まずバック・クレイトンのトランペットのイントロがあり、ビリー・ホリデイが歌い、それからディッキー・ウェルズの練れたトロンボーン・ソロがあり、そのあとにレスターのクラリネット・ソロがあります。不思議なくらい短いソロなんですが、歌手にそっと寄り添う心根の感じられる、素敵なクラリネットのサウンドです。

<クロージング曲>
Artie Shaw And His Orchestra「Moonglow」

今日のクロージングの音楽は、アーティ・ショウが演奏する「ムーングロウ」です。アーティ・ショウは白人ビッグバンドの人気ナンバーワンの座を、ベニー・グッドマンと争った人です。8回も結婚して、その中にはエヴァ・ガードナーとラナ・ターナーも含まれています。いや、すごいですよね。もてたんですね。1954年に音楽界を引退し、何冊も小説を書いたりして、悠々自適の人生を送りました。美しい音色で上品にスイングするのがこの人のスタイルです。



ジャズ・クラリネット特集、いかがでしたか? 楽しんでいただけましたでしょうか? スタン・ゲッツがクラリネットをちょこっと吹いている珍しいレコードもうちにあるんですが、今日はそこまでかけられませんでした。残念。



ここでお知らせです。12月20日(水)に早稲田大学の国際文学館(村上春樹ライブラリー)で「村上RADIO」の公開録音を行います。今回のゲストは翻訳家の柴田元幸さんです。「ポップミュージックで英語のお勉強」というテーマで、2人で話をします。

この公開録音に、リスナーを10名、招待します。日時をもう1回いいますね。来月12月20日(水)、夕方6時からです。応募の締め切りは12月3日(金)です。詳しいことは番組サイトを確認して、応募してください。



今日の最後の言葉は、ウディ・アレンさんです。彼は死ぬことについて、こう言っています。

「死ぬのは別に怖くない。ただそのとき、その場に居合わせたくないだけだ」

いかにもウディ・アレンらしい、ちょっぴりダークなユーモアです。うーん、たしかに自分が死ぬ現場に自分が居合わせなければ、いろんな面倒なことは考えずに済んでいいかもしれませんね。でもまあ、いろんな面倒を満遍(まんべん)なく背負い込むのが僕らの人生です。最後までできるだけユーモアを忘れないようにがんばりましょう。

それではまた来月。

----------------------------------------------------
11月26日放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 2023年12月4日(月) AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。

----------------------------------------------------

<番組概要>
番組名:村上RADIO ~秋の夜長はジャズ・クラリネットで~
放送日時:11月26日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/

ジャンルで探す